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08 返り討ちよ!
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ベッドに俯せで並んで、一緒にリディからの手紙を読んだ。
読んだというか……見た。とても短いから。
「迷惑」
「真面目に用心したほうがよさそうだなぁ」
交差した腕に顎を乗せて、セドリックは少し眠そうに呟く。
私は手紙を封筒に収め、サイドテーブルの抽斗にしまった。今度は仰向けに転がる。
「こっちはもう貴族じゃないんだし、醜聞なんか撒いても意味ないでしょ? じゃあ何をするかっていったら、私に復讐するんだと思うの」
「ミミの恐さを知らなけりゃ、力ずくでどうにかできると思うかも」
「私、可愛いしね」
「そうだね」
横を向いて、彼を間近から見つめる。
「もしもの時は本気でやり返すけど、私が何しても嫌いにならないでくれる?」
「もちろんだよ。むしろ応援してる。俺も怨まれてるだろうからなぁ。あああ、ミミがいない時に襲われたらどうしよう!」
ふざけて彼がガタガタ怯え始めた。
もう、馬鹿なんだから。
逞しくなって、すっかり大人の体になってしまった腕をバシンと叩く。
「はあうっ!」
「ちょっと! 私だって女の子なんだからねッ! 守られるほう!!」
「く……っ、逃げろアルマン伯爵、命はないぞ……ッ、かはっ」
息絶えたふりをして、彼はしばらく死体を演じ続けた。
ベッドに伏せたままピクリともしない。
寝たのかしら?
今度は普通の強さで、肩をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫よ、セディ。あなたに手出しさせないわ」
夢に向かって毎日頑張っている彼に、余計な心配はかけたくない。
セドリックは寝ていなかった。あやすように叩く私の手をそっと止めて、優しく握ってくる。でも頭は伏したままだ。別に、言葉はいらなかった。そうしてくれるだけで、私はとても安心した。
不安だったんじゃない。
ふたりでいれば無敵なんだって、改めて思ったのだ。
セドリックも仰向けになった。
腕を伸ばして枕元の灯りを消す。静かな夜の闇に包まれる。
子供の頃、海賊ごっこをしたときと同じように、手をつないで眠った──けれど。
ガシャン!
「!」
突然の音に驚いて起きると、隣で彼も跳ね起きた。
狭い寝室の窓が割られ、風が舞いこんできていた。私はシーツを握りしめて固唾を呑んだ。
「……」
なんだっていうの。
強盗?
こんな、いかにも貧しそうな家に?
そう考えた一瞬、私はまだ寝惚けていたらしい。
窓の外から梯子がかかった。
そう、ここは2階だ。セドリックが窓を警戒したまま、腕で私を庇った。あっという間の出来事だったのだ。
そして、お待ちかねの人物がヌッと現れた。
「ミレイユ・オレリー・デュフレーヌ、よくもこの私を侮辱してくれたな……ッ!」
アルマン伯爵。
怨嗟の炎がメラメラ燃えている。それはもう、恐ろしい形相だ。
怨むにしたって、常軌を逸している。
「ふざけんじゃないわよ!」
考えるより先に怒鳴っていた。
「そっちが先に侮辱したんでしょ! 結婚ッ!? あんたにねぇ、私の人生決める権利ないのよ!!」
「黙れぇッ!!」
太っちょの体なわりに、アルマン伯爵はすいすいと梯子を上り切って入って来た。異様な生き物を前にして、さすがに恐くなった。けれど、
「認めない! お前は私のものだ、ミレイユッ!!」
カチンときて、恐怖は消えた。
ついにベッドから腰を浮かす。私の中でメラメラと憤怒が燃える。
さあ、釣れた。
掻っ捌いてやる時だ!
読んだというか……見た。とても短いから。
「迷惑」
「真面目に用心したほうがよさそうだなぁ」
交差した腕に顎を乗せて、セドリックは少し眠そうに呟く。
私は手紙を封筒に収め、サイドテーブルの抽斗にしまった。今度は仰向けに転がる。
「こっちはもう貴族じゃないんだし、醜聞なんか撒いても意味ないでしょ? じゃあ何をするかっていったら、私に復讐するんだと思うの」
「ミミの恐さを知らなけりゃ、力ずくでどうにかできると思うかも」
「私、可愛いしね」
「そうだね」
横を向いて、彼を間近から見つめる。
「もしもの時は本気でやり返すけど、私が何しても嫌いにならないでくれる?」
「もちろんだよ。むしろ応援してる。俺も怨まれてるだろうからなぁ。あああ、ミミがいない時に襲われたらどうしよう!」
ふざけて彼がガタガタ怯え始めた。
もう、馬鹿なんだから。
逞しくなって、すっかり大人の体になってしまった腕をバシンと叩く。
「はあうっ!」
「ちょっと! 私だって女の子なんだからねッ! 守られるほう!!」
「く……っ、逃げろアルマン伯爵、命はないぞ……ッ、かはっ」
息絶えたふりをして、彼はしばらく死体を演じ続けた。
ベッドに伏せたままピクリともしない。
寝たのかしら?
今度は普通の強さで、肩をぽんぽんと叩いた。
「大丈夫よ、セディ。あなたに手出しさせないわ」
夢に向かって毎日頑張っている彼に、余計な心配はかけたくない。
セドリックは寝ていなかった。あやすように叩く私の手をそっと止めて、優しく握ってくる。でも頭は伏したままだ。別に、言葉はいらなかった。そうしてくれるだけで、私はとても安心した。
不安だったんじゃない。
ふたりでいれば無敵なんだって、改めて思ったのだ。
セドリックも仰向けになった。
腕を伸ばして枕元の灯りを消す。静かな夜の闇に包まれる。
子供の頃、海賊ごっこをしたときと同じように、手をつないで眠った──けれど。
ガシャン!
「!」
突然の音に驚いて起きると、隣で彼も跳ね起きた。
狭い寝室の窓が割られ、風が舞いこんできていた。私はシーツを握りしめて固唾を呑んだ。
「……」
なんだっていうの。
強盗?
こんな、いかにも貧しそうな家に?
そう考えた一瞬、私はまだ寝惚けていたらしい。
窓の外から梯子がかかった。
そう、ここは2階だ。セドリックが窓を警戒したまま、腕で私を庇った。あっという間の出来事だったのだ。
そして、お待ちかねの人物がヌッと現れた。
「ミレイユ・オレリー・デュフレーヌ、よくもこの私を侮辱してくれたな……ッ!」
アルマン伯爵。
怨嗟の炎がメラメラ燃えている。それはもう、恐ろしい形相だ。
怨むにしたって、常軌を逸している。
「ふざけんじゃないわよ!」
考えるより先に怒鳴っていた。
「そっちが先に侮辱したんでしょ! 結婚ッ!? あんたにねぇ、私の人生決める権利ないのよ!!」
「黙れぇッ!!」
太っちょの体なわりに、アルマン伯爵はすいすいと梯子を上り切って入って来た。異様な生き物を前にして、さすがに恐くなった。けれど、
「認めない! お前は私のものだ、ミレイユッ!!」
カチンときて、恐怖は消えた。
ついにベッドから腰を浮かす。私の中でメラメラと憤怒が燃える。
さあ、釣れた。
掻っ捌いてやる時だ!
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