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8 気持ちの整理
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まるで夢を見ているみたいに、足の感覚はなかった。
それでも部屋には辿り着いた。
「では、妹の軍事演習を視察してくる。昼食はふたりきりで」
「(きゃぁ~ッ! ナイス殿下!)」
「(確定だわ! ライジング!!)」
「……はい」
侍女の方々が無声音で歓喜している。
あれはルシンダとヴェロニカ。
「シエラァ~っ! シエラシエラシエラ♪ 聞いたわぁ~♪」
ピンタード伯爵夫人がワルツのステップで向こうから駆けてくる。
「まあそうじゃないかしらって思っていたけど? ねえ、殿下♪」
「なるほど。あなたが母親代わりとなるわけか。では、彼女を頼む。妹が興奮しすぎたせいで、シエラはまともに食べられなかった。食欲が出たら好きなものを好きなだけ与えてくれ」
「はぁ~い、殿下ぁ~♪ ごきげんよぉ~♪」
それなりの歩幅で殿下が歩いていって、
「ああんっ、シエラシエラシエラ! 聞かせてちょうだいっ!」
ピンタード伯爵夫人が私の頬を親密に包み、
「マダム・ピンタード!」
ズイッとマリサが出て来た。
「あら。マリサ」
ピンタード伯爵夫人の眉がキュイッとあがる。
もう、なにがあっても、驚かない。
「シエラ様の事はどうかこの私にお任せください。殿下直々にとお選び頂いた私たち4人が、すべて、抜かりなく、完っ璧に、シエラ様のお世話を致しますので。ご自身のお勤めにお戻りになって頂いて、大丈夫です」
「ンん!」
ピンタード伯爵夫人の咳払い。
「お黙り小娘」
「……」
予想より恐い。
「あの……」
私が声を出した瞬間、ふたりの顔が輝いた。
「なぁに、シエラ!?」
「シエラ様、なんなりと! なんなりとお申し付けください!」
「お腹が空いたの?」
「中にシフォンケーキを用意してあります! お紅茶も!!」
「しょっぱいものがよかったら美味しい燻製の嗜み方を教えてあげられるわぁん♪」
朝から元気で、本当にとっても素晴らしい事だ。
まず、ふたりに頷いて。
公平に掌で防御。
「私、その、疲れが溜まっていて。少し休みます」
「あらやだ、大丈夫!? ミルク粥を持ってきましょうか?」
「マダム・ピンタード、私が」
「いっ、いえっ!」
ふたりが私に注ぐ、興奮の眼差し。
「お気持ちはありがたいのだけれど、少し、静かに、じっとして、気持ちを整理しなくては……お願いします、わかってください」
「んー、まぁそうよねぇ」
「激動の2日間ですからね」
了解を得られた。
「アドラシオンと、ふたりきりにしてください」
「えええっ!?」
マリサが叫んだ。
ところが、ピンタード伯爵夫人は頷いたのだ。
……よし!
「アドラシオンなら救護の心得もあるから安心ね。わかったわ。さ、マリサ。あなたとあなたも。私と一緒にいらっしゃい。シエラはお休みになるわ」
テキパキと指示を出すピンタード伯爵夫人には、私の侍女の方々は逆らえない。
マリサは不満そうで、ヴェロニカも不服そうで、そしてルシンダは、
「マダム・ピンタード! ぜひ侍女の心得をご指導ください!」
前向きだった。
「頼んだわよ、アドラシオン」
「……」
部屋の中に残っていたアドラシオンが、無言のまま膝を折ってお辞儀する。
……アドラシオン。
あなたの正気が必要なの。
私、どうかなってしまいそう!
「それじゃあ、シエラ。あとでね」
若い侍女3人を引き連れたピンタード伯爵夫人が、威厳たっぷりに去っていく。
アドラシオンが静かに歩み寄り、扉を閉めた。
私は彼女の手を掴んだ。
それでも部屋には辿り着いた。
「では、妹の軍事演習を視察してくる。昼食はふたりきりで」
「(きゃぁ~ッ! ナイス殿下!)」
「(確定だわ! ライジング!!)」
「……はい」
侍女の方々が無声音で歓喜している。
あれはルシンダとヴェロニカ。
「シエラァ~っ! シエラシエラシエラ♪ 聞いたわぁ~♪」
ピンタード伯爵夫人がワルツのステップで向こうから駆けてくる。
「まあそうじゃないかしらって思っていたけど? ねえ、殿下♪」
「なるほど。あなたが母親代わりとなるわけか。では、彼女を頼む。妹が興奮しすぎたせいで、シエラはまともに食べられなかった。食欲が出たら好きなものを好きなだけ与えてくれ」
「はぁ~い、殿下ぁ~♪ ごきげんよぉ~♪」
それなりの歩幅で殿下が歩いていって、
「ああんっ、シエラシエラシエラ! 聞かせてちょうだいっ!」
ピンタード伯爵夫人が私の頬を親密に包み、
「マダム・ピンタード!」
ズイッとマリサが出て来た。
「あら。マリサ」
ピンタード伯爵夫人の眉がキュイッとあがる。
もう、なにがあっても、驚かない。
「シエラ様の事はどうかこの私にお任せください。殿下直々にとお選び頂いた私たち4人が、すべて、抜かりなく、完っ璧に、シエラ様のお世話を致しますので。ご自身のお勤めにお戻りになって頂いて、大丈夫です」
「ンん!」
ピンタード伯爵夫人の咳払い。
「お黙り小娘」
「……」
予想より恐い。
「あの……」
私が声を出した瞬間、ふたりの顔が輝いた。
「なぁに、シエラ!?」
「シエラ様、なんなりと! なんなりとお申し付けください!」
「お腹が空いたの?」
「中にシフォンケーキを用意してあります! お紅茶も!!」
「しょっぱいものがよかったら美味しい燻製の嗜み方を教えてあげられるわぁん♪」
朝から元気で、本当にとっても素晴らしい事だ。
まず、ふたりに頷いて。
公平に掌で防御。
「私、その、疲れが溜まっていて。少し休みます」
「あらやだ、大丈夫!? ミルク粥を持ってきましょうか?」
「マダム・ピンタード、私が」
「いっ、いえっ!」
ふたりが私に注ぐ、興奮の眼差し。
「お気持ちはありがたいのだけれど、少し、静かに、じっとして、気持ちを整理しなくては……お願いします、わかってください」
「んー、まぁそうよねぇ」
「激動の2日間ですからね」
了解を得られた。
「アドラシオンと、ふたりきりにしてください」
「えええっ!?」
マリサが叫んだ。
ところが、ピンタード伯爵夫人は頷いたのだ。
……よし!
「アドラシオンなら救護の心得もあるから安心ね。わかったわ。さ、マリサ。あなたとあなたも。私と一緒にいらっしゃい。シエラはお休みになるわ」
テキパキと指示を出すピンタード伯爵夫人には、私の侍女の方々は逆らえない。
マリサは不満そうで、ヴェロニカも不服そうで、そしてルシンダは、
「マダム・ピンタード! ぜひ侍女の心得をご指導ください!」
前向きだった。
「頼んだわよ、アドラシオン」
「……」
部屋の中に残っていたアドラシオンが、無言のまま膝を折ってお辞儀する。
……アドラシオン。
あなたの正気が必要なの。
私、どうかなってしまいそう!
「それじゃあ、シエラ。あとでね」
若い侍女3人を引き連れたピンタード伯爵夫人が、威厳たっぷりに去っていく。
アドラシオンが静かに歩み寄り、扉を閉めた。
私は彼女の手を掴んだ。
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