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18 フリック公国、その愛
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戴冠式兼結婚式は盛大に執り行われ、私は晴れて一国の妃となった。
夢のような時間は一瞬で過ぎ去り、後には心地よい疲労と冷めやらぬ興奮が残った。
川に囲まれた三角形の大地フリック公国は、緑豊かで肥沃な土地に恵まれつつ、絶えず流れる美しい川から魚が獲れる。堤防や水門は既に完璧だった。
「特産品で貿易を……」
「君はそう言うと思ったよ」
優しい夫コンラートとは公私共にいつも一緒。
国政に携わらせてくれるのは、本当に最高のご褒美だわ。
結婚して1年、私のお腹には今、新しい命が宿っている。
その状態で、新たな橋の建設現場を視察中。
「いい香辛料を手配できるわ。だけど、肉と魚って保存方法が違うのかもしれない。詳しい人を探しましょう」
「ああ、大好きな魚のマリネを広めたいね」
「酸っぱいの愛してる。食べたいわ。お腹空いてきた」
ルイーゼは私の侍女としてついてきてくれた。
彼女がいれば私は無敵よ。
アニーは、
「伯爵様の奥さんなんて私には無理ですぅ~ッ!」
と泣いて暖炉に隠れたりして大変だったけれど、マルセルが頑張って口説き落として、コンラートも、
「公国と言っても国家樹立したばかりでセッテルバリ侯爵領よりよほど緩い。威厳を保てるのは次の世代からだ。私たちは今まで通り、別荘で寛ぐ2つの家族のように、気楽に楽しく暮らしていけばいいんだよ」
と口添えして、私も、
「マルセルはたまたま貴族というだけで、基本的には只の愉快な人よ。それに優しくて、あなたを愛してる。あなたからフライパンを取り上げたりしないし、ハーティング伯爵夫人の趣味が料理でも誰も責めたりしないわ。それにあなたを置いていけない。私、あなたのマフィンなしでは生きていけないわ」
と口説き落とした。
私が領地経営に生きる女であるように、アニーは料理に生きる女。
「結婚なんてとんでもないです。お城の厨房の窯をひとつ私にください」
「窯もあげるしマルセルもあげる」
「マルセルさん……」
こうしてアニーとマルセルも結ばれた。
私たちは出来立てホヤホヤの新しい宮殿で、国王夫妻とその側近夫妻としてほのぼのと暮らしている。
コンラートの言う通り、若い小国には威厳も伝統もなにもない。
これからすべて築いていく。
だからこそ、私たちは自由なのだ。
手探りで歴史を築くなんて、滾る。
ちなみに、私の黒歴史である元ツムシュテーク伯爵メアリック・シュテュンツナーとその母親ヴィルヘルミーナは、セッテルバリ侯爵家に引き取られている。
セッテルバリ侯爵の姉君マダム・オーガスタは、堕落した貴族を矯正する訓練学校の創立を予定していて、その実験台として、平民となった母子の衣食住を保証したのだ。
母子は侯爵家の食客になると思い込み、喜んでその誘いを受けた。
監獄でもなければ病院でもない。
衣食住が保証されていながら、もう他人様に迷惑をかけないのだから、とても安心。そしてまともになったら出てくるのだ。
私がコンラートと出会った緑豊かな別荘地。
そこでは愛だけでなく、未来も、希望も、待ち構えていた。
セッテルバリ侯爵家に感謝。
「あっ」
赤ちゃんが、お腹を蹴った。
すぐにコンラートも気づき、跪いてお腹にキスをしてくれた。
「さあ、元気な王子様。お姫様かしら。見て。橋がかかるわ」
未来はどこまでも広く、果てしなく続いていく。
愛する人たちの日々、この地に暮らす領民の日々が、どうか逞しく豊かでありますように。
そのために力いっぱい生きる。
愛する人と、手を取り合って。
(終)
夢のような時間は一瞬で過ぎ去り、後には心地よい疲労と冷めやらぬ興奮が残った。
川に囲まれた三角形の大地フリック公国は、緑豊かで肥沃な土地に恵まれつつ、絶えず流れる美しい川から魚が獲れる。堤防や水門は既に完璧だった。
「特産品で貿易を……」
「君はそう言うと思ったよ」
優しい夫コンラートとは公私共にいつも一緒。
国政に携わらせてくれるのは、本当に最高のご褒美だわ。
結婚して1年、私のお腹には今、新しい命が宿っている。
その状態で、新たな橋の建設現場を視察中。
「いい香辛料を手配できるわ。だけど、肉と魚って保存方法が違うのかもしれない。詳しい人を探しましょう」
「ああ、大好きな魚のマリネを広めたいね」
「酸っぱいの愛してる。食べたいわ。お腹空いてきた」
ルイーゼは私の侍女としてついてきてくれた。
彼女がいれば私は無敵よ。
アニーは、
「伯爵様の奥さんなんて私には無理ですぅ~ッ!」
と泣いて暖炉に隠れたりして大変だったけれど、マルセルが頑張って口説き落として、コンラートも、
「公国と言っても国家樹立したばかりでセッテルバリ侯爵領よりよほど緩い。威厳を保てるのは次の世代からだ。私たちは今まで通り、別荘で寛ぐ2つの家族のように、気楽に楽しく暮らしていけばいいんだよ」
と口添えして、私も、
「マルセルはたまたま貴族というだけで、基本的には只の愉快な人よ。それに優しくて、あなたを愛してる。あなたからフライパンを取り上げたりしないし、ハーティング伯爵夫人の趣味が料理でも誰も責めたりしないわ。それにあなたを置いていけない。私、あなたのマフィンなしでは生きていけないわ」
と口説き落とした。
私が領地経営に生きる女であるように、アニーは料理に生きる女。
「結婚なんてとんでもないです。お城の厨房の窯をひとつ私にください」
「窯もあげるしマルセルもあげる」
「マルセルさん……」
こうしてアニーとマルセルも結ばれた。
私たちは出来立てホヤホヤの新しい宮殿で、国王夫妻とその側近夫妻としてほのぼのと暮らしている。
コンラートの言う通り、若い小国には威厳も伝統もなにもない。
これからすべて築いていく。
だからこそ、私たちは自由なのだ。
手探りで歴史を築くなんて、滾る。
ちなみに、私の黒歴史である元ツムシュテーク伯爵メアリック・シュテュンツナーとその母親ヴィルヘルミーナは、セッテルバリ侯爵家に引き取られている。
セッテルバリ侯爵の姉君マダム・オーガスタは、堕落した貴族を矯正する訓練学校の創立を予定していて、その実験台として、平民となった母子の衣食住を保証したのだ。
母子は侯爵家の食客になると思い込み、喜んでその誘いを受けた。
監獄でもなければ病院でもない。
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そこでは愛だけでなく、未来も、希望も、待ち構えていた。
セッテルバリ侯爵家に感謝。
「あっ」
赤ちゃんが、お腹を蹴った。
すぐにコンラートも気づき、跪いてお腹にキスをしてくれた。
「さあ、元気な王子様。お姫様かしら。見て。橋がかかるわ」
未来はどこまでも広く、果てしなく続いていく。
愛する人たちの日々、この地に暮らす領民の日々が、どうか逞しく豊かでありますように。
そのために力いっぱい生きる。
愛する人と、手を取り合って。
(終)
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