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2 恥ずかしいのは私?

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 酷い騒ぎになっているようだけれど、私は顔を上げられない。
 信じていた幸せが、木っ端みじんに砕け散った。それが悲しくて、嗚咽が収まらず泣いている。


「ちょっと、冗談でしょう? 自分が悲劇のヒロインだとでも思ってるの?」


 すぐ傍で、イヴェットが意地悪な事を言った。
 それもショックで、恐る恐る顔をあげる。


「……え?」

「あなたに魅力がないからこんな事になってるんでしょう? こんな惨めな子が義妹になるなんて……ああ、嫌ッ! 本当に恥ずかしい! あなた、いったい何人に恥をかかせれば気が済むの?」

「……」


 直球の侮蔑に呆然としてしまう。
 そうしたら、ブランドンの叫び声がまた耳に届いた。


「違う! 誰よりもエリアナを愛しているのはこの僕だ!」

「……」


 見てしまった。
 向こうは向こうで、羞恥と困惑に頬を染めて泣いている令嬢が招待客に取り囲まれている。間違いなく、彼女がエリアナ。彼女を庇うようにして寄り添うのは、親族か、当の婚約者のはず。


「見ろ。あの男と婚約していたんだぞ? ウィッカム伯爵家の恥だ」

「え……?」


 私の傍にいるのは、冷たく責める兄と、意地悪なその婚約者。
 支えられ、守られようとしているエリアナと自分との落差に、かなり堪えた。

 呆然と見つめていると、泣きじゃくるエリアナは隣の紳士の胸に顔を埋めた。
 そしてついに、ブランドンにマーニー伯爵が飛び掛かって止めた。


「クソ! 君が僕を離さないんじゃないか! 僕を愛してないのか!? 全部なかった事にするのか!? 僕がいるのに他の男のものになるなんて許さないぞ! 取り消せ! 婚約を破棄しろぉッ!!」

「黙れ! この馬鹿垂れが!!」


 マーニー伯爵が稀に見ぬ厳しい態度でブランドンを叩く。
 そして暴れ馬をいなすような手つきでブランドンを抑え込み、エリアナを抱きしめる紳士に笑顔を向けた。


「大変申し訳ありません、クレヴァリー伯爵。息子は酒が入ると我を失いまして。いえいえ、そんな、心から祝福しておりますとも! 息子にとってソマーズ伯爵令嬢は、もう妹のようなものなのです。愛する乙女の結婚で取り乱す男兄弟がたまにいますでしょう? あれですよ! 第一、息子にはれっきとした素晴らしい婚約者がいるのです! あそこに!!」

「!?」


 マーニー伯爵に誘われた人々がいっせいにこちらを見つめる。
 絶望と羞恥で、息が止まった。


「うわ……最悪……」


 イヴェットが上品な笑顔を貼り付けて、低く呟く。


「せめて気然としてればプライドを保てたのにね」

「……」


 追い打ちがきつい。


「びぃびぃ泣いて、こどもか」


 兄も辛辣で、本当に立つ瀬がない。
 
 更にエリアナを取り巻く人々からは、とてつもなく冷めた視線が突き刺さる。そんな中でブランドンだけは目をギラギラさせてこちらを睨んだ。そして叫んだ。


「婚約は破棄した! 僕にはエリアナしかいないんだッ!!」
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