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5 餌付け作戦
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全8組の勝ち抜き戦で、最終的に6位につけた。
初出場としては、まあ充分だ。
ところで。
今日ほどチヤホヤされた経験は、未だかつて、ない。
「レディ・イーディス! いやぁ、素晴らしい腕前ですな!」
「ありがとうございます」
「あなたに撃ち抜かれる鷹になりたいッ!!」
「恐れ入りま……鷹?」
どう見てもクマ……
「レディ・イーディス!!」
「はい、どうも──」
「レディ・イーディス! 6位おめでとうございます!」
「ええ──」
「レディ・イーディス!!」
射撃大会の後の昼食会は、青空の下、美しい草原で開かれた。
基本的には立食形式で、すぐそこの婦人用テーブルには天蓋が設けられている。
私は狩猟スタイルのまま、そして腹ペコのまま、豪勢な昼食に手も付けられずひっきりなしに声を掛けられていた。
騒がしくて、誰も私の腹の虫の囀りなんて聞きやしない。
「まったく素晴らしいお嬢さんですなぁ!」
「ぬははははッ!」
向こうで父もご満悦。
ちなみに父は23位。年か……。
「レディ・イーディス」
隣に青年が立っていた。
「ホレス!」
さっきまでの人垣が嘘のように引いている。
それもそのはず。
このホレス・マレット子爵は3位だ。
ウォリロウ公爵主催のこの射撃大会においては、爵位より射撃スキルが全て。
「3位おめでとう」
握手を求めた。
彼はそれに応えたあとでテーブルの鴨肉のサンドウィッチをナプキンで包み、私に渡し、目線で食べるよう促した。
「大人気ですね」
「ええ。こんなにモテたのは初めてよ」
あとお腹空いたわ。
私はありがたくサンドウィッチにかぶりついた。
「見事な腕前でした」
「あなたには負けるわ」
「もし団体戦があって我々が組めば、優勝間違いなしですよ」
「はは! そうね」
ホレスは気のいい青年子爵だ。
ただ残念なのは、美しい目を隠すような髪型と、老けて見える髭。なにを目指したスタイルなのかわからないけれど、壊滅的にセンスが悪い。
と思って見ていたら、ホレスが目を細めて口元を指差した。
「髭? いっそ剃ったら?」
「違う。ここ、ソースがついています」
「……」
やだ。
恥ずかしい。
ホレスに渡されたナプキンで口角を拭いて、私は大胆に話題を変える。
青の天空を駆ける鷹のように。
「いい天気ね。うちの地方はまだ寒くて、ともすれば雪が降るの」
「あたたかいほうが好き?」
「まあ寒いよりはね。あなたは?」
「暑いよりは、このくらいがいいです」
気が合うわ。
「あなたは食べたの? どうせ人気者で、手が付けられなかったんじゃない?」
「心配ない」
「え?」
ふと口調に違和感を覚えたけれど、彼がイチジクのパイを摘まんでミルクを私の前に置いてくれたので、サンドウィッチを平らげてしまう事に専念した。
それにしても、ホレス。
前髪が邪魔。
初出場としては、まあ充分だ。
ところで。
今日ほどチヤホヤされた経験は、未だかつて、ない。
「レディ・イーディス! いやぁ、素晴らしい腕前ですな!」
「ありがとうございます」
「あなたに撃ち抜かれる鷹になりたいッ!!」
「恐れ入りま……鷹?」
どう見てもクマ……
「レディ・イーディス!!」
「はい、どうも──」
「レディ・イーディス! 6位おめでとうございます!」
「ええ──」
「レディ・イーディス!!」
射撃大会の後の昼食会は、青空の下、美しい草原で開かれた。
基本的には立食形式で、すぐそこの婦人用テーブルには天蓋が設けられている。
私は狩猟スタイルのまま、そして腹ペコのまま、豪勢な昼食に手も付けられずひっきりなしに声を掛けられていた。
騒がしくて、誰も私の腹の虫の囀りなんて聞きやしない。
「まったく素晴らしいお嬢さんですなぁ!」
「ぬははははッ!」
向こうで父もご満悦。
ちなみに父は23位。年か……。
「レディ・イーディス」
隣に青年が立っていた。
「ホレス!」
さっきまでの人垣が嘘のように引いている。
それもそのはず。
このホレス・マレット子爵は3位だ。
ウォリロウ公爵主催のこの射撃大会においては、爵位より射撃スキルが全て。
「3位おめでとう」
握手を求めた。
彼はそれに応えたあとでテーブルの鴨肉のサンドウィッチをナプキンで包み、私に渡し、目線で食べるよう促した。
「大人気ですね」
「ええ。こんなにモテたのは初めてよ」
あとお腹空いたわ。
私はありがたくサンドウィッチにかぶりついた。
「見事な腕前でした」
「あなたには負けるわ」
「もし団体戦があって我々が組めば、優勝間違いなしですよ」
「はは! そうね」
ホレスは気のいい青年子爵だ。
ただ残念なのは、美しい目を隠すような髪型と、老けて見える髭。なにを目指したスタイルなのかわからないけれど、壊滅的にセンスが悪い。
と思って見ていたら、ホレスが目を細めて口元を指差した。
「髭? いっそ剃ったら?」
「違う。ここ、ソースがついています」
「……」
やだ。
恥ずかしい。
ホレスに渡されたナプキンで口角を拭いて、私は大胆に話題を変える。
青の天空を駆ける鷹のように。
「いい天気ね。うちの地方はまだ寒くて、ともすれば雪が降るの」
「あたたかいほうが好き?」
「まあ寒いよりはね。あなたは?」
「暑いよりは、このくらいがいいです」
気が合うわ。
「あなたは食べたの? どうせ人気者で、手が付けられなかったんじゃない?」
「心配ない」
「え?」
ふと口調に違和感を覚えたけれど、彼がイチジクのパイを摘まんでミルクを私の前に置いてくれたので、サンドウィッチを平らげてしまう事に専念した。
それにしても、ホレス。
前髪が邪魔。
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