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12 愛のガーデン

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「はわわわわっ、シエラぁ~! そんな事になっているなんて知らずにすまなかったぁぁぁぁぁぁっ」


 殿下に助けられて5日、求婚されて4日。
 父が宮廷に現れた。

 泣いている。


「あの女の顛末は聞いたよ! 本当にすまなかった! 私は最低な父親だぁっ!」

「ええサルバドールその通りよ……」


 向こうからフェリシダード様が童心に返った憤怒の視線を突き刺してきている。


「それに、あのっ、忌々しいベナビデス伯爵家!! あの女の色香に惑わされお前を陥れたとは……私の妻と娘になんて事を!! 妻はもう妻ではないがッ!!」

「案ずるな。我が妹が胸とふとももを異常に強調した甲冑姿で押し掛け、罪状と呪いの言葉を告げたところ、這い蹲って詫びたそうだ」


 私の隣に聳え立つ殿下が、父を見おろして言う。


「追放は免除してほしいと言うので、財産を8割差し押さえました」


 フェリシダード様の声には様々な憎しみが籠っている。
 心強いけれど……ちょっと、強すぎる。


「ああああの女はッ!?」


 お父様。
 よく、訊けるわね……


「追放しました」


 フェリシダード様が最強だという事のどこに驚く点があるのかしら。
 私は驚いたりしない……驚いたりしない……


「よく戻りましたね、フロラコット伯爵」

「ははあっ! 王妃様はお変わりなく大変お美しいッ!! 光栄ですぅ~ッ!」


 もうやだ、お父様……
 泣くかゴマを擦るか、気持ちの整理をつけて……

 本当に心が軟弱なんだから。


「そのお調子者でやや喧しいところが頭痛の種ではありましたが、その明るさがファニタに笑顔を取り戻させ、短くとも素晴らしい結婚生活を齎し、シエラのような可愛らしい完璧な子孫を生み出した事は高く評価しています」


 王妃様の真意が計り兼ねる感じ。
 でも、少なくとも母を愛し、私をも愛そうとしてくださっている事は確かだ。


「フロラコット伯爵。もう放浪の旅はやめて、宮廷に戻るといい。我々は共に、ひとりの愛らしい人の祖父となるのだ。あなたは、善いじぃじになる」

「えっ!? シエラはもうッ!?」

「そうではない」


 私は顔を覆った。
 父が国王陛下に向かって手振りで臨月を表現したから、恥ずかしくて。 



「ふぅ」


 フェリシダード様が忌々しそうに溜息を吐く。
 

「フロラコット伯爵。時が癒してはくれない哀しみがあると、私たちは理解している。だが、その愛の深さは、やがてあなたを微笑ませるはずだ。なぜなら私たちには、シエラがいるのだから」

 
 殿下がそう言って、優しく私の肩に触れた。
 その真剣な強面に、父は恐れ戦いて縮みあがっている。

 けれど、私の胸はあたたかな愛で満たされた。
 母が撒いた優しい愛の種が、今、こうして大輪の花を咲かせたのだ。

 私たちは愛に包まれている。
 そして、育んでいく。

 この場所で。



                               (終)
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