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カミングアウト
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私はもう決めていた。自分達の正体を明かそうと。
いざとなったら記憶をいじってなかったことに出来るのなら、コソコソと隠し立てする必要がないのだ。真実を受け入れてくれる可能性もあるのに、勝手に秘密にして壁を作っていては分かり合う機会すら永遠に生まれない。
大体、最初から受け入れてもらえないと決めつけるのは相手に失礼ではないか。リスクを覆せる裏技があるのだから、何を恐れる必要があるのか。積極的に明かしていけばいいのだ。
クラスメイト達とはそれなりに長く付き合ってきた。彼等が善良な人間達であることは分かっている。
とはいえ、明蓮の秘密は明蓮自身の判断で扱うべきだろう。マレビトである私が彼女に興味を持った理由だけごまかせば、それはどうにでもなる。今までの説明を続ければいいのだ。ちょうど天照のおかげで人間とマレビトが同じネットゲームをしているという既成事実が出来上がっている。
「実は、私もこの犬もマレビトなのだ。私は大陸にある黄河という河の化身で、こいつは天照大神という太陽の神だ」
「狼!」
クラスメイト達を見回し、はっきりと告げる。足元から抗議の声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
オリンピックと明蓮が驚いた顔をするが、他の人間達は驚きよりも呆気にとられたように口を開けている。突然の告白に理解が追い付いていないようだ。
だが、少しして一人の男子が口を開いた。修学旅行で同じ部屋に泊まったうちの一人だ。
「なんだ、河伯はマレビトだったのか。道理で人間離れしてると思った」
その言葉を皮切りに、他の人間達も口々に言葉を発した。その中に驚きや疑問の声はあれど、恐怖や非難といった声はない。
「そうなんだー、アリスちゃんもマレビトなの?」
「ああ、オリンピックが裏の森で仲良くなったらついてきたので私の従妹ということにしたのだ」
稲崎先生も自然に受け入れているが、各種記録を改ざんしていることについては気にしていないようだ。もしかしたら私のデータをあまり見ていないのかもしれない。
そんな中、私と明蓮の関係に疑問を持つ者が現れた。思った通りだ。
「河伯君って九頭竜坂さんに興味があって転校してきたって言ってたよね。どういう関係?」
「高天原というネットゲームで知り合ったのだ。天照やオリンピックもやっているぞ」
私はやっていないが、先ほどキャラを作っておいた。明蓮が何故か『河伯』を使っているのが気になったが、今はそれどころではないので置いておこう。
「そうそう、みんな高天原でつながってるんだよ! ねっ、明蓮ちゃん」
オリンピックが話に乗ってきた。明蓮は戸惑いつつも、自分の秘密には触れられない流れを察したようで頷いて応える。
「え、ええ。気が付いたらマレビトだらけだったから、みんなを怖がらせないように秘密にしていたの」
「なんだー、もっと早く教えてくれればよかったのに」
クラスメイト達が私や天照、アリスといったマレビトのことを受け入れている様子に、明蓮は驚きつつも安心した様子で穏やかな表情を見せ始めた。
「どうやらカミングアウトに成功したみたいねー。この機会に高天原をもっと広めるのよ!」
「なぜそんなにゲームを広めようとする」
「私にとってはまさに『布教』だからね。人間の神に対するイメージが良くなればそれだけ楽できるのよ」
なるほど。単なるゲーム狂かと思っていたが、現実的な計算もしていたのか。
この空気なら問題ないだろう。記憶の操作は私も極力したくはないからな。
「なるべく周りに言いふらさないでもらいたい。マレビトを恐れる人間も多いからな」
クラスメイトは信用できても、そこから噂が広がった時にどんな反応があるかは分からない。一応口止めはしておこう。彼等も秘密の共有を楽しんでいるようで、快く聞き入れてくれた。
「それで、さっきの黒いドラゴンっぽいのは何だったの?」
最後の問題だ。クラスメイトから当然の質問が投げかけられた。
「あれは八岐大蛇よ。かつて大暴れして退治された禍津神だけど、幽世の扉が開いてからこっちの世界で少しずつ復活してきてるようでね。どうやら人間と仲良くしてる河伯が気に入らないみたいね」
私が口を開くより早く天照が説明をした。どうやら私より事情に詳しいみたいだな、後でもっと詳しく話を聞かせてもらおうか。
「うっわー、めんどくさい。陰キャの極みって感じ」
クラスの女子が大蛇を罵る。悪意のあるマレビトの悪口を言うのは危険だからやめて欲しい。
「有名なだけあって危険な相手だ。私も警戒をしておくのであまり刺激をしないでくれ」
とりあえず納得してもらえたようで、一連の騒動は終わりの空気を迎えた。
――なるほどね。いいのかい? 明蓮のことは秘密にしておいて。
「何っ?」
大蛇の声がした。まさかこんな短時間で次がやってきたのか?
さっきは私の心の隙をついて、かろうじて首の一本、そのさらに影だけを出してこれた。今の状況で悪さを出来るような干渉が可能とは思えないが――
――そうでもないさ。別に俺が何かをする必要はないからね。
何をするつもりだ?
「なに、どうしたの? また来たの?」
オリンピックに聞かれ、私は周囲を警戒しながら小さく頷いた。
アリスと玉藻の方には異常は感じられない。どこからくる?
