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7 荒ぶるエヴェリーナ
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「エヴェリーナ!」
母が妹の名を叫ぶ。
「座りなさい」
父も応戦。
なんといっても、今日は優勢。
「こんな茶番はもううんざり! 私よりそんな女がいいって目の腐った伯爵様なんか私を好きになってくれなくて結構だわ!! 虫唾が走るッ!!」
「まあ!」
キモいって言わないのね。
語彙が増えてる。
「どうしたんだ? 酔ったのか? 俺が一途にカルロッテを愛しているのは当然じゃないか。君だって素晴らしい婚約者がいるんだろう? その男に熱烈に口説いてもらえばいい」
「〝その男〟!? 口を謹んでちょうだい! あんたみたいなくだらない伯爵は口も利いてもらえないような立派な侯爵令息なんだから!! 私を選ぶまともな目だってついてるし! 本当にもう! ずっとお姉様が馬鹿なのかと思っていたけど……馬鹿なんだろうけどっ、馬鹿に馬鹿が妙な自信を与えちゃって図に乗らせまくってたんじゃない! そんな女で満足って男なんだったらもう私になにも言わないでッ!! なにも聞きたくない! 消えて! 私の視界に入らないでッ!!」
ガタン!
と、派手な音を立てて父も起立。
「謝りなさい!」
声が裏返るくらい昂っている。
「嫌よッ!!」
それとはひきかえに妹の声は高いだけで力強い。
「お前を祝いに来てくださったんだぞ!?」
「勝手に来たんでしょう!? 家族パーティーだっつーのにのこのこと! 何様よ! しかも私を祝うんじゃなく、腐った目で何万倍も素敵に見えるこの女にただ会いに来ただけじゃないッ!! 謝ってもらうなら私! 主役なのに蔑ろにされたこの私よぉッ!!」
「カルロッテも今日の主役だッ!」
「ふざけるなクソ爺!! たかがちんけな伯爵のくせに、いずれ侯爵夫人になる私に指図しないで!!」
ついに母も起立。
「あなたのお父様よ!?」
「はあっ!? お母様のくせに。黙ってろブス!」
「!」
母がショックで顔面蒼白。
こうなると静観しているわけにもいかず、私も腰をあげた。
「ちょっと。私になに言ってもいいけど、お母様にそれはないでしょ。謝りなさい」
アルヴィン卿の眼前で妹の本性を暴くという意味では成功だけれど、母に矛先が向くのは想定外だ。今まで絶対的に味方……というかもはや子分だった母がついに意見したという事で、妹は激高しているのだろう。私を罵る時より、当たりが強い。
「外野は口挟まないでくれる?」
「え?」
妹が真顔で言うので、私も一瞬、思考が止まった。
外野?
えっと、私が?
妹はテーブルに片手をついて寄りかかり、母の顔を覗き込んで睨んだ。
「私のためのパーティーでしょ? なに言ってらっしゃるの? ご自分のなさった事わかってる? 次はなくてよ? あと1回でも私を侮辱しようもんなら、結婚後、私がオーベリソン伯爵家を潰す」
「あなた……、なっ、なに言ってるの……ッ!?」
母が泣きだした。
妹が笑った。
「私はライル侯爵家に嫁ぐの。格上よ? おわかりでしょう? わからないの? あんたみたいなつまんない女から私のような天使が生まれてあげたのに、その恩を忘れちゃったのかしら。お母様?」
「……」
私は唖然と我が妹を凝視。
父は負けて、額を押えて着席。
微妙な空気が満ちたその時、ディーンが静かに口を挟んだ。
「乾杯はなしだ」
妹以外、アルヴィン卿がそこの棚に身を潜めていると知っている。ちなみに下段。
ディーンが合言葉を言ったら、バーンとサプライズ登場する予定だった。ちなみに合言葉は〝エヴェリーナに乾杯〟。
その機会が、今日はもうありませんよ……というお芝居。
「……」
お芝居、よね?
ディーンがちょっと、神妙すぎる顔をしている気がする。
やっぱり家族じゃない人には、刺激が強すぎた?
「はあっ!?」
妹が追い打ちをかける。
「招かれてもいない上に悪趣味なお客がなに仕切ろうとしてるの?」
「パーティーだろ」
「パーティー? こんな茶番はパーティーはじゃないわ!! だいたい家族のお祝いとか意味ありませんからぁ~! もう家族じゃなくなるし? みぃ~んな私の僕にしてあげてもいいけど? だけど、一緒にライル侯爵家には連れて行ってあげられませぇ~ん! せいぜい私の機嫌をとって、くだらない伯爵家を存続させるのね! 言っておくけど、次に私をお祝いする時には、みみっちい家族への贈り物じゃ足りないからね? 未来の侯爵夫人への最上級の貢ぎ物を用意しなさいよ? つまらないモノよこしたらオーベリソン伯爵家もシーヴ伯爵家もぶっ潰す。アルヴィン様は私に夢中なの。なんだって言う事を聞いてくれる。あんたも、あんたも、あんたも、あんたも! つまんない人間を生かしておいてあげる私に感謝しなさい! 心の底からねっ!!」
バアァァァァァァァンッ!!
「きゃあっ!!」
「ひゃあっ!」
「なにッ!?」
「わっ」
棚からアルヴィン卿が飛び出した。
母が妹の名を叫ぶ。
「座りなさい」
父も応戦。
なんといっても、今日は優勢。
「こんな茶番はもううんざり! 私よりそんな女がいいって目の腐った伯爵様なんか私を好きになってくれなくて結構だわ!! 虫唾が走るッ!!」
「まあ!」
キモいって言わないのね。
語彙が増えてる。
「どうしたんだ? 酔ったのか? 俺が一途にカルロッテを愛しているのは当然じゃないか。君だって素晴らしい婚約者がいるんだろう? その男に熱烈に口説いてもらえばいい」
「〝その男〟!? 口を謹んでちょうだい! あんたみたいなくだらない伯爵は口も利いてもらえないような立派な侯爵令息なんだから!! 私を選ぶまともな目だってついてるし! 本当にもう! ずっとお姉様が馬鹿なのかと思っていたけど……馬鹿なんだろうけどっ、馬鹿に馬鹿が妙な自信を与えちゃって図に乗らせまくってたんじゃない! そんな女で満足って男なんだったらもう私になにも言わないでッ!! なにも聞きたくない! 消えて! 私の視界に入らないでッ!!」
ガタン!
と、派手な音を立てて父も起立。
「謝りなさい!」
声が裏返るくらい昂っている。
「嫌よッ!!」
それとはひきかえに妹の声は高いだけで力強い。
「お前を祝いに来てくださったんだぞ!?」
「勝手に来たんでしょう!? 家族パーティーだっつーのにのこのこと! 何様よ! しかも私を祝うんじゃなく、腐った目で何万倍も素敵に見えるこの女にただ会いに来ただけじゃないッ!! 謝ってもらうなら私! 主役なのに蔑ろにされたこの私よぉッ!!」
「カルロッテも今日の主役だッ!」
「ふざけるなクソ爺!! たかがちんけな伯爵のくせに、いずれ侯爵夫人になる私に指図しないで!!」
ついに母も起立。
「あなたのお父様よ!?」
「はあっ!? お母様のくせに。黙ってろブス!」
「!」
母がショックで顔面蒼白。
こうなると静観しているわけにもいかず、私も腰をあげた。
「ちょっと。私になに言ってもいいけど、お母様にそれはないでしょ。謝りなさい」
アルヴィン卿の眼前で妹の本性を暴くという意味では成功だけれど、母に矛先が向くのは想定外だ。今まで絶対的に味方……というかもはや子分だった母がついに意見したという事で、妹は激高しているのだろう。私を罵る時より、当たりが強い。
「外野は口挟まないでくれる?」
「え?」
妹が真顔で言うので、私も一瞬、思考が止まった。
外野?
えっと、私が?
妹はテーブルに片手をついて寄りかかり、母の顔を覗き込んで睨んだ。
「私のためのパーティーでしょ? なに言ってらっしゃるの? ご自分のなさった事わかってる? 次はなくてよ? あと1回でも私を侮辱しようもんなら、結婚後、私がオーベリソン伯爵家を潰す」
「あなた……、なっ、なに言ってるの……ッ!?」
母が泣きだした。
妹が笑った。
「私はライル侯爵家に嫁ぐの。格上よ? おわかりでしょう? わからないの? あんたみたいなつまんない女から私のような天使が生まれてあげたのに、その恩を忘れちゃったのかしら。お母様?」
「……」
私は唖然と我が妹を凝視。
父は負けて、額を押えて着席。
微妙な空気が満ちたその時、ディーンが静かに口を挟んだ。
「乾杯はなしだ」
妹以外、アルヴィン卿がそこの棚に身を潜めていると知っている。ちなみに下段。
ディーンが合言葉を言ったら、バーンとサプライズ登場する予定だった。ちなみに合言葉は〝エヴェリーナに乾杯〟。
その機会が、今日はもうありませんよ……というお芝居。
「……」
お芝居、よね?
ディーンがちょっと、神妙すぎる顔をしている気がする。
やっぱり家族じゃない人には、刺激が強すぎた?
「はあっ!?」
妹が追い打ちをかける。
「招かれてもいない上に悪趣味なお客がなに仕切ろうとしてるの?」
「パーティーだろ」
「パーティー? こんな茶番はパーティーはじゃないわ!! だいたい家族のお祝いとか意味ありませんからぁ~! もう家族じゃなくなるし? みぃ~んな私の僕にしてあげてもいいけど? だけど、一緒にライル侯爵家には連れて行ってあげられませぇ~ん! せいぜい私の機嫌をとって、くだらない伯爵家を存続させるのね! 言っておくけど、次に私をお祝いする時には、みみっちい家族への贈り物じゃ足りないからね? 未来の侯爵夫人への最上級の貢ぎ物を用意しなさいよ? つまらないモノよこしたらオーベリソン伯爵家もシーヴ伯爵家もぶっ潰す。アルヴィン様は私に夢中なの。なんだって言う事を聞いてくれる。あんたも、あんたも、あんたも、あんたも! つまんない人間を生かしておいてあげる私に感謝しなさい! 心の底からねっ!!」
バアァァァァァァァンッ!!
「きゃあっ!!」
「ひゃあっ!」
「なにッ!?」
「わっ」
棚からアルヴィン卿が飛び出した。
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