上 下
24 / 82

彼氏と彼女?2

しおりを挟む
 正社員登用に向けて本格的に話が進み始めた頃、アドレス帳に登録していない番号からメッセージが届いた。その番号をどこかで見たような気がして、とりあえずメッセージを開いた。見たことを後悔した。

『真臣くんの好きな料理のレシピを教えてください』

 どうして私に聞こうと思ったのか。全く意味がわからない。だが、最近聞こえてくる噂話とは合致する。
 真臣は「自分だけ幸せになってごめん」という謎の幸せ自慢をしていたのだが、日を追うにつれて、武内さんへの不満を漏らすことが増えたらしい。
 料理が下手、掃除もしない、休日にデートに誘っても寝てばかりいる……などなど、妊婦なのだから仕方ないようなことに「愚痴」をこぼしていた。

 私に連絡してくるなんて、よっぽど追い詰められているのだろう。絶対に真臣には言わないことを約束して、下北沢の駅前で待ち合わせることにした。

 武内さんは妊娠中なので服装はゆったりしていたが、以前よりも痩せており、栄養失調なのでは、と心配になるほどだった。負担にならないようにしたのか、髪も短くなっている。
 妊娠五か月のはずだが、安定期に入ってもつわりがひどく、お医者様からはもうすこし悪くなったら入院と言われているらしい。もう十分ひどいと思ったが、彼女が専業主婦であり、家にいる間は休養できているはずだから、と真臣が承諾しなかったそうだ。
 退職して、地元・福岡から上京し、同僚も友人もいない環境で、さぞ辛かっただろうと思ってしまった。

「料理が下手だと言って、私が作っても食べてくれないんです。だから、戸樫さんがお料理上手だと聞いて……それで……」
「体調も万全ではなさそうですし、家事はゆっくりでいいと思いますよ」
「でも……」

 そんなろくでもない男は捨てたほうがいいと思ったが、彼女は彼女なりに真臣が好きで、彼の望むようにしたいんだろう。状況を見て渡すかどうか判断しようと思っていたが、レシピを教えることにした。

「真臣……さん、が気に入っていた料理についてはメモしてきたので、これを使ってみてください」

 便せんに、簡単なレシピをいくつかまとめておいた。祖母に教わったあと、私なりにアレンジしたオリジナルレシピだ。

「ああ、戸樫さんは肉じゃがにバターをいれるんですね」
「そうそう、ちょっとコクがでるから」

 涙を流して喜ぶから、(真臣ももっと大事にすればいいのに)とかわいそうになってしまった。
 だが、ふと彼女の足下を見て、一瞬で血の気が引いた。
 今、私が履いている靴と、同じもの……?
 私が好むブランドの靴だ。銀座に路面店があるし、百貨店などにもあるから決して珍しくはない。でも初めて会ったときに、服装も髪型も似ていると思ってから、ずっと心のどこかにひっかかりがあった。

 おそるおそる質問した。
 正直に答えないだろうけど、聞かずにはいられなかった。

「……武内さん、どうして結婚式前なのに髪切ったんですか?」
「はい、真臣くんから戸樫さんが最近髪を切ったと聞いたので。また、色々教えてくださいね!」

 無理だ。私になりかわって、「真臣の婚約者」という立場を奪ったんだから、もう十分だろう。頼るというより利用されているんだとやっと気がついた。

「こうして会っていると、真臣さんのことを思い出してしまうから、これっきりにしてください!」
「あっ、そうですよね。戸樫さんの気持ちも考えずにごめんなさい」

 単純にもう会いたくないだけだが、武内さんにとって、私と真臣が復縁するのは絶対嫌だろう。嘘でもいいから逃げ出そう。無理だ。二度と関わりたくない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う

季邑 えり
恋愛
とうとうヴィクターが帰って来る——シャーロットは橙色の髪をした初恋の騎士を待っていた。 『どうしても、手に入れたいものがある』そう言ってヴィクターはケンドリッチを離れたが、シャーロットは、別れ際に言った『手に入れたいもの』が何かを知らない。 ヴィクターは敵国の将を打ち取った英雄となり、戦勝パレードのために帰って来る。それも皇帝の娘である皇女を連れて。——危険を冒してまで手に入れた、英雄の婚約者を連れて。 幼馴染の騎士 × 辺境の令嬢 二人が待ちわびていたものは何なのか

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

処理中です...