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後編
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どうせ女性看護師さんと医師に直腸見られて「はいイボ痔ですねー」という辱めプレイで終わると思ってたのに。
「週明けカメラ入れようか。前日は大腸カメラ用のレトルト食あるからそれ食べて、晩に下剤これ丸一本飲んでね。帰りは薬でぼーっとしてるから運転しないように」
って一気にえらい事になったんだけど。
リーマンの悲しい性で「週明けは勘弁してください」とお願いしまくって週末にしてもらった。そんなに緊急を要する事なのかと思ったけど、「まぁまだ若いしね」としぶしぶ了承してもらえた。
「大腸がん検診って40歳かららしくてさ。それに比べると35ってのはまだ早いって事らしい。ただ診といて損はないみたいな?」
週明け、相変わらず心配そうな後輩に説明してやる。
受診した時点でも大腸カメラ入れるから次の土曜出勤は休むと連絡はしてたんだが。
「カメラ入れた日って帰り車運転できないんですよね? クルマ出しますよ」
「まじでか」
なんでそんなの調べてるの。仕事も気遣いも出来る子はやっぱ違うな。
「めちゃくちゃ申し訳ないけどすげぇ助かる」
タクシー使うしかないかと思ってた。一番近場の病院を選んだから大した額にはならないものの面倒だったし帰りは自分がどんな状態なのか想像も出来ないからありがたい。
「足代出すわ」
「近場じゃないですか。いいっすよ」
と久々に笑顔を見せた。
おお、なんかちょっとクる笑顔持って来やがったな。
※
金曜の朝・昼は「お粥+スープ」のレトルト、夜はスープだけだった。案外どれも美味かった。他に間食用っていうカ〇リーメイトみたいなビスケットも入ってたからこれも遠慮なく完食。
めっちゃ腹減るんだろうなと思ったけど、翌日の事を考えると緊張であんまり腹減らなかった。
「夜、下剤飲んでいただけました? お通じありました? 何回ありました?」
土曜当日は血圧やら酸素量やら調べながらそんな会話から始まって。
まだまだ恥ずかしい目に遭うのは分かってたから「5回くらいですね」と余裕を見せて受け応えした。
あの目薬みたいな容器の下剤だって本来なら数滴ずつ飲む奴じゃねぇの?
それを1本一気飲みって。
しかもそれだけじゃなくて。
「2リットルあるんですけど、これを二時間くらいで飲んでいただきます。180ccを15分かけて飲む感じで。皆さんはじめは15分きっちりで飲まれるんですけだんだんペースが落ちてくるのは仕方ないので。糖尿病がなければ飴食べていただいていいので、置いときますね。1時間くらいしたら効いて来ますので出たら呼んでくださいね」
じゃあ頑張ってくださいとばかりにトイレ付きのちいさな個室に放置された。
テレビと時計、それに雑誌、そして小さなシングルソファ。使い捨てのスリッパに履き替えさせられてホテルっぽくもあるが麦茶を入れるようなボトルに入れられた2リットルの下剤が小さなテーブルの上に鎮座している。
「さてやるかね」
メモリの入った透明プラスチックのコップに180㏄を注いだ。
予め「まっずいスポーツドリンクみたいな味です」と説明されて構えていたせいか、それほど飲みにくいという事もなく順調に進んではいるが、出したモンを見せないといけないのがなんとも申し訳ないやらいたたまれないやらで。
「夜5回出されてるだけあっていい感じですね」
と言う若い看護師さんの笑顔がつらい。
案外2リットル軽くイケるんじゃね?と思っていたが、2時間近く経つと段々なんとはなしに全体的に疲れてきた。
「カスがなくなるまでなのでもうちょっとですね。残ってるときれいに見えなくなってしまうので。あと1回見せてもらっていいですか」
そして看護師さんのお許しが出て、下剤も200㏄ほど残したところで「もう飲まなくていいですよ」と片付けられた。
Tシャツの上から不織布の施術着を被り、下は裸にハーフ丈の不織布の施術着に着替えさせられたんだが、これが尻に大きなスリットが入ってるやつでこれまたいたたまれなさと緊張感がすごかった。
上衣の丈が長いとはいえ、こんな露出一歩手前の服装で部屋を出るとかこれからカメラを入れるという緊張とはまた別の緊張があった。
処置室の台に乗って「あたまがちょっとぼーっとする薬」を二の腕に筋肉注射でいれられる。
あー、やっぱ地味に痛い。
反対の腕には点滴。室内には看護師さんが3~4人いて点滴やら注射やらそれはもうテキパキと見事に準備してくれた。
何の点滴か好奇心で聞いたけど分からんかった。緊急時にすぐに必要な点滴を体内に入れるための導線確保の点滴らしい、たぶん。
受け答えしているのにイマイチ内容が分からなくなってきてもう意識がふわふわして来てるのか、と思ったら腹の内部に衝撃。
え、先生いつこの部屋入ったの?
今なんも言わずに突っ込んだ?
そして冒頭のあれだよ。
めっちゃ痛い。
もっとがっつり意識無くして欲しかった。
予定通り14時過ぎに終わり、後輩にお迎え依頼の連絡をする。
終わった後は自分の足で別のベッドに移動して点滴を入れたままウトウト寝てた。腹の痛みもなく、このままずっと寝てたいような感覚だったけど小一時間休んだ後きっちり起こされて先生の診断を受けて終わった。
※
約六時間ぶりに見る後輩の顔にものすごくほっとした。
カメラ入れてる間、呻く俺の足をずっとさすってくれてた看護師さんレベルにありがたく感じる。あ、でも看護師さんは無言でせめて「もう少しですよー」とか言ってくれても良かったんじゃないかな。
いや言ってくれてたけど聞こえてなかったのか?
痛みに耐えてずっと目もつむってたしな。
「癌でもイボ痔でもなかったわ。つーかなんもなかった。3年は大腸がんの検診受けなくていいってさ」
良かったですね、と安堵の溜め息をつく後輩は本当に安心した様子で、心配やら面倒やらかけて悪かったなーと思う。
「じゃあなんで血が出てたんですか?」
「炎症っつーの?出口に近いトコがちょっとだけ赤くなってた。しかも治りかけ」
まあ、下剤飲んでる間も「出血ありませんね」って出したモン確認してくれた看護師さん言ってたんだよな。
「ストレスらしいんだけどな。出血したら入れろって座薬だけ出た。ボラギ〇ールみたいなチューブタイプのやつも座薬って言うんだな」
疲れが抜けなくてぐったりだらりとシートに体を預けたものの、何もなかったという安心感からハイになってるのか口だけは良く回る。
「宿便って知ってる? あれは無いって大腸カメラすると良く分かるわ。そんなもん一切出なかったのに中めっちゃキレイだった」
先生に盲腸、大腸、S状結腸、直腸と奥から順にピンク色が広がる映像をみせてもらったが、汚れゼロでキレイすぎてグロさもゼロ。
身体は疲労困憊なのに妙に機嫌のいい俺とは逆に、後輩はずいぶんと口数が少ない。
何やらテンションの低い後輩が夕食に作ってくれたのは胃への優しさしかない煮込みうどん。
本当に仕事も気遣いも出来るいい男だ。
そんな男が食後、食器を洗いながらぽつりと言った。
「ストレスってやっぱ俺のせいですかね」
「あ?」
思わず「何言ってんだコイツ」的な「あ?」になった。
「俺が言ったから血が出るほどのストレス感じたって事ですよね」
食器を洗う手を止めた後輩はぐっと何かに耐える用に体をこわばらせていた。
「オマエなに言ってんの? 先週までの仕事に決まってんじゃねーか」
馬鹿じゃねーの。
びっくりしたわ。
「お前の事なんかほとんど悩んでねえっつの。わー、男同士ってどうやるんだろーってウキウキしながらネット見たっつーの。そしたら下血して『え、これイボ痔とかなら出来ないんじゃね?』って病院探したっつーの。じゃなかったらこんなに早く病院行ったりせんわ」
それこそしばらく様子見るっつーの。
「……先輩、何言ってるんすか」
おい、お前そのひたすら可愛そうな子を見るみたいな顔やめろ。
「アホですか」
あ、言いやがった。
「あんたノンケじゃないですか。なに好奇心で片足つっこもうとしてるんですか」
「言い出したお前が言っていい言葉じゃねーな」
その気にさせといて何を言うのか。
本当にひどい話だと思う。
「あんなの言葉遊びでしょ。ちょっと触れたらラッキーくらいにしか思ってませんよ」
「クソ、遊ばれたのかよ。こっちは今日すげぇひどい目に遭ったのに」
ちょっと傷付いた風を装ってみたら。
「それはッ……悪いと思ってますけど」
案の定、めっちゃ慌てた顔をする。
よしよし、ちゃんと反省しているようだ。
だから。
「いーんだよ、こっちはお前とイチャイチャしても嫌じゃなかったし、気持ちよかったし」
笑ってやった。
「先輩、ホント無駄に男前ですよね」
「無駄は余計だバーカ」
オシャレちゃぶ台で偉そうに上げ膳据え膳してもらっていた俺の膝先に膝をついた後輩に抱きしめられる。
「なんか、いろいろ心配かけて悪かったな」
ポンポンと頭を叩いてやれば、答える代わりにぎゅっと腕を締められた。
おお、やっぱ男の抱擁はつえぇな。
でも気持ちいいんだよなぁ。
※
「いー、いだだだだだだ」
翌日、「腹筋が筋肉痛」みたいな痛みに襲われた。
じくじくと痛む。
昨日のカメラで内部が傷ついたのかと不安になる。
健康だったのにカメラで負傷とかシャレにならんのだけど!
めっちゃゴツゴツ突っ込まれたけど、あれが悪かったんじゃね?
あの医者ヤブだったのか?
動けるし、飯も食える。けど痛い。
朝は雑炊を出してもらったが、もういいかげん普通のものも食べたい的な事を呟いたら昼は食パンと目玉焼きでラピュタパンをしてくれた。
食パンとベーコンの冷凍ストックがあるってオマ、オマ!ってなる。
しかも病院が休みだから電話も出来ずじわじわ不安になっていた俺に代わり、民間保険会社の健康相談の電話サービスに問い合わせてくれた。
腹痛はカメラを入れている間、ガスを入れて腸を広げたせいらしい。
そう言う事は病院も言ってくれよ!
「出血がないなら様子見で大丈夫らしいです。明日にはほぼ治まるっぽいですけど救急行きます?」
このスパダリめ。
とりあえず様子見るわ。
コイツんちの冷蔵庫にはいつも「救急病院当番表」が貼ってあって「毎月広報から切り取るってお前はオカンか」とか笑ってたけど、こういう時に要るんだなと実感させられた。
ふー、と痛みを堪えながら人間をダメにするビーズクッションに体を預け、まだどこか心配そうな顔つきの後輩を見上げる。
「どのくらいまでやったらいいか分かったから、また今度ナカ綺麗にするわ。せっかく今キレイだろうに悪いな。ちなみに俺ってまだ処女だと思う?」
さすがに大腸カメラ入れた当日、コトに及ぶ気にはお互いなれなかったもんで。
「医療行為が含まれるわけないでしょ!」
後輩の剣幕にゲラゲラ笑う。
「良かった良かった、お前に処女をくれてやろう」
「アンタ、ホントそういうトコですよ!」
憤死しそうな後輩に「そういうトコがいいんだろ?」と追い打ちをかければ「そうですよ!」とキレられた。元気で何より。
健康って素晴らしい。
全快後、待ってましたとばかりにいざコトに及んだら「頼むからもう入れてくれ」と懇願するレベルにめっちゃほぐされ愛を感じまくった。
後輩に惚れ直すわと言ったら「フツーですから! いきなりブチ込むわけないでしょ!」と吠えられた。
ありがてぇ。
*******************************
ちなみに今回の執筆にあたりS字結腸はBL特有の器官なんだな、と認識を改めた次第であります。
結論;S状結腸はブチ抜いちゃダメ。(ただしBLでのS字結腸に限り可)
「週明けカメラ入れようか。前日は大腸カメラ用のレトルト食あるからそれ食べて、晩に下剤これ丸一本飲んでね。帰りは薬でぼーっとしてるから運転しないように」
って一気にえらい事になったんだけど。
リーマンの悲しい性で「週明けは勘弁してください」とお願いしまくって週末にしてもらった。そんなに緊急を要する事なのかと思ったけど、「まぁまだ若いしね」としぶしぶ了承してもらえた。
「大腸がん検診って40歳かららしくてさ。それに比べると35ってのはまだ早いって事らしい。ただ診といて損はないみたいな?」
週明け、相変わらず心配そうな後輩に説明してやる。
受診した時点でも大腸カメラ入れるから次の土曜出勤は休むと連絡はしてたんだが。
「カメラ入れた日って帰り車運転できないんですよね? クルマ出しますよ」
「まじでか」
なんでそんなの調べてるの。仕事も気遣いも出来る子はやっぱ違うな。
「めちゃくちゃ申し訳ないけどすげぇ助かる」
タクシー使うしかないかと思ってた。一番近場の病院を選んだから大した額にはならないものの面倒だったし帰りは自分がどんな状態なのか想像も出来ないからありがたい。
「足代出すわ」
「近場じゃないですか。いいっすよ」
と久々に笑顔を見せた。
おお、なんかちょっとクる笑顔持って来やがったな。
※
金曜の朝・昼は「お粥+スープ」のレトルト、夜はスープだけだった。案外どれも美味かった。他に間食用っていうカ〇リーメイトみたいなビスケットも入ってたからこれも遠慮なく完食。
めっちゃ腹減るんだろうなと思ったけど、翌日の事を考えると緊張であんまり腹減らなかった。
「夜、下剤飲んでいただけました? お通じありました? 何回ありました?」
土曜当日は血圧やら酸素量やら調べながらそんな会話から始まって。
まだまだ恥ずかしい目に遭うのは分かってたから「5回くらいですね」と余裕を見せて受け応えした。
あの目薬みたいな容器の下剤だって本来なら数滴ずつ飲む奴じゃねぇの?
それを1本一気飲みって。
しかもそれだけじゃなくて。
「2リットルあるんですけど、これを二時間くらいで飲んでいただきます。180ccを15分かけて飲む感じで。皆さんはじめは15分きっちりで飲まれるんですけだんだんペースが落ちてくるのは仕方ないので。糖尿病がなければ飴食べていただいていいので、置いときますね。1時間くらいしたら効いて来ますので出たら呼んでくださいね」
じゃあ頑張ってくださいとばかりにトイレ付きのちいさな個室に放置された。
テレビと時計、それに雑誌、そして小さなシングルソファ。使い捨てのスリッパに履き替えさせられてホテルっぽくもあるが麦茶を入れるようなボトルに入れられた2リットルの下剤が小さなテーブルの上に鎮座している。
「さてやるかね」
メモリの入った透明プラスチックのコップに180㏄を注いだ。
予め「まっずいスポーツドリンクみたいな味です」と説明されて構えていたせいか、それほど飲みにくいという事もなく順調に進んではいるが、出したモンを見せないといけないのがなんとも申し訳ないやらいたたまれないやらで。
「夜5回出されてるだけあっていい感じですね」
と言う若い看護師さんの笑顔がつらい。
案外2リットル軽くイケるんじゃね?と思っていたが、2時間近く経つと段々なんとはなしに全体的に疲れてきた。
「カスがなくなるまでなのでもうちょっとですね。残ってるときれいに見えなくなってしまうので。あと1回見せてもらっていいですか」
そして看護師さんのお許しが出て、下剤も200㏄ほど残したところで「もう飲まなくていいですよ」と片付けられた。
Tシャツの上から不織布の施術着を被り、下は裸にハーフ丈の不織布の施術着に着替えさせられたんだが、これが尻に大きなスリットが入ってるやつでこれまたいたたまれなさと緊張感がすごかった。
上衣の丈が長いとはいえ、こんな露出一歩手前の服装で部屋を出るとかこれからカメラを入れるという緊張とはまた別の緊張があった。
処置室の台に乗って「あたまがちょっとぼーっとする薬」を二の腕に筋肉注射でいれられる。
あー、やっぱ地味に痛い。
反対の腕には点滴。室内には看護師さんが3~4人いて点滴やら注射やらそれはもうテキパキと見事に準備してくれた。
何の点滴か好奇心で聞いたけど分からんかった。緊急時にすぐに必要な点滴を体内に入れるための導線確保の点滴らしい、たぶん。
受け答えしているのにイマイチ内容が分からなくなってきてもう意識がふわふわして来てるのか、と思ったら腹の内部に衝撃。
え、先生いつこの部屋入ったの?
