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一番近くに いてほしい2
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手を引いてもらって道路を渡り、第三鳥居をくぐって坂道と階段を上っていくと箱根神社に到着した。境内は広く、参拝客も多かった。さすが有名パワースポット。開運の神社らしいので、よくお詣りしておこう。
本殿を参拝してから授与所へ行ってみると、様々な御札や御守があった。寄せ木細工の御守もあってとても箱根らしい。「寄喜御守」って名前が素敵だなあと思って見てみると、寄せ木の模様がひとつひとつ違う。こんなに小さいのに細工は緻密で、職人さんってやっぱりすごいなぁと憧れてしまう。
「本宮にも参拝したかったですが、天気予報通り、これから雨になりそうです」
八木沢さんのその言葉に空を見上げると、さっきまでなかった重そうな黒い雲が垂れていた。夕方から小雨の予報だが、山の天気は変わりやすいし、もっと強く降りそうな気がする。箱根神社から芦ノ湖畔まで徒歩で戻ると、強風で湖の波も高くなっていた。
「ボートも休業みたいですね」
「少し早いですが、ホテルへ移動しましょうか」
「富士山、明日は見えるといいですね」
「きっと、ホテルの部屋から見えますよ」
八木沢さんがいつも通り笑っている横で、私は頭の中で(ホテルの! 部屋!)と復唱して、勝手に動揺していた。
◆
「こんな広い部屋は初めてですー!」
案内されたスイートルームは最上階で、芦ノ湖がとてもよく見えた。雨が上がり、ガスが晴れたら、きっと富士山が見えると思う。夕闇の木立の影がとても綺麗で、違う世界に来たみたいだ。
真ん中に共有のリビングルームがあり、それを挟んで寝室がふたつある。マスターベッドルームとセカンドベッドルームと呼ぶらしいが、どっちがどっちなのか私にはちっともわからなかった。ベッドも大きくて、お布団ふかふか!
湖側にはバスルームがあり、そこには大きな窓があった。完全に日常と切り離された空間だった。
「お風呂、外からは見えないのかな? 初めて見ました、すごいですね!」
「……和咲さんが喜んでるから、これが正解だったのかもしれません」
当初の予定通り二部屋とれなかったことを気にしているのかなと思ったので、笑って答えた。
「私は嬉しいです」
「嬉しいって本当ですか? 僕と同室は嫌じゃないですか?」
「え、それは大丈夫ですよ。いつも一緒じゃないですか」
「いつも一緒……そうですね」
八木沢さんがそう呟いてはにかんで笑うから、それを可愛いと思ってしまった。
ディナーはホテルの中にあるフレンチレストランだと聞いていたから、精一杯のおめかしをした。
持ってきたのは結婚式の二次会用に準備していたワンピース。シフォンがふんわりして、裾がフレアで可愛いなと思って買ったもの。試着しただけで、もう着る機会もないだろうと残念に思っていたので、日の目を見る機会があってよかった。
気兼ねなく着替えができたから、寝室がふたつあるのは本当に便利だ。贅沢。
私がリビングルームへ行くと、八木沢さんは先に支度が済んでいたようで、窓辺に立って外を見ていた。まだ雨が降り続いている。都心なら明るいはずの戸外が真っ暗で、山の上にいるんだなと思い出す。
気づいた八木沢さんが振り返って私を認めて、目を細めて言った。
「ああ、綺麗です」
「……! 変じゃないです? 場違いだったらどうしようかと……」
「そんなことないです。いつも落ち着いた色ですが、そのアイボリーも華やかでよく似合っている」
綺麗と言われたのが、自分なのだとしばらく気がつかなかった。そんな眩しそうに言われたら、もしかして本当にそうかなって思ってしまう。褒め上手だ。
「あ、ありがとうございます。八木沢さんもいつもと少し違って素敵です」
笑っている八木沢さんこそ格好いい。機能重視の普段使いの型ではなく、すこしタイトでスタイリッシュなスーツがよく似合っていたので、この人の隣に私がいて大丈夫かなと心配になった。
「行きましょうか」
「待ってください、心臓が出そうです」
「心臓?」
「ちょっと、動悸が」
「フレンチのマナーがわからないって心配してましたが、緊張しなくてもいつも通りで大丈夫ですよ」
いえ、緊張します。だって、八木沢さんのスーツ姿はやっぱり格好いいです!
