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初等部編

兄弟喧嘩に巻き込まないでください_2

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「これは悪役令嬢の道へのフラグなのでは……」

 帰宅した私はいつものように部屋着でソファに転がる。私のだらけた態度にも独り言にもすっかり慣れたリラが、平然とお茶の準備をしていた。

「王太子殿下に申し込まれて断れる訳ないじゃない!お兄様がよかったのに!!!どうしてもだめならオスカーあたりに適当に頼もうと思ってたのに……」

 マクシムお兄様がいいと思って、さっさとエスコート役を決めてなかった私の落ち度だ。

「お嬢様、いくら幼友達でも、その言い方はオスカー様に対して不敬ですよ」
「はっ!そうだった。オスカーもラファエル様のはとこなのよね」

 リラがあきれたようにたしなめるので、思い出した。オスカーの母、ノワイユ侯爵夫人は前国王の末妹の子である。
 つまり、国王とアリスの母とオスカーの母は、従兄妹同士だ。ああ、血縁関係がややこしくなってきた。考えるのやめよう。貴族なんて皆さん、親戚、縁戚。


「それより、お嬢様。どうして王太子殿下からのお申込みに悩まれてるのです?お妃様になるのが夢だったのでは?」
「あーうん、その件は変更しました」
「え?」
「私の目標は、悪魔を倒すこと!」

 勢いよく天に向かって拳を突き上げていた私を、リラがぽかんと口を開けてみている。唖然とはいまのリラの状態をいうのだろう。

 普段無口なカーラが小声で「リラ先輩!しっかり!」とリラの背中をさすっている。

 図書館でわかったのだが、聖女だの悪魔だの伝説はあるが、あくまでお伽話なのだ。
 ゲーム内では、ヒロインがバーンと覚醒してキラキラ―っとやっつける悪魔(※記憶力の限界)。シナリオではかなり雑な描写でさくっとすすんだストーリー。案外たいしたことなんじゃないか、と思っていた。
 この世界はてっきり剣と魔法のファンタジーで、実は私も魔法が使えるんじゃないかと試してみたが、どんなに頑張っても炎だの水だのを何もないところから生み出すことが出来なかった。
 ただ、ヒロインは聖なる力に目覚めるわけだし、お城に宮廷魔法使いもいるので、魔法は皆無ではない。だが、少なくとも私の周りには魔法を使える人はいない。

 王太子やヒロインに近づかないのはもちろんのこと、国の危機とやらもなんとかしなくては、皆破滅してしまう。私が悪魔召喚する(らしい)のだから、きっとどこかできっかけがあるはず。
 万難を排さなければ、私の恋が成就しないではないか。
 ……まだ相手に出会ってないが。



「お嬢様の目標はひとまず置いておいて……」

 リラは、私の悪魔打倒発言はなかったことにしたらしい。

「いくらお嬢様が王太子妃になるつもりがなくても、社交界デビューが王太子殿下のエスコートとなると、当然周りは王太子妃の第一候補だと思いますわよ?」
「あーーーあーーー聞こえなーーい」

 私はクッションにうつぶせて耳を塞いだ。

「それに何よりラファエル王太子殿下は、アリスお嬢様を気に入っていらっしゃいますもの」
「いや、それはナイデショ。幼馴染だよ。お友達」

「そうですか?」
「そうです」
「そうですか……」

 リラはしょんぼりしている。王太子妃のお付き侍女になりたいのかな。出世だもんね。

 そこに、王太子殿下がいらっしゃいます、との先触れが来たので、リラがぱっと顔を輝かせた。

「ほら、アリスお嬢様に会いに来られたんですよ、きっと」
「いや、お母様にご用事なんじゃない?」

 侍女頭のマーゴが現れて「お着替えですよ!」と叫んだ。


 その後、「苦しいー!お願い絞めないで絞めないでー!アクセサリを合わせるだけでしょ?コルセットは絞めなくていいでしょー肋骨おーれーるー!おーたーすーけー!」という私の絶叫が屋敷中に響き渡った……。


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