今なんも言わずに突っ込んだ?
そして冒頭のあれだよ。
めっちゃ痛い。
もっとがっつり意識無くして欲しかった。
予定通り14時過ぎに終わり、後輩にお迎え依頼の連絡をする。
終わった後は自分の足で別のベッドに移動して点滴を入れたままウトウト寝てた。腹の痛みもなく、このままずっと寝てたいような感覚だったけど小一時間休んだ後きっちり起こされて先生の診断を受けて終わった。
※
約六時間ぶりに見る後輩の顔にものすごくほっとした。
カメラ入れてる間、呻く俺の足をずっとさすってくれてた看護師さんレベルにありがたく感じる。あ、でも看護師さんは無言でせめて「もう少しですよー」とか言ってくれても良かったんじゃないかな。
いや言ってくれてたけど聞こえてなかったのか?
痛みに耐えてずっと目もつむってたしな。
「癌でもイボ痔でもなかったわ。つーかなんもなかった。3年は大腸がんの検診受けなくていいってさ」
良かったですね、と安堵の溜め息をつく後輩は本当に安心した様子で、心配やら面倒やらかけて悪かったなーと思う。
「じゃあなんで血が出てたんですか?」
「炎症っつーの?出口に近いトコがちょっとだけ赤くなってた。しかも治りかけ」
まあ、下剤飲んでる間も「出血ありませんね」って出したモン確認してくれた看護師さん言ってたんだよな。
「ストレスらしいんだけどな。出血したら入れろって座薬だけ出た。ボラギ〇ールみたいなチューブタイプのやつも座薬って言うんだな」
疲れが抜けなくてぐったりだらりとシートに体を預けたものの、何もなかったという安心感からハイになってるのか口だけは良く回る。
「宿便って知ってる? あれは無いって大腸カメラすると良く分かるわ。そんなもん一切出なかったのに中めっちゃキレイだった」
先生に盲腸、大腸、S状結腸、直腸と奥から順にピンク色が広がる映像をみせてもらったが、汚れゼロでキレイすぎてグロさもゼロ。
身体は疲労困憊なのに妙に機嫌のいい俺とは逆に、後輩はずいぶんと口数が少ない。
何やらテンションの低い後輩が夕食に作ってくれたのは胃への優しさしかない煮込みうどん。
本当に仕事も気遣いも出来るいい男だ。
そんな男が食後、食器を洗いながらぽつりと言った。
「ストレスってやっぱ俺のせいですかね」
「あ?」
思わず「何言ってんだコイツ」的な「あ?」になった。
「俺が言ったから血が出るほどのストレス感じたって事ですよね」
食器を洗う手を止めた後輩はぐっと何かに耐える用に体をこわばらせていた。
「オマエなに言ってんの? 先週までの仕事に決まってんじゃねーか」
馬鹿じゃねーの。
びっくりしたわ。
「お前の事なんかほとんど悩んでねえっつの。わー、男同士ってどうやるんだろーってウキウキしながらネット見たっつーの。そしたら下血して『え、これイボ痔とかなら出来ないんじゃね?』って病院探したっつーの。じゃなかったらこんなに早く病院行ったりせんわ」
それこそしばらく様子見るっつーの。
「……先輩、何言ってるんすか」
おい、お前そのひたすら可愛そうな子を見るみたいな顔やめろ。
「アホですか」
あ、言いやがった。
「あんたノンケじゃないですか。なに好奇心で片足つっこもうとしてるんですか」
「言い出したお前が言っていい言葉じゃねーな」
その気にさせといて何を言うのか。
本当にひどい話だと思う。
「あんなの言葉遊びでしょ。ちょっと触れたらラッキーくらいにしか思ってませんよ」
「クソ、遊ばれたのかよ。こっちは今日すげぇひどい目に遭ったのに」
ちょっと傷付いた風を装ってみたら。
「それはッ……悪いと思ってますけど」
案の定、めっちゃ慌てた顔をする。
よしよし、ちゃんと反省しているようだ。
だから。
「いーんだよ、こっちはお前とイチャイチャしても嫌じゃなかったし、気持ちよかったし」
笑ってやった。
「先輩、ホント無駄に男前ですよね」
「無駄は余計だバーカ」
オシャレちゃぶ台で偉そうに上げ膳据え膳してもらっていた俺の膝先に膝をついた後輩に抱きしめられる。
「なんか、いろいろ心配かけて悪かったな」
ポンポンと頭を叩いてやれば、答える代わりにぎゅっと腕を締められた。
おお、やっぱ男の抱擁はつえぇな。
でも気持ちいいんだよなぁ。
※
「いー、いだだだだだだ」
翌日、「腹筋が筋肉痛」みたいな痛みに襲われた。
じくじくと痛む。
昨日のカメラで内部が傷ついたのかと不安になる。
健康だったのにカメラで負傷とかシャレにならんのだけど!
めっちゃゴツゴツ突っ込まれたけど、あれが悪かったんじゃね?
あの医者ヤブだったのか?
動けるし、飯も食える。けど痛い。
朝は雑炊を出してもらったが、もういいかげん普通のものも食べたい的な事を呟いたら昼は食パンと目玉焼きでラピュタパンをしてくれた。
食パンとベーコンの冷凍ストックがあるってオマ、オマ!ってなる。
しかも病院が休みだから電話も出来ずじわじわ不安になっていた俺に代わり、民間保険会社の健康相談の電話サービスに問い合わせてくれた。
腹痛はカメラを入れている間、ガスを入れて腸を広げたせいらしい。
そう言う事は病院も言ってくれよ!
「出血がないなら様子見で大丈夫らしいです。明日にはほぼ治まるっぽいですけど救急行きます?」
このスパダリめ。
とりあえず様子見るわ。
コイツんちの冷蔵庫にはいつも「救急病院当番表」が貼ってあって「毎月広報から切り取るってお前はオカンか」とか笑ってたけど、こういう時に要るんだなと実感させられた。
ふー、と痛みを堪えながら人間をダメにするビーズクッションに体を預け、まだどこか心配そうな顔つきの後輩を見上げる。
「どのくらいまでやったらいいか分かったから、また今度ナカ綺麗にするわ。せっかく今キレイだろうに悪いな。ちなみに俺ってまだ処女だと思う?」
さすがに大腸カメラ入れた当日、コトに及ぶ気にはお互いなれなかったもんで。
「医療行為が含まれるわけないでしょ!」
後輩の剣幕にゲラゲラ笑う。
「良かった良かった、お前に処女をくれてやろう」
「アンタ、ホントそういうトコですよ!」
憤死しそうな後輩に「そういうトコがいいんだろ?」と追い打ちをかければ「そうですよ!」とキレられた。元気で何より。
健康って素晴らしい。
全快後、待ってましたとばかりにいざコトに及んだら「頼むからもう入れてくれ」と懇願するレベルにめっちゃほぐされ愛を感じまくった。
後輩に惚れ直すわと言ったら「フツーですから! いきなりブチ込むわけないでしょ!」と吠えられた。
ありがてぇ。
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ちなみに今回の執筆にあたりS字結腸はBL特有の器官なんだな、と認識を改めた次第であります。
結論;S状結腸はブチ抜いちゃダメ。(ただしBLでのS字結腸に限り可)
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