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4 私がブルーノ大公妃になる日。

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「私はただ私だけを愛してほしかっただけなのよ! それがそんなにいけない事なの!? たしかに他の男性に癒しを求めはしたけれど、それはアルヴィンが愛情を注いでくれなかったせいじゃない! それなのに私に怒って離婚だなんて、どうかしてるわ! そうでしょ!?」

「……」


 妹が泣き喚いてついてくる。
 私は人一倍勉強しなければいけない立場なので、忙しくて構っていられない。


「だって遊びなのよ!? 誰だって夕飯の前にお腹が空くからパイやマフィンを食べるの、そうでしょう!? そもそもは私に寂しい思いをさせて悲しませた自分に責任があるのに、謝るでもなく『浮気妻は出て行け』って言ったのよ!?」

「……」


 廊下が長い事が怨めしい。


「浮気をしたのは冷たくされたからなのに、『愛が冷めたのは妊娠したなんて大嘘を吐いた君に嫌気がさしたからだ』なんて言ったのよあいつ! そうでもしないと振り向いてくれないから嘘を吐いたの!」


 妹が発する雑音や存在そのものに、意識や時間を費やす暇はない。
 私のような頑丈で気が強いだけの田舎貴族が大公妃になるというのは、並大抵の努力では追いつかない。正直、笑顔のレッスンも命懸けだ。


「ちょっと、聞いてるのッ!?」

「……!」


 ついに肩を掴まれた。
 しかし。


「やめなさい、エセル」


 母が止めに入った。
 祖母と父と母からは『エセルの事はこちらでなんとかするから気にするな、いないものと思え』と言われている。正直、ありがたい。


「なによ! だって、元はと言えばお姉様のせいでしょうッ!?」

「静かになさい。今へレンは忙しいのよ」

「私よりお姉様のほうが大事だって言うの!?」

「あなたには信じられないかもしれないけれど──そうです」


 母が重々しく告げる声を背中で聞きながら、私は廊下の角を曲がった。
 

「裏切り者ぉぉぉぉぉッ!!」


 妹の絶叫に、私は心の耳を塞いだ。
 なにも考えない。私に妹はいない。

 今は目の前の花嫁修業に集中するべきだ。

 あまりにも煩かったためか、いつの日からか母と妹が屋敷から姿を消していた。私の結婚が無事に済むまで、身を潜めてくれるという配慮なのかもしれない。

 そしてついに、結婚式。
 あっという間にやってきた、運命の日。


「ヘレン。こんな僕だけど、よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 私はブルーノ大公妃になった。

 錚々たる参列者の視線を浴びれば、重責への恐れは拭えない。
 けれど、それを上回る歓喜に、私はふるえた。
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