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3 撃退!

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「あら、。またお顔を拝見するとは思いませんでしたわ。うちになにか御用?」


 父の手紙を受け、リーバー伯爵はすぐさま謝罪を返して来た。
 そして息子の愚かさを嘆いては詫び、詫びては嘆き、『そのような無礼を働いた愚息ではお嬢様をお迎えするに申し訳ない事この上なく、こちらが婚約を破棄されるべき立場と存じます』と書いてあったのを見た。


「あーのー……やっぱり、イーディスと結婚したいなぁ……って」

「は? それ、喜ぶと思ってるの?」


 この無礼によって、ハドリーは爵位を継げなくなった。
 私を納得させられたらその戒めが解けるらしい。

 知ってるのよ、ハドリー・ハイランド。


「だ……って、君はプライドを傷つけられたから怒ったんだろう? だけど、キャンディーのほうが可愛いと言ったからって、君を不細工だなんて言ってない。君だって綺麗だよ。ただその、活動的な趣味が……」

「婚約破棄で結構よ。私はこの腕に惚れてくれる夫を射止めるから」

「あ! イーディス!!」


 敷地内には入れたけど、屋敷に入れるつもりは毛頭ない。
 前庭で食い止めていた私は、婚約者にくるりと背を向けた。

 すると、玄関からキャンディーが姿を現した。


「キャンディー……!」


 ハドリーの声が弾む。


「あぁ……っ」


 溜息がキモい。
 
 キャンディーは両手を腰の後ろに回し、なにか持っているようだ。膨らんだドレスの襞に隠れてその正体はわからない。
 それをプレゼントと勘違いしたらしいハドリーが、


「うわぁ、優しいなぁ」


 と呟いた。

 むすっとした顔のキャンディーは、据わった目を地面から徐々に上げつつ、小走りに速度をあげた。


「……あれ?」


 ハドリーも、やっと、わかったようだ。

 キャンディーが目を剥いて走り出した。その可憐な細い手には、そこそこなサイズのフライパンが握られている。


「えええ!?」

「あーあ。怒らせるから」

「イッ、イーディス! たすけ──」


 キャンディーは足が速い。
 私の横を駆け抜け、風がふわりと髪をゆらした。


「ひいっ」

「うんぬっ!」

「待って、キャンでいっ!」


 鉄板フライパンがハドリーの尻に直撃。


「つあああ!」

「ふん!」

「いやっ、待って! ごめん! ごめんなさい!!」

「あんたなんか一生結婚できなきゃいいのよ!」

「ひいっ!」


 こうしてキャンディーの撃退により、この婚約は幕を閉じた。
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