42 / 114
初等部編
転んだら事件が解決した_1
しおりを挟む秘密会議をした日の放課後に、私はリュカのいる教室へ行こうとした。廊下に出ると、当人のリュカと一緒に、サシャとオスカーがいたのを見つけたので、もう私の出番はないかなと思って図書館へ向かった。
調べ物をしようと、帯出禁止の古書の方へ行こうとしたときに、床が濡れていて派手にすっころんでしまった。大きな物音に顔なじみの女性の司書さんが飛んできて、私が無様に倒れているのを発見すると、「雨漏りしていて!すみません!!」と平謝りしていた。雨が時々滴り落ちてくるらしい。
転んだ時に書棚に引っ掛けてしまったらしく頬が痛い。手を当てると少しだけ血がついた。
「こここ公爵令嬢のお顔に傷が!ももも申し訳ありません!罰はいかようにも」
司書さんは、ぶるぶる震えて恐縮しまくっていたが、自分の不注意だったので「気にしないで」と言った。ついでに、図書館にとって雨漏りは致命的だから修理を急ぐよう進言することを申し出ておいた。
手当しますと言われたが、時間がなくなってしまうのでお断りした。またカーラを待たせるのは悪いなと思ったので。
舞踏会も終わったし、やっと嫌がらせの件も落ち着きそうなので、私は調べ物を再開した。
銀水晶の聖女はお伽話だった。魔法についてもそう。でも、ガブリエルは水の魔法を使っていた。ほんの数日前にこの目で見た。どこかに手掛かりがないかと、あれこれ探していると『魔女狩り』という不穏な単語を見つけた。
「この国では、数百年前、上位貴族のみが魔法を使えるようにするために、魔法が使える平民の弾圧『魔女狩り』を行った。その結果、いまでは王侯貴族でも魔法が使える者はほとんどいない。」
こんなの聞いたことがない。歴史書にもない。今みているのは五十年ほど前に書かれた『王国の宮廷魔法使いについての研究』というアカデミーの紀要なのだが、この文章の出典がない。出典がない以上、証拠・根拠がないということだから、信用に足る情報ではないのだろうが、どうしても気になった。
帯出禁止なので、本は持ち出せない。著者名をメモして教室に戻った。
教室に戻るとオスカーが駆け寄ってきた。
「アリス、何をされた?その傷はどうした?」
はて?と思っているとアレックスも顔色を失っている。
「女の子の顔に傷をつけるなんて……」
顔の傷というのは自分では見えないのでうっかり忘れていたが、さっき転んで怪我をしたんだった。ちょっと触れたら血は乾いてカサカサしていた。擦り傷は治りにくいからいやだなあと思っていたら、オスカーが白いハンカチを差し出してきた。
「転んでしまったのよ。もう血はとまってるし、汚れるからいいわよ」
「俺はお前の騎士なんだろ?守らせろよ。つーか一人で行動すんなって」
「ごめんね、ありがとう」
それ以上は話さなかったが、盛大に誤解した二人は義憤に駆られたようで、オスカーは「いまから高等部へ行ってくる」と言いどこかへ行ってしまった。アレックスは医務室に連れて行ってくれて、簡単な傷の手当をして「学園にいる間はずっと僕がついているから」と付きまとわれるようになってしまった。
(私、正直に転んだって言ったんだけど……)
「アリスお嬢様、どうなさったのですか?また何か……?」
アレックスに付き添われて車寄せに向かうと、カーラがひどく心配した顔をしている。
「なんでもないのよ、転んだだけ」
そう答えたが、カーラは「許せません」と言っていた。「いえ、本当に転んだのよ」といっても聞く耳を持っていなかった。
(私、正直に転んだって言ったんだけど……)(※二回目)
1
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる