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14 忌まわしきモレーノの自白
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1時間ほど馬車に揺られ、一軒の屋敷に着いた。
誰かの別荘か、空家かもしれない。そこまで大きくない屋敷の前に、それなりの馬車や馬が停まっている。そして、物々しい鍵付きの馬車も。
あれに囚われ、兄は監獄に向かうのだ。
「ソニア。無理だったら」
「いいえ? 初めて見るものだから、ギョッとしただけ」
「そうか。じゃあ、行こう」
アルセニオに肩を抱かれて中へ入ると、教会の聖騎士に止められた。
「私はバーヴァ伯爵。こちらはフロリアン伯爵令嬢だ。尋問立ち会いと証言のために呼ばれた」
「伺っております。神を欺かず、その口から出る言葉はすべて真実のみであると誓いますか?」
「誓います」
「どうぞ」
物々しい事この上ないわね。
改めて、兄の罪の重さと、宗教裁判への畏怖で震えたわ。
いくつか部屋を通り過ぎるうち、兄以外にも数人、尋問を受けているのだとわかった。
兄は娯楽室にいた。
判事と神父と聖騎士に囲まれ、椅子に縛り付けられていた。あれが神に背いた罪人の姿。
「……そうだ。地下の3番目の檻には、老人が……」
「?」
燭台に照らされた兄の顔は、かなり朦朧として、目が濁り、呂律が回らないためか涎も垂れている。
「自白剤だ」
アルセニオの耳打ちに、私は固唾を飲んだ。
覚悟してきたつもりだったけれど、尋問って、恐いわ。
私はしばらくの間、兄がメイラー侯爵家で行われていた悍ましい儀式について証言するのを聞いていた。その結果、兄が関わったのは、母子の遺体を売ったその一回きりだったようだとわかった。
「その後も淫婦との忌まわしい結婚で教会を穢し、穢れなき乙女と偽装結婚をし誇りを踏みにじったのか」
「……そうだ」
兄が卑しい笑みを浮かべ、答えた。
私はアルセニオにしっかり抱えられていたけれど、怒りで息があがってきて、更に強く抱えられた。
「なぜだ。悪魔がそうしろと囁いたのか? お前をけしかけたのか?」
あ、なるほど。
宗教裁判の尋問って、こういう感じなのね。
なんて事も、頭の片隅で思う。
「……悪魔?」
「そうだ。悪魔がお前に命じたのか? それとも、お前がその男を操っているのか?」
「……ハハ……違う。悪魔は私ではない……ッ。フロリアンだ!」
兄が怒鳴った。
異様な光景が輪をかけて異様で、その空気に呑み込まれ、変な汗が沸いてくる。
「お前がフロリアン伯爵では? 違うのか?」
「私の……父親の話だ……」
「?」
兄が呻りながら言った言葉に、私は目を剥いた。
突然、今までとは比べ物にならない恐怖が襲う。
けれどそれは直後に杞憂となった。
「あの……クソ親父……っ、あいつは、私を〝出来損ない〟と罵りやがった……! 相応しくないだの、失格だのと……一度だって認めた事はない! この私を生涯、見下し、蔑み、否定し続けた……! あいつが! こうさせたんだ!!」
「は?」
いけない。
つい、気持ちが口から洩れたわ。
「あいつは悪魔だ! 私の心を粉々にした! プライドも……っ、夢もっ、なにもかもだ! 私を汚点と言った! この私をフロリアン伯爵家の汚物だと……! 失敗作だと! だからこの私が、その言葉通り、フロリアン伯爵家を穢してやったのさ! 娼婦の血を混ぜて家名を地に落としてやった!」
兄は醜悪な笑みを浮かべ、唾を飛ばし、椅子をガタガタと揺らしている。
「その汚物まみれな跡取りを、ソニアに育てさせるんだ……! あの男が期待したレディはもう、私生児を産んだふしだらな女さ! ざまあみろ父上! フロリアン伯爵家は地に落ちたァ!!」
「!」
我慢ならなかった。
誰かの別荘か、空家かもしれない。そこまで大きくない屋敷の前に、それなりの馬車や馬が停まっている。そして、物々しい鍵付きの馬車も。
あれに囚われ、兄は監獄に向かうのだ。
「ソニア。無理だったら」
「いいえ? 初めて見るものだから、ギョッとしただけ」
「そうか。じゃあ、行こう」
アルセニオに肩を抱かれて中へ入ると、教会の聖騎士に止められた。
「私はバーヴァ伯爵。こちらはフロリアン伯爵令嬢だ。尋問立ち会いと証言のために呼ばれた」
「伺っております。神を欺かず、その口から出る言葉はすべて真実のみであると誓いますか?」
「誓います」
「どうぞ」
物々しい事この上ないわね。
改めて、兄の罪の重さと、宗教裁判への畏怖で震えたわ。
いくつか部屋を通り過ぎるうち、兄以外にも数人、尋問を受けているのだとわかった。
兄は娯楽室にいた。
判事と神父と聖騎士に囲まれ、椅子に縛り付けられていた。あれが神に背いた罪人の姿。
「……そうだ。地下の3番目の檻には、老人が……」
「?」
燭台に照らされた兄の顔は、かなり朦朧として、目が濁り、呂律が回らないためか涎も垂れている。
「自白剤だ」
アルセニオの耳打ちに、私は固唾を飲んだ。
覚悟してきたつもりだったけれど、尋問って、恐いわ。
私はしばらくの間、兄がメイラー侯爵家で行われていた悍ましい儀式について証言するのを聞いていた。その結果、兄が関わったのは、母子の遺体を売ったその一回きりだったようだとわかった。
「その後も淫婦との忌まわしい結婚で教会を穢し、穢れなき乙女と偽装結婚をし誇りを踏みにじったのか」
「……そうだ」
兄が卑しい笑みを浮かべ、答えた。
私はアルセニオにしっかり抱えられていたけれど、怒りで息があがってきて、更に強く抱えられた。
「なぜだ。悪魔がそうしろと囁いたのか? お前をけしかけたのか?」
あ、なるほど。
宗教裁判の尋問って、こういう感じなのね。
なんて事も、頭の片隅で思う。
「……悪魔?」
「そうだ。悪魔がお前に命じたのか? それとも、お前がその男を操っているのか?」
「……ハハ……違う。悪魔は私ではない……ッ。フロリアンだ!」
兄が怒鳴った。
異様な光景が輪をかけて異様で、その空気に呑み込まれ、変な汗が沸いてくる。
「お前がフロリアン伯爵では? 違うのか?」
「私の……父親の話だ……」
「?」
兄が呻りながら言った言葉に、私は目を剥いた。
突然、今までとは比べ物にならない恐怖が襲う。
けれどそれは直後に杞憂となった。
「あの……クソ親父……っ、あいつは、私を〝出来損ない〟と罵りやがった……! 相応しくないだの、失格だのと……一度だって認めた事はない! この私を生涯、見下し、蔑み、否定し続けた……! あいつが! こうさせたんだ!!」
「は?」
いけない。
つい、気持ちが口から洩れたわ。
「あいつは悪魔だ! 私の心を粉々にした! プライドも……っ、夢もっ、なにもかもだ! 私を汚点と言った! この私をフロリアン伯爵家の汚物だと……! 失敗作だと! だからこの私が、その言葉通り、フロリアン伯爵家を穢してやったのさ! 娼婦の血を混ぜて家名を地に落としてやった!」
兄は醜悪な笑みを浮かべ、唾を飛ばし、椅子をガタガタと揺らしている。
「その汚物まみれな跡取りを、ソニアに育てさせるんだ……! あの男が期待したレディはもう、私生児を産んだふしだらな女さ! ざまあみろ父上! フロリアン伯爵家は地に落ちたァ!!」
「!」
我慢ならなかった。
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