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三章 外国にて
なんだか重大そう。
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ラインハルトと一緒にデッキから船内へ戻ると、殿下に出会った。
「あ、いた!ハロイドくん。探してたんだけど~」
「すみません……デッキに出てたので。」
陛下に続き、殿下にまで探されていたことに驚きを感じる。
「まあ、いいけどさ今から会議するから。すぐに食堂に来てくれる?」
「あ、はい。」
「兄さんもちゃんと来てよね!」
「ああ、当然だ。」
しおりには日程は書かれていたけれど、インドールでの具体的な仕事内容については書かれていなかったから、たぶんそれについてだろう。
仕事だし、ラインハルトとあまり距離が近いのは周りが落ち着かないだろう。
「ラインハルト、仕事中はくっついてこないでくれよ。」
ラインハルトを見ながら言うと、驚いたような顔をされた。
「なんでだ。」
「なんでって……仕事だろ?」
切り替えはきちんとしたい、というとラインハルトは渋々了承してくれた。そのかわり、と手を繋がれる。
ラインハルトは本当に隙あらばくっつきたがる。食堂の前まで行くとパッと手を離してくれた。自分から言ったことではあるが、さらっと手を離されてしまうとそれはそれで寂しい。
ラインハルトにバレたら、からかわれてしまいそうだから、少し肌寒く感じる手をスッと胸元に寄せる。
食堂の入り口をくぐる。そこにはまだ数人しかおらず、空席が目立っている。大体の席の振り分けは既にされているらしく、新人と王族は対極の席に座ることになった。
それから、ぞろぞろと人が集まってきた。その中にはボルデモート先輩の姿もある。
「……それでは、今から会議を始める。」
全員が静かになったところで、殿下が口を開く。本当に、殿下は普段と仕事の時のギャップがものすごい。いつもの何処かつかめないような雰囲気なんて欠片も感じさせない威厳を放っている。
「今回のインドール訪問の目的は、主に条約内容の確認・更新と貿易の不審な点を発見したため事実確認をとることだ。外交官は耳にタコができるほど聞かされていることとは思うが、会話内容の記録は何よりも大事だ。」
会話内容の記録か……。よほど速く字が書けないと難しいだろうな。……レコードとか使ったらだめだろうか。音の振動をそのまま刻み込むから、俺たちが記録するよりよほど正確だろう。
「そして、不審点については、手元の書類を見てもらえばわかると思うが今までに比べて輸入額が異常に増えている。しかも、国の備蓄となる穀物の額が、だ。ここ数年我が国の小麦などの穀物類は豊作続きで、輸入量を増やす必要はない。それに、城に届く量は今までと変わりがない。」
なんてバレバレな不正……。インドールとは、長年公平な関係を築いてきた。だから、穀物の値段が高騰したのなら素直に伝えてくれるはずだ。それに、情勢調査員がインドールの各地にいるから間違った情報はなかなか入ってこない。
「このことについては、くれぐれも口外しないように。両国の信頼関係にかかわる問題だ。詳細が分からない今、間違った情報を流されてしまっては困る。」
食堂に集まっている全員が神妙な顔で頷く。こんな重大なことを聞かされるなら、始めから言っておいてほしかった。それなら、もうすこし心の準備ができたのに。
そのあと、各々の持っている情報や会談の記録担当などの擦り合わせを行った。
「ほかに、何か提案は?」
みんなの話を聞く限り、やはり記録は紙に行っているらしく、毎回担当者の緊張が異常だという。
俺も一つ会談の記録担当があったし、少しでも楽に仕事がしたい。
みんなが周りをチラチラと伺う中、スッと手を上げる。
「ハロイド、言ってみろ。」
「記録についてなのですが、紙に記録するのではなく、レコードに記録するのはいかがでしょうか。」
「ほお……なぜだ?」
なんだか、縋るような視線で見られている。やっぱりみんなも楽に仕事がしたいよな……。
「録音しておけば何度でも再生できますし、荷物もかさばりません。カッティングマシンは必要になってくるとは思いますが……。」
「そうだな……。ハロイドが言うことも一理ある。検討しておこう。」
俺の提案を最後に会議は終わった。
みんな食堂から出ていくので、俺も続こうと席を立つと、殿下に手招きをされた。
「ハロイドくん、さっきの