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09 俺のミレイユ
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「私の名前はミレイユ・オレリー・ベルトンよッ!!」
アルマン伯爵が剣を抜いた。
気づかなかった。武器を所持していたのだ。月灯りに刃がキラリと光る。
私とセドリックは左右に分かれて飛んだ。
空いたベッドの真ん中に、ボスッとアルマン伯爵が沈む。体形からは予想できなかった身の熟しだ。なるほど。でも大した問題ではない。私はウサギを狩りイノシシを倒すレディだから、寄宿学校にぶち込まれていたのだ。
「セディ、大丈夫っ?」
「……」
返事がない。
体は起きても、彼の頭がまだ眠っているのかもしれない。
私が守ってあげるわ。
愛しのセディ。
「……」
胸の中で呟いたセリフに、思わずキョトンとしてしまう。
ベッドの上では鬼の形相でアルマン伯爵が顔をあげ、再び剣を構えた。
さあ、かかって来なさい。イノシシちゃん。あんただけは好きになれないけど。
胸中でそんな悪態をついた私は目の前の展開に呆然としてしまった。セドリックがすっとアルマン伯爵の剣を奪い、伯爵を蹴って、転がった伯爵に跨り、剣の先端を伯爵の眉間に突き立てたのだ。
「誰のミレイユだって? ミミは、生まれた時から俺のものなんだよ」
「……っ」
アルマン伯爵が目を剥いて息を呑む。
私も、息を止めて、胸を押さえた。
急に力が抜けて、それなのに、体が固まってしまって動けない。
初めて見る男性のようで、でも、私のセドリック。
可愛い幼馴染で大親友の彼が、私の夫。
いつも私の味方で、いつも一緒にいてくれて、私の事ならなんでもわかってくれるセディ。誰よりも愛してくれているのだとわかっていたのに、なぜ気づかなかったのだろう。
近すぎて、見えなかったのかもしれない。
彼の姿も。
私の心も。
「貴様、不敬罪で訴えてやるぞ……」
伯爵は闘志を絶やさず、セドリックを睨みつけている。でも誰がどう見たって負けだ。勝っているのは胴回りのサイズだけ。
セドリックは絶妙な位置で剣を止めていた。彼の匙加減でも、伯爵のくしゃみでも、ちょっとでも動けば眉間をグサリだ。
「……」
我に返って、窓から外を見おろした。伯爵に仲間がいないか確かめるためだ。すぐ前の木に馬が繋がれていた。剣もそうだけれど、馬にも乗れるのが意外だった。下の階も静まり返ったままだし、たぶん伯爵はひとりで乗り込んで来たのだろう。
「ミミ」
セドリックに呼ばれた。
広い背中を向けたまま、こちらを見ずに、低い声で彼は言った。
「止めを刺すだろ?」
「……ええ、そうね」
息はぴったりだ。
私は気を溜めて構え、彼がするりとベッドを下りる。
伯爵が驚愕した次の瞬間、怒りの鉄拳をぶち込んだ。
アルマン伯爵が剣を抜いた。
気づかなかった。武器を所持していたのだ。月灯りに刃がキラリと光る。
私とセドリックは左右に分かれて飛んだ。
空いたベッドの真ん中に、ボスッとアルマン伯爵が沈む。体形からは予想できなかった身の熟しだ。なるほど。でも大した問題ではない。私はウサギを狩りイノシシを倒すレディだから、寄宿学校にぶち込まれていたのだ。
「セディ、大丈夫っ?」
「……」
返事がない。
体は起きても、彼の頭がまだ眠っているのかもしれない。
私が守ってあげるわ。
愛しのセディ。
「……」
胸の中で呟いたセリフに、思わずキョトンとしてしまう。
ベッドの上では鬼の形相でアルマン伯爵が顔をあげ、再び剣を構えた。
さあ、かかって来なさい。イノシシちゃん。あんただけは好きになれないけど。
胸中でそんな悪態をついた私は目の前の展開に呆然としてしまった。セドリックがすっとアルマン伯爵の剣を奪い、伯爵を蹴って、転がった伯爵に跨り、剣の先端を伯爵の眉間に突き立てたのだ。
「誰のミレイユだって? ミミは、生まれた時から俺のものなんだよ」
「……っ」
アルマン伯爵が目を剥いて息を呑む。
私も、息を止めて、胸を押さえた。
急に力が抜けて、それなのに、体が固まってしまって動けない。
初めて見る男性のようで、でも、私のセドリック。
可愛い幼馴染で大親友の彼が、私の夫。
いつも私の味方で、いつも一緒にいてくれて、私の事ならなんでもわかってくれるセディ。誰よりも愛してくれているのだとわかっていたのに、なぜ気づかなかったのだろう。
近すぎて、見えなかったのかもしれない。
彼の姿も。
私の心も。
「貴様、不敬罪で訴えてやるぞ……」
伯爵は闘志を絶やさず、セドリックを睨みつけている。でも誰がどう見たって負けだ。勝っているのは胴回りのサイズだけ。
セドリックは絶妙な位置で剣を止めていた。彼の匙加減でも、伯爵のくしゃみでも、ちょっとでも動けば眉間をグサリだ。
「……」
我に返って、窓から外を見おろした。伯爵に仲間がいないか確かめるためだ。すぐ前の木に馬が繋がれていた。剣もそうだけれど、馬にも乗れるのが意外だった。下の階も静まり返ったままだし、たぶん伯爵はひとりで乗り込んで来たのだろう。
「ミミ」
セドリックに呼ばれた。
広い背中を向けたまま、こちらを見ずに、低い声で彼は言った。
「止めを刺すだろ?」
「……ええ、そうね」
息はぴったりだ。
私は気を溜めて構え、彼がするりとベッドを下りる。
伯爵が驚愕した次の瞬間、怒りの鉄拳をぶち込んだ。
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