上 下
5 / 17

5 餌付け作戦

しおりを挟む
 全8組の勝ち抜き戦で、最終的に6位につけた。
 初出場としては、まあ充分だ。

 ところで。
 今日ほどチヤホヤされた経験は、未だかつて、ない。


「レディ・イーディス! いやぁ、素晴らしい腕前ですな!」

「ありがとうございます」

「あなたに撃ち抜かれる鷹になりたいッ!!」

「恐れ入りま……鷹?」


 どう見てもクマ……


「レディ・イーディス!!」

「はい、どうも──」

「レディ・イーディス! 6位おめでとうございます!」

「ええ──」

「レディ・イーディス!!」


 射撃大会の後の昼食会は、青空の下、美しい草原で開かれた。
 基本的には立食形式で、すぐそこの婦人用テーブルには天蓋が設けられている。
 私は狩猟スタイルのまま、そして腹ペコのまま、豪勢な昼食に手も付けられずひっきりなしに声を掛けられていた。
 騒がしくて、誰も私の腹の虫の囀りなんて聞きやしない。


「まったく素晴らしいお嬢さんですなぁ!」

「ぬははははッ!」


 向こうで父もご満悦。
 ちなみに父は23位。年か……。


「レディ・イーディス」


 隣に青年が立っていた。
 

「ホレス!」


 さっきまでの人垣が嘘のように引いている。
 それもそのはず。

 このホレス・マレット子爵は3位だ。
 ウォリロウ公爵主催のこの射撃大会においては、爵位より射撃スキルが全て。


「3位おめでとう」

 
 握手を求めた。
 彼はそれに応えたあとでテーブルの鴨肉のサンドウィッチをナプキンで包み、私に渡し、目線で食べるよう促した。


「大人気ですね」

「ええ。こんなにモテたのは初めてよ」


 あとお腹空いたわ。
 私はありがたくサンドウィッチにかぶりついた。


「見事な腕前でした」

「あなたには負けるわ」

「もし団体戦があって我々が組めば、優勝間違いなしですよ」

「はは! そうね」


 ホレスは気のいい青年子爵だ。
 ただ残念なのは、美しい目を隠すような髪型と、老けて見える髭。なにを目指したスタイルなのかわからないけれど、壊滅的にセンスが悪い。

 と思って見ていたら、ホレスが目を細めて口元を指差した。


「髭? いっそ剃ったら?」

「違う。ここ、ソースがついています」

「……」


 やだ。
 恥ずかしい。

 ホレスに渡されたナプキンで口角を拭いて、私は大胆に話題を変える。
 青の天空を駆ける鷹のように。


「いい天気ね。うちの地方はまだ寒くて、ともすれば雪が降るの」

「あたたかいほうが好き?」

「まあ寒いよりはね。あなたは?」

「暑いよりは、このくらいがいいです」


 気が合うわ。


「あなたは食べたの? どうせ人気者で、手が付けられなかったんじゃない?」

「心配ない」

「え?」


 ふと口調に違和感を覚えたけれど、彼がイチジクのパイを摘まんでミルクを私の前に置いてくれたので、サンドウィッチを平らげてしまう事に専念した。

 それにしても、ホレス。

 前髪が邪魔。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru
恋愛
クラリッサは苛立っていた。 婚約者のエミリオがここ1年浮気をしている。その事を両親や祖父母、エミリオの親に訴えるも我慢をするのが当たり前のように流されてしまう。 以前のエミリオはそうじゃ無かった。喧嘩もしたけれど仲は悪くなかった。 エミリオの心変わりはファルマという女性が現れてからの事。 「このまま結婚していいのかな」そんな悩みを抱えていたが、王家主催の夜会でエミリオがエスコートをしてくれるのかも連絡が来ない。 欠席も遅刻も出来ない夜会なので、クラリッサはエミリオを呼び出しどうするのかと問うつもりだった。 しかしエミリオは「お前は保険だ」とクラリッサに言い放つ。 ファルマと結ばれなかった時に、この年から相手を探すのはお互いに困るだろうと言われキレた。 父に「婚約を解消できないのならこのまま修道院に駆け込む!」と凄み、遂に婚約は解消になった。 エスコート役を小父に頼み出席した夜会。入場しようと順番を待っていると騒がしい。 何だろうと行ってみればエミリオがクラリッサの友人を罵倒する場だった。何に怒っているのか?と思えば友人がファルマを脅し、持ち物を奪い取ったのだという。 「こんな祝いの場で!!」クラリッサは堪らず友人を庇うようにエミリオの前に出たが婚約を勝手に解消した事にも腹を立てていたエミリオはクラリッサを「お一人様で入場なんて憐れだな」と矛先を変えてきた。 そこに「遅くなってすまない」と大きな男性が現れエミリオに言った。 「私の連れに何をしようと?」 ――連れ?!―― クラリッサにはその男に見覚えがないのだが?? ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★6月15日投稿開始、完結は6月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

覚悟はありますか?

とわ
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約は破棄します‼ ~そしてイケメンな幼馴染と結婚して幸せに暮らしました~

百谷シカ
恋愛
私を寄宿学校なんかに閉じ込めたくせして、お父様が手紙を送ってきた。 『ミレイユ、お前は婚約した。お相手のアルマン伯爵が会いたがっている。伯爵が広場まで迎えに行くそうだ。外泊許可はこちらで取り付ける。失礼のないように。日程は下記の通り』 「──はっ?」 冗談でしょ?  そりゃ、いつかは政略結婚で嫁ぐとは思ってきたけど、今なの? とりあえず、角が立たないように会うだけ会うか。 当日、汽車の窓から婚約者を見て悪寒がした。気持ち悪い中年男だ。私は見つからないように汽車を乗り継ぎ、別の町へ向かった。この生理的に無理な結婚から逃れるためには、奥の手を使うしかない。幼馴染のセドリックと結婚するのだ。 「あんな男と結婚したくないの、助けて!」 「いいよ」 親友同士、きっとうまくやれる。そう思ったのに…… 「ところで俺、爵位いらないから。大工になるけど、君、一緒に来るよね?」 「……んえっ?」 ♡令嬢と令息の庶民体験型ラブストーリー♡ ===================================== (完結済) (2020.9.7~カクヨム掲載)

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

処理中です...