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3 傷物令嬢

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「お前はなんて事を言うんだ! ルシアに謝って来い!!」

「嫌だね、父さん! ルシアを気に入ってるのは僕じゃなくて父さんじゃないか! 皆さん! 彼女はウィッカム伯爵令嬢ルシア・フラトンです! 慎ましくて優しく溌溂とした素晴らしい令嬢ですよ! 僕にはちっとも必要ないですがね! 傷ひとつない綺麗な体です! なんといっても僕にはエリアナしか見えないんですから! これで彼女は自由だ! いい事をしたでしょう!? ぜひ皆さん求婚してください!!」


 これ以上の地獄ってある?
 

「行くわよ」

「?」


 イヴェットに腕を掴まれた。痛い。
 彼女は煌びやかな笑顔で会釈しながら、私を引き摺るようにして広間を出た。当然、兄も一緒だ。


「私をルシアだと勘違いした人が10人現れたら、死ねる」


 助けてくれたわけではない。
 彼女は、自分の名誉のために、私をあの場から排除したのだ。

 あまりの出来事に、もう涙は止まっていた。
 呆然と、ただ絶望に包まれて、すべてにおいて夢のようにふわふわして、足の感触もない。


「吐かないでよ?」

「……え?」

「真っ青」


 当然、心配してくれているわけではない。
 兄が忌々しそうに溜息を吐いた。


「どうしてくれるんだ。お前は結婚さえすれば名誉挽回のチャンスがあるが、こっちはずっとお前の兄なんだぞ?」

「……」

「そうよ? ロイエンタール侯爵家の昼食会でこれだけの大恥をかいたウィッカム伯爵家を、きっと誰も忘れない」

「まさか君まで婚約破棄だなんて言わないよね?」

「さあね。挽回して?」

「なっ……」

「……?」


 え?
 私のせいで、兄も婚約者から棄てられそうって事?


「イヴェット……あの、お兄様は悪くないから……」

「黙ってて」

「はい」


 恐い。
 美しい顔をしているだけに、とても恐い。


「おい、イヴェット! 冗談はよしてくれよ。恥をかいたのは僕のせいじゃない! ルシアの婚約者のせいだ!」

「……っ」


 兄はブランドンを、もう婚約者と言った。
 私の婚約は、もう、本当に破談になってしまったようだ。

 人生、お先真っ暗……
 また涙が……
 

「ええ、そうよ? 今はっきりしているのは、マーニー伯爵家の次にみっともないのが傷物令嬢を抱えたウィッカム伯爵家だって事。あと私の親族にマヌケはいないって事」

「イヴェット!」

「まとわりつかないでよ!」


 イヴェットが兄を怒鳴りつけ、その表情のまま私の顔を覗き込んだ。


「あと、あなたはびぃびぃ泣かないで。鬱陶しい」

「ごっ、ごめんな、さ……っ」


 イヴェットが戒めのように、腕を掴む手に力を込めた。
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