25 / 114
初等部編
昼下がりのマルシェで再会したけど事件です_2
しおりを挟む「すごい。すごいね、カーラ」
「こっちですよ、お嬢様。あそこの屋台のお菓子が美味しいんです!」
カーラが屋敷の中では見せないような、年相応の笑顔で私に手をのばす。友達といるみたいで、とても楽しかった。
少し固いけど甘くて美味しい焼き菓子。フルーツのフレッシュジュース。呼び込む声はひっきり無しで、値切る声や笑い声が飛び交っている。
二人で手を繋いで、人混みをすり抜けて行った。
カーラは小柄だがすばしこくて、巧みに人を避けている。すごいなぁと思っていると、私の前を歩いていたカーラが「揚げパンも食べませんか?」と笑顔で振り返った。
しかし、次の瞬間、カーラの表情が変わった。はっとしたように口もとに手をやる。どうしたんだろうと思っていると、私の背中に誰かがぶつかってきた。
「すみません」と言ったその人はエリアスだった。
「ルテール公爵令嬢……」
「エリアス……?」
帯剣しているが平服を着ている。洗いざらしのシャツに黒のベストがよく似合っていて、私はまた思考回路が停止しそうになった。
普段着も……かっこいいよ……!
エリアスが「なぜ、こんな所に……」と呟きながら、眉を寄せて私を見下ろしている。完全に不審者を見る目だ。
ストーカーだと思われてるーーー!!
「失礼します」
「昨日はごめんなさい!」
私とエリアスの言葉は同時だった。踵を返して立ち去ろうとするので、思わず袖を掴む。エリアスは「何を……」と言って睨むような視線を向けてくるから、ひるんだ私はエリアスの手を離した。
「ごめんなさい……謝りたくて」
「結構です。失礼いたします」
(ヒィィ……塩対応すぎる。しにたい)
そう思っていたその時、内門の方から馬の嘶きと子供の悲鳴が聞こえた。
悲鳴がした方を見ると、小さな男の子が頭から血を流してぐったりしている。その子の傍らで女の子が泣き叫んでいた。
馬車に跳ねられてしまったようだ。私は飛び出して駆け寄った。
「大丈夫?!」
呼び掛けても倒れている男の子には意識がない。
頭をうったらどうするんだっけ?動かさない方が良かったよね?
「誰かお医者様を呼んでください」
私がそう叫ぶと、馬車の中から男性の声がした。
「貧民の子供などどうでもいい。馬車を出せ」
馬車に家紋があったので、貴族なのだろう。
……この世界では、貴族はそんなに偉いの?
下町の雰囲気が楽しかっただけに余計、それを簡単に壊そうとする貴族に心底腹が立った。
「まず馬車から下りなさいよ!手当が先でしょう?」
「早く馬車を出せ。急げ!」
その指示に御者が、まず私を追い払おうと鞭を振るった。
上の者が小物だと部下も簡単に卑劣な事が出来るらしい。鞭が降り下ろされる速度に、避けきれないと判断して男の子を庇うことにした。だが、その鞭は私には届かず―――
エリアスの剣の一閃に両断された。
洗練された、無駄のない動きで。
それと同時にカーラは馬車の扉を開けて、ひらひらした襟の服を着た男の首元に短剣をつきつけている。こちらも、驚くほど俊敏に。
二人の動きに目が追い付かず、びっくりしていると、それは集まっていた野次馬たちも同様だったようだ。成り行きを見守る周囲の人間の、息を飲む音が聞こえた気がした。
1
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる