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4 ひなどりモドキ
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「はっ!」
目が覚めた!
「あら。やっぱりそうなのね。ファニタも寝付きと寝起きがとってもよかったから、そうじゃないかと思ったわ」
「……」
母の友人らしき侍女の人が、にっこり笑っている。
私は自分のものではない寝間着姿で、きちんとベッドの上にいた。体を起こす。見渡すと、運び込まれたあの部屋だった。
「あ、ありがとうございます。私」
「ああん、シエラ。いいのよ。殿下に聞いたわ。大変な目に遭ったんですってね。ちょっと待って。殿下に、あなたが目覚めた事をお伝えするから」
「え……っと」
強面の殿下。
助けてもらった直後に眠ってしまって、会わせる顔がないのだけど……
「パンのかごを持ってソワソワ徘徊してるのよ。まるで雛の面倒を見る親鳥ね」
「……」
え、意外。
母の友人らしき侍女の人が、伸びあがって力強く手を叩いた。
「起きたわ! 殿下にお伝えして!!」
「はい! マダム・ピンタード! 只今!!」
「……」
マダム・ピンタード。
ピンタード伯爵夫人だ。
という事は、王妃様の侍女のピンタード伯爵夫人。
「わわわ……っ」
「あら、どうしたの?」
私なんかに手間を取らせていい相手ではない!
「すっ、すみません! 私、つっ、疲れが酷くてつい」
「あらやだ、ちょっと。そんな急に動かないで。ああん、いいのいいのいいの。シエラ。みんなあなたに会えて嬉しいのよ。そしてみんなあなたを虐めたアレハンドリナって女を切り刻んで煮込んで磨り潰して井戸の底に投げ捨ててやりたいって息巻いてるわ」
「!」
目が本気!
目が本気!!
「だ・か・ら」
鼻をチョンと突っつかれる。
「安心して、ゆっくり休んでちょうだい」
「は──」
「気分はどうだ、シエラ」
「!」
殿下が入ってきた。
そして、本当にパンのかごを携えていた。
「まあ、殿下。本当にすぐ近くにいらっしゃったんですね」
母の友人で王妃様の侍女のピンタード伯爵夫人は、殿下に向かってホホホと笑った。
それにしても、体の大きな殿下が普通のパンのかごを両手で持っている様子が、言葉にできないほど衝撃的で目が逸らせない。
「ああ。さあ、シエラ。いくらでも食べなさい」
「寝起きですよ、殿下」
きゅぅぅぅぅぅぅぅん
「!」
ああ!
お腹が鳴ってしまった!!
「空腹なはずだ」
「でも殿下。シエラは指先にちょっとした傷ができてしまっているのでパンを千切るのは難儀ですわ。私が」
たしかに、それは本当だった。
牢の中で鉄格子を触ったり石の壁や床を触っている間にひっかけたのだ。
「ふむ。それには及ばない」
「いえ、殿下。私が」
「いや、それには及ばないっ」
「殿下!」
ふたりはかごを取り合っている。
私は身繕いをして、ベッドを下り、静かに長椅子に移った。
「シエラ!」
すかさず、かごを持った直後の殿下が横に座った。
「ああんっ。負けた!」
「さあ、シエラ。……ん? 大きく口を開けてみなさい。ああ、なるほど、このくらいか……」
殿下が、太くて長い指で私の一口サイズにパンを裂く。
「……」
困・惑。
「はぁん。見れば見るほど似てるわぁ」
「ふしぎな気持ちだ。ファニタに似ているが、そうではない」
殿下のような高貴な方にこんな事をしてもらってはいけないのだけれど……
かといって、パンが来ちゃうから、断るのも無礼だし……
口を開けて、パンを、頂きました。
「うまいか? シエラ」
「ふぁい」
「焦っちゃ駄目よ。さ、ミルクを」
「ふむ。ミルクだ」
「……」
私もすごく、ふしぎな気持ち。
目が覚めた!
「あら。やっぱりそうなのね。ファニタも寝付きと寝起きがとってもよかったから、そうじゃないかと思ったわ」
「……」
母の友人らしき侍女の人が、にっこり笑っている。
私は自分のものではない寝間着姿で、きちんとベッドの上にいた。体を起こす。見渡すと、運び込まれたあの部屋だった。
「あ、ありがとうございます。私」
「ああん、シエラ。いいのよ。殿下に聞いたわ。大変な目に遭ったんですってね。ちょっと待って。殿下に、あなたが目覚めた事をお伝えするから」
「え……っと」
強面の殿下。
助けてもらった直後に眠ってしまって、会わせる顔がないのだけど……
「パンのかごを持ってソワソワ徘徊してるのよ。まるで雛の面倒を見る親鳥ね」
「……」
え、意外。
母の友人らしき侍女の人が、伸びあがって力強く手を叩いた。
「起きたわ! 殿下にお伝えして!!」
「はい! マダム・ピンタード! 只今!!」
「……」
マダム・ピンタード。
ピンタード伯爵夫人だ。
という事は、王妃様の侍女のピンタード伯爵夫人。
「わわわ……っ」
「あら、どうしたの?」
私なんかに手間を取らせていい相手ではない!
「すっ、すみません! 私、つっ、疲れが酷くてつい」
「あらやだ、ちょっと。そんな急に動かないで。ああん、いいのいいのいいの。シエラ。みんなあなたに会えて嬉しいのよ。そしてみんなあなたを虐めたアレハンドリナって女を切り刻んで煮込んで磨り潰して井戸の底に投げ捨ててやりたいって息巻いてるわ」
「!」
目が本気!
目が本気!!
「だ・か・ら」
鼻をチョンと突っつかれる。
「安心して、ゆっくり休んでちょうだい」
「は──」
「気分はどうだ、シエラ」
「!」
殿下が入ってきた。
そして、本当にパンのかごを携えていた。
「まあ、殿下。本当にすぐ近くにいらっしゃったんですね」
母の友人で王妃様の侍女のピンタード伯爵夫人は、殿下に向かってホホホと笑った。
それにしても、体の大きな殿下が普通のパンのかごを両手で持っている様子が、言葉にできないほど衝撃的で目が逸らせない。
「ああ。さあ、シエラ。いくらでも食べなさい」
「寝起きですよ、殿下」
きゅぅぅぅぅぅぅぅん
「!」
ああ!
お腹が鳴ってしまった!!
「空腹なはずだ」
「でも殿下。シエラは指先にちょっとした傷ができてしまっているのでパンを千切るのは難儀ですわ。私が」
たしかに、それは本当だった。
牢の中で鉄格子を触ったり石の壁や床を触っている間にひっかけたのだ。
「ふむ。それには及ばない」
「いえ、殿下。私が」
「いや、それには及ばないっ」
「殿下!」
ふたりはかごを取り合っている。
私は身繕いをして、ベッドを下り、静かに長椅子に移った。
「シエラ!」
すかさず、かごを持った直後の殿下が横に座った。
「ああんっ。負けた!」
「さあ、シエラ。……ん? 大きく口を開けてみなさい。ああ、なるほど、このくらいか……」
殿下が、太くて長い指で私の一口サイズにパンを裂く。
「……」
困・惑。
「はぁん。見れば見るほど似てるわぁ」
「ふしぎな気持ちだ。ファニタに似ているが、そうではない」
殿下のような高貴な方にこんな事をしてもらってはいけないのだけれど……
かといって、パンが来ちゃうから、断るのも無礼だし……
口を開けて、パンを、頂きました。
「うまいか? シエラ」
「ふぁい」
「焦っちゃ駄目よ。さ、ミルクを」
「ふむ。ミルクだ」
「……」
私もすごく、ふしぎな気持ち。
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