……と心の中で叫びながら、部屋を出た。
本殿を参拝してから授与所へ行ってみると、様々な御札や御守があった。寄せ木細工の御守もあってとても箱根らしい。「寄喜御守」って名前が素敵だなあと思って見てみると、寄せ木の模様がひとつひとつ違う。こんなに小さいのに細工は緻密で、職人さんってやっぱりすごいなぁと憧れてしまう。
「本宮にも参拝したかったですが、天気予報通り、これから雨になりそうです」
八木沢さんのその言葉に空を見上げると、さっきまでなかった重そうな黒い雲が垂れていた。夕方から小雨の予報だが、山の天気は変わりやすいし、もっと強く降りそうな気がする。箱根神社から芦ノ湖畔まで徒歩で戻ると、強風で湖の波も高くなっていた。
「ボートも休業みたいですね」
「少し早いですが、ホテルへ移動しましょうか」
「富士山、明日は見えるといいですね」
「きっと、ホテルの部屋から見えますよ」
八木沢さんがいつも通り笑っている横で、私は頭の中で(ホテルの! 部屋!)と復唱して、勝手に動揺していた。
◆
「こんな広い部屋は初めてですー!」
案内されたスイートルームは最上階で、芦ノ湖がとてもよく見えた。雨が上がり、ガスが晴れたら、きっと富士山が見えると思う。夕闇の木立の影がとても綺麗で、違う世界に来たみたいだ。
真ん中に共有のリビングルームがあり、それを挟んで寝室がふたつある。マスターベッドルームとセカンドベッドルームと呼ぶらしいが、どっちがどっちなのか私にはちっともわからなかった。ベッドも大きくて、お布団ふかふか!
湖側にはバスルームがあり、そこには大きな窓があった。完全に日常と切り離された空間だった。
「お風呂、外からは見えないのかな? 初めて見ました、すごいですね!」
「……和咲さんが喜んでるから、これが正解だったのかもしれません」
当初の予定通り二部屋とれなかったことを気にしているのかなと思ったので、笑って答えた。
「私は嬉しいです」
「嬉しいって本当ですか? 僕と同室は嫌じゃないですか?」
「え、それは大丈夫ですよ。いつも一緒じゃないですか」
「いつも一緒……そうですね」
八木沢さんがそう呟いてはにかんで笑うから、それを可愛いと思ってしまった。
ディナーはホテルの中にあるフレンチレストランだと聞いていたから、精一杯のおめかしをした。
持ってきたのは結婚式の二次会用に準備していたワンピース。シフォンがふんわりして、裾がフレアで可愛いなと思って買ったもの。試着しただけで、もう着る機会もないだろうと残念に思っていたので、日の目を見る機会があってよかった。
気兼ねなく着替えができたから、寝室がふたつあるのは本当に便利だ。贅沢。
私がリビングルームへ行くと、八木沢さんは先に支度が済んでいたようで、窓辺に立って外を見ていた。まだ雨が降り続いている。都心なら明るいはずの戸外が真っ暗で、山の上にいるんだなと思い出す。
気づいた八木沢さんが振り返って私を認めて、目を細めて言った。
「ああ、綺麗です」
「……! 変じゃないです? 場違いだったらどうしようかと……」
「そんなことないです。いつも落ち着いた色ですが、そのアイボリーも華やかでよく似合っている」
綺麗と言われたのが、自分なのだとしばらく気がつかなかった。そんな眩しそうに言われたら、もしかして本当にそうかなって思ってしまう。褒め上手だ。
「あ、ありがとうございます。八木沢さんもいつもと少し違って素敵です」
笑っている八木沢さんこそ格好いい。機能重視の普段使いの型ではなく、すこしタイトでスタイリッシュなスーツがよく似合っていたので、この人の隣に私がいて大丈夫かなと心配になった。
「行きましょうか」
「待ってください、心臓が出そうです」
「心臓?」
「ちょっと、動悸が」
「フレンチのマナーがわからないって心配してましたが、緊張しなくてもいつも通りで大丈夫ですよ」
いえ、緊張します。だって、八木沢さんのスーツ姿はやっぱり格好いいです!
……と心の中で叫びながら、部屋を出た。
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