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年の瀬、病院の受付で「今日から主治医がかわります」と告げられた。これまで診てくださっていた先生は産休に入ったらしい。採血を終えて待合室の椅子に座ったとたん、隣の老婦人から話しかけられた。
「新しい先生、イギリスから帰ってきたばかりの『美人過ぎる女医さん』らしいわよ」
どこでそういう情報を仕入れるんだろうか、すごい。
検査結果が出るのを待って診察室に呼ばれたが、新しい先生は「なるほど美人過ぎる」と納得する美女だった。
「主治医になりました、桂です。引き継いだけど、戸樫さんは多分、今日で最後になるかな」
私より年上だろうけど、仕草に色気があって、女の私でも間近で見るとドキドキする。才色兼備とはこのことだ。「女優さんが映画の撮影中なのかな? 私はエキストラの患者?」と、錯覚してしまいそう。
「二週間で病状はおおむね改善、しばらくは投薬しつつ途中から食事療法も取り入れ経過は良好。うん、今日の結果も良さそうね」
血液検査の結果に問題がなければ、これが最後の診察になることは、前回の診察でも言われていた。食事療法は楽しく続けているし、いつもふらついていた以前と比べたら、自分でも元気になったと思う。
「戸樫さんが午前最後の患者さんなので、少し時間ありますよ。最後になにか聞きたいことはありますか?」
優しく問われて、もっとこの先生に診てもらいたかったなと思った。それくらい魅力的な人だった。
「あの、桂先生は、以前T大病院にお勤めではなかったですか?」
「はい。もうだいぶ昔、研修医の頃ですが」
「祖母の手術の時に、お名前をお見かけした気がします。助手の先生で、とても綺麗な名前だったから印象に残っていて……」
「うわあ、名前のことは言わないで! 雅姫って字面すごいでしょう? 中身はこんなだから、ギャップが凄くて恥ずかしい!」
桂雅姫ってお姫様みたい! と思ったので覚えていた。ケラケラと豪快に笑っていたから、確かにイメージとは違う。深窓のご令嬢ではなく、どちらかと言えば女傑だ。
「そんな質問がくると思わなかった。自分の病気のことはいいの?」
おかげさまで元気なので、特に気になることはないと言ったら、桂先生は面白そうに笑っていた。
会計に多少時間がかかり、待っている間にお腹が空いてしまった。大きめの総合病院なのでカフェも併設されているが、早く帰りたい気持ちもあったので、コンビニで軽食を買うことにした。
一階のお店に立ち寄ると、白衣を脱いだ桂先生がレジに並んでいて、お客さんも店員さんも、老若男女問わず見惚れているんじゃないかと思うくらい、美人過ぎて目立っていた。さっきは白衣で椅子に座っていたのでわからなかったが、手足も長くて日本人離れした体型。「しゅっとした」とか「すらっとした」と言いたくなるほどスタイルもいい。
「桂先生、お疲れ様です。休憩ですか?」
「わあ、戸樫さん、こんなところで会うとは。会計に時間かかったのねえ」
コーヒーマシンを待ちながら、桂先生が笑顔でこちらを向いた。振り返っても美人は美人。
「あのあと思い出したんだけど、T大で心臓の手術した、大場さん?」
「そうです。母方の祖母なので名字違いますが」
記憶力がいいので単純に驚いた。頭いい人ってすごい。(頭の悪い感想その2)
手術のあと、すぐにイギリス留学した。イギリスで同僚の医師と結婚し、仕事も忙しく、数年に一度しか日本には帰って来られなかったそうだ。
「久しぶりに帰国したら、知らない建物いっぱいあるし、あちこち変わっていて驚きの連続よー。それに、会いたいと思っていた高校の恩師が亡くなっていて……連絡もらってなかったからショックだったわ」
「それは辛いですね……会いたい人には会っておかなくちゃいけないですね」
私がそう言うと、桂先生が爽やかに笑った。その輝くような笑顔を、どこかで見たことある気がした。
「新しい先生、イギリスから帰ってきたばかりの『美人過ぎる女医さん』らしいわよ」
どこでそういう情報を仕入れるんだろうか、すごい。
検査結果が出るのを待って診察室に呼ばれたが、新しい先生は「なるほど美人過ぎる」と納得する美女だった。
「主治医になりました、桂です。引き継いだけど、戸樫さんは多分、今日で最後になるかな」
私より年上だろうけど、仕草に色気があって、女の私でも間近で見るとドキドキする。才色兼備とはこのことだ。「女優さんが映画の撮影中なのかな? 私はエキストラの患者?」と、錯覚してしまいそう。
「二週間で病状はおおむね改善、しばらくは投薬しつつ途中から食事療法も取り入れ経過は良好。うん、今日の結果も良さそうね」
血液検査の結果に問題がなければ、これが最後の診察になることは、前回の診察でも言われていた。食事療法は楽しく続けているし、いつもふらついていた以前と比べたら、自分でも元気になったと思う。
「戸樫さんが午前最後の患者さんなので、少し時間ありますよ。最後になにか聞きたいことはありますか?」
優しく問われて、もっとこの先生に診てもらいたかったなと思った。それくらい魅力的な人だった。
「あの、桂先生は、以前T大病院にお勤めではなかったですか?」
「はい。もうだいぶ昔、研修医の頃ですが」
「祖母の手術の時に、お名前をお見かけした気がします。助手の先生で、とても綺麗な名前だったから印象に残っていて……」
「うわあ、名前のことは言わないで! 雅姫って字面すごいでしょう? 中身はこんなだから、ギャップが凄くて恥ずかしい!」
桂雅姫ってお姫様みたい! と思ったので覚えていた。ケラケラと豪快に笑っていたから、確かにイメージとは違う。深窓のご令嬢ではなく、どちらかと言えば女傑だ。
「そんな質問がくると思わなかった。自分の病気のことはいいの?」
おかげさまで元気なので、特に気になることはないと言ったら、桂先生は面白そうに笑っていた。
会計に多少時間がかかり、待っている間にお腹が空いてしまった。大きめの総合病院なのでカフェも併設されているが、早く帰りたい気持ちもあったので、コンビニで軽食を買うことにした。
一階のお店に立ち寄ると、白衣を脱いだ桂先生がレジに並んでいて、お客さんも店員さんも、老若男女問わず見惚れているんじゃないかと思うくらい、美人過ぎて目立っていた。さっきは白衣で椅子に座っていたのでわからなかったが、手足も長くて日本人離れした体型。「しゅっとした」とか「すらっとした」と言いたくなるほどスタイルもいい。
「桂先生、お疲れ様です。休憩ですか?」
「わあ、戸樫さん、こんなところで会うとは。会計に時間かかったのねえ」
コーヒーマシンを待ちながら、桂先生が笑顔でこちらを向いた。振り返っても美人は美人。
「あのあと思い出したんだけど、T大で心臓の手術した、大場さん?」
「そうです。母方の祖母なので名字違いますが」
記憶力がいいので単純に驚いた。頭いい人ってすごい。(頭の悪い感想その2)
手術のあと、すぐにイギリス留学した。イギリスで同僚の医師と結婚し、仕事も忙しく、数年に一度しか日本には帰って来られなかったそうだ。
「久しぶりに帰国したら、知らない建物いっぱいあるし、あちこち変わっていて驚きの連続よー。それに、会いたいと思っていた高校の恩師が亡くなっていて……連絡もらってなかったからショックだったわ」
「それは辛いですね……会いたい人には会っておかなくちゃいけないですね」
私がそう言うと、桂先生が爽やかに笑った。その輝くような笑顔を、どこかで見たことある気がした。
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