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4 ディーンの計画

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 母がしくしく泣いて、父がぶつぶつ悩んで、私はちょっとニヤニヤしていた。
 

「なんとかして、わからせてやらないと……!」


 隣に座り直したディーンは、相変わらずワナワナしている。
 

「何度かそれとなくお伝えしてみたのですけれど、アルヴィン卿はまったく気に留めてないご様子で……」

「なんて言ったんです?」


 彼は母にも優しい。
 母本人が妹の誕生に驚いているように、母自身は私と同じ系統の顔だから。


「『ちょっと性格が……』って」

「それでは伝わりませんよ」

「『気が強くて……』とも」

「それは俺のカルロッテですね」

「ちなみにアルヴィン卿は私にも好意的よ」


 母と彼の会話に笑顔で割り込むと、彼は閃いた表情で息を止めた。
 そして手をポンと打ち鳴らし、宣言した。


「いい手がある!」

「?」

「!?」


 母と父が希望を込めて顔をあげる。
 私は彼が面白くて、どちらかというとそっちの観点で頬杖をついて彼の横顔を見つめた。


「……!」


 姿勢のため上目遣いになっている私の顔をチラ見して、彼が頬を染めた。
 もう、この人、本当に私が好きなのね……

 愛を込めて瞬きしてみる。


「!」


 ドキッ!

 ……としたあと、彼は伏目がちな高速瞬きで応えた。
 なにか文脈がありそうな気がするけど、わからない。


「あなたたちが本当に仲が良くて、それだけが救いよ……」


 母が涙を拭いた。
 そんな母を肩を、父が支えた。


「あなた方には負けますよ。いや、嘘です。ディルロッテ最強!」

「ディルロッテか……」


 父の中に浸透しつつある。


「それで、どんな計画を思いついたの?」


 私も父を倣って、彼の肩に手を置いた。
 ディーンは両親のほうを向いたまま私の手に分厚くて大きな手を被せ、握ったり撫でたり指先をこねくり回したりしながら、真面目な顔で言った。


「こういう計画です──」



   *  *  *



 というわけで、私は婚約者であるシーヴ伯爵ディーン・エングフェルト卿に伴われ、妹の婚約者ライル侯爵令息アルヴィン・クーパー卿を訪ねた。エヴェリーナとのおデート後すぐ追った。

 妹には、両親から私単身で結婚前の《神と妻》という勉強会のため教会に数日泊まり込むと言ってもらった。
 どんな嘘も、教会と聞けば妹は追及しない。もちろん、敬虔だからではない。
 

「婚前旅行だ!」


 と、彼は大喜び。
 それだけで価値があった。

 ちなみに、結婚してからするべき事は、結婚してからする慎ましい私たちである。


「ようこそライル侯爵家へ。ああ、父上、私の客人です。エヴェリーナの姉君レディ・カルロッテとその婚約者のシーヴ伯爵ですよ」

「突然の訪問を快くお迎えくださり感謝致します」


 温厚そうな美麗の侯爵令息に、私の獣が伯爵らしい挨拶をした。
 新鮮でキュンとした。


「なにを言うんです。私たちはそう遠くない未来、縁戚になるのですよ? 年も近い。家族みたいなものです」


 いい人だ。
 妹を嫁がせるには、忍びないほどに。

 そしてなにより恐ろしいのは、アルヴィン卿と妹のいい所を受け継いで最高に美しい令息なり令嬢なりが生まれた際に、性格が母親エヴェリーナ似になって被害者が増える事。

 なんとしても、アルヴィン卿に目を覚ましてもらわなくては。


「さあ、こちらへ」


 私たちはアルヴィン卿に誘われ、薔薇香るテラスで歓談した。
 そしてついにディーンが計画を持ち掛けた。
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