――ククク、ビビるなよ。そんな大したことは起こらねぇよ。
不愉快な声が終わると同時に、教室の扉が開いた。
いざとなったら記憶をいじってなかったことに出来るのなら、コソコソと隠し立てする必要がないのだ。真実を受け入れてくれる可能性もあるのに、勝手に秘密にして壁を作っていては分かり合う機会すら永遠に生まれない。
大体、最初から受け入れてもらえないと決めつけるのは相手に失礼ではないか。リスクを覆せる裏技があるのだから、何を恐れる必要があるのか。積極的に明かしていけばいいのだ。
クラスメイト達とはそれなりに長く付き合ってきた。彼等が善良な人間達であることは分かっている。
とはいえ、明蓮の秘密は明蓮自身の判断で扱うべきだろう。マレビトである私が彼女に興味を持った理由だけごまかせば、それはどうにでもなる。今までの説明を続ければいいのだ。ちょうど天照のおかげで人間とマレビトが同じネットゲームをしているという既成事実が出来上がっている。
「実は、私もこの犬もマレビトなのだ。私は大陸にある黄河という河の化身で、こいつは天照大神という太陽の神だ」
「狼!」
クラスメイト達を見回し、はっきりと告げる。足元から抗議の声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
オリンピックと明蓮が驚いた顔をするが、他の人間達は驚きよりも呆気にとられたように口を開けている。突然の告白に理解が追い付いていないようだ。
だが、少しして一人の男子が口を開いた。修学旅行で同じ部屋に泊まったうちの一人だ。
「なんだ、河伯はマレビトだったのか。道理で人間離れしてると思った」
その言葉を皮切りに、他の人間達も口々に言葉を発した。その中に驚きや疑問の声はあれど、恐怖や非難といった声はない。
「そうなんだー、アリスちゃんもマレビトなの?」
「ああ、オリンピックが裏の森で仲良くなったらついてきたので私の従妹ということにしたのだ」
稲崎先生も自然に受け入れているが、各種記録を改ざんしていることについては気にしていないようだ。もしかしたら私のデータをあまり見ていないのかもしれない。
そんな中、私と明蓮の関係に疑問を持つ者が現れた。思った通りだ。
「河伯君って九頭竜坂さんに興味があって転校してきたって言ってたよね。どういう関係?」
「高天原というネットゲームで知り合ったのだ。天照やオリンピックもやっているぞ」
私はやっていないが、先ほどキャラを作っておいた。明蓮が何故か『河伯』を使っているのが気になったが、今はそれどころではないので置いておこう。
「そうそう、みんな高天原でつながってるんだよ! ねっ、明蓮ちゃん」
オリンピックが話に乗ってきた。明蓮は戸惑いつつも、自分の秘密には触れられない流れを察したようで頷いて応える。
「え、ええ。気が付いたらマレビトだらけだったから、みんなを怖がらせないように秘密にしていたの」
「なんだー、もっと早く教えてくれればよかったのに」
クラスメイト達が私や天照、アリスといったマレビトのことを受け入れている様子に、明蓮は驚きつつも安心した様子で穏やかな表情を見せ始めた。
「どうやらカミングアウトに成功したみたいねー。この機会に高天原をもっと広めるのよ!」
「なぜそんなにゲームを広めようとする」
「私にとってはまさに『布教』だからね。人間の神に対するイメージが良くなればそれだけ楽できるのよ」
なるほど。単なるゲーム狂かと思っていたが、現実的な計算もしていたのか。
この空気なら問題ないだろう。記憶の操作は私も極力したくはないからな。
「なるべく周りに言いふらさないでもらいたい。マレビトを恐れる人間も多いからな」
クラスメイトは信用できても、そこから噂が広がった時にどんな反応があるかは分からない。一応口止めはしておこう。彼等も秘密の共有を楽しんでいるようで、快く聞き入れてくれた。
「それで、さっきの黒いドラゴンっぽいのは何だったの?」
最後の問題だ。クラスメイトから当然の質問が投げかけられた。
「あれは八岐大蛇よ。かつて大暴れして退治された禍津神だけど、幽世の扉が開いてからこっちの世界で少しずつ復活してきてるようでね。どうやら人間と仲良くしてる河伯が気に入らないみたいね」
私が口を開くより早く天照が説明をした。どうやら私より事情に詳しいみたいだな、後でもっと詳しく話を聞かせてもらおうか。
「うっわー、めんどくさい。陰キャの極みって感じ」
クラスの女子が大蛇を罵る。悪意のあるマレビトの悪口を言うのは危険だからやめて欲しい。
「有名なだけあって危険な相手だ。私も警戒をしておくのであまり刺激をしないでくれ」
とりあえず納得してもらえたようで、一連の騒動は終わりの空気を迎えた。
――なるほどね。いいのかい? 明蓮のことは秘密にしておいて。
「何っ?」
大蛇の声がした。まさかこんな短時間で次がやってきたのか?
さっきは私の心の隙をついて、かろうじて首の一本、そのさらに影だけを出してこれた。今の状況で悪さを出来るような干渉が可能とは思えないが――
――そうでもないさ。別に俺が何かをする必要はないからね。
何をするつもりだ?
「なに、どうしたの? また来たの?」
オリンピックに聞かれ、私は周囲を警戒しながら小さく頷いた。
アリスと玉藻の方には異常は感じられない。どこからくる?
――ククク、ビビるなよ。そんな大したことは起こらねぇよ。
不愉快な声が終わると同時に、教室の扉が開いた。
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