4 / 10
4 私がブルーノ大公妃になる日。
しおりを挟む
「私はただ私だけを愛してほしかっただけなのよ! それがそんなにいけない事なの!? たしかに他の男性に癒しを求めはしたけれど、それはアルヴィンが愛情を注いでくれなかったせいじゃない! それなのに私に怒って離婚だなんて、どうかしてるわ! そうでしょ!?」
「……」
妹が泣き喚いてついてくる。
私は人一倍勉強しなければいけない立場なので、忙しくて構っていられない。
「だって遊びなのよ!? 誰だって夕飯の前にお腹が空くからパイやマフィンを食べるの、そうでしょう!? そもそもは私に寂しい思いをさせて悲しませた自分に責任があるのに、謝るでもなく『浮気妻は出て行け』って言ったのよ!?」
「……」
廊下が長い事が怨めしい。
「浮気をしたのは冷たくされたからなのに、『愛が冷めたのは妊娠したなんて大嘘を吐いた君に嫌気がさしたからだ』なんて言ったのよあいつ! そうでもしないと振り向いてくれないから嘘を吐いたの!」
妹が発する雑音や存在そのものに、意識や時間を費やす暇はない。
私のような頑丈で気が強いだけの田舎貴族が大公妃になるというのは、並大抵の努力では追いつかない。正直、笑顔のレッスンも命懸けだ。
「ちょっと、聞いてるのッ!?」
「……!」
ついに肩を掴まれた。
しかし。
「やめなさい、エセル」
母が止めに入った。
祖母と父と母からは『エセルの事はこちらでなんとかするから気にするな、いないものと思え』と言われている。正直、ありがたい。
「なによ! だって、元はと言えばお姉様のせいでしょうッ!?」
「静かになさい。今へレンは忙しいのよ」
「私よりお姉様のほうが大事だって言うの!?」
「あなたには信じられないかもしれないけれど──そうです」
母が重々しく告げる声を背中で聞きながら、私は廊下の角を曲がった。
「裏切り者ぉぉぉぉぉッ!!」
妹の絶叫に、私は心の耳を塞いだ。
なにも考えない。私に妹はいない。
今は目の前の花嫁修業に集中するべきだ。
あまりにも煩かったためか、いつの日からか母と妹が屋敷から姿を消していた。私の結婚が無事に済むまで、身を潜めてくれるという配慮なのかもしれない。
そしてついに、結婚式。
あっという間にやってきた、運命の日。
「ヘレン。こんな僕だけど、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
私はブルーノ大公妃になった。
錚々たる参列者の視線を浴びれば、重責への恐れは拭えない。
けれど、それを上回る歓喜に、私はふるえた。
「……」
妹が泣き喚いてついてくる。
私は人一倍勉強しなければいけない立場なので、忙しくて構っていられない。
「だって遊びなのよ!? 誰だって夕飯の前にお腹が空くからパイやマフィンを食べるの、そうでしょう!? そもそもは私に寂しい思いをさせて悲しませた自分に責任があるのに、謝るでもなく『浮気妻は出て行け』って言ったのよ!?」
「……」
廊下が長い事が怨めしい。
「浮気をしたのは冷たくされたからなのに、『愛が冷めたのは妊娠したなんて大嘘を吐いた君に嫌気がさしたからだ』なんて言ったのよあいつ! そうでもしないと振り向いてくれないから嘘を吐いたの!」
妹が発する雑音や存在そのものに、意識や時間を費やす暇はない。
私のような頑丈で気が強いだけの田舎貴族が大公妃になるというのは、並大抵の努力では追いつかない。正直、笑顔のレッスンも命懸けだ。
「ちょっと、聞いてるのッ!?」
「……!」
ついに肩を掴まれた。
しかし。
「やめなさい、エセル」
母が止めに入った。
祖母と父と母からは『エセルの事はこちらでなんとかするから気にするな、いないものと思え』と言われている。正直、ありがたい。
「なによ! だって、元はと言えばお姉様のせいでしょうッ!?」
「静かになさい。今へレンは忙しいのよ」
「私よりお姉様のほうが大事だって言うの!?」
「あなたには信じられないかもしれないけれど──そうです」
母が重々しく告げる声を背中で聞きながら、私は廊下の角を曲がった。
「裏切り者ぉぉぉぉぉッ!!」
妹の絶叫に、私は心の耳を塞いだ。
なにも考えない。私に妹はいない。
今は目の前の花嫁修業に集中するべきだ。
あまりにも煩かったためか、いつの日からか母と妹が屋敷から姿を消していた。私の結婚が無事に済むまで、身を潜めてくれるという配慮なのかもしれない。
そしてついに、結婚式。
あっという間にやってきた、運命の日。
「ヘレン。こんな僕だけど、よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
私はブルーノ大公妃になった。
錚々たる参列者の視線を浴びれば、重責への恐れは拭えない。
けれど、それを上回る歓喜に、私はふるえた。
332
お気に入りに追加
6,042
あなたにおすすめの小説
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
あなたは旦那様にふさわしくないなんて側室ですらない幼馴染の女性にけなされたので、私は離婚して自分の幼馴染と結婚しようと思います
ヘロディア
恋愛
故郷に愛している男がいるのに、無理やり高貴な貴族に嫁がされた主人公。しかし、そこでの夫には、幼馴染を名乗る女が毎晩のようにやって来て、貴族の夫婦のすべき営みを平然とやってのけていた。
挙句の果てには、その女に「旦那様にふさわしくないし、邪魔」と辛辣な態度を取られ、主人公は故郷の男のもとへ向かう決意を固めたが…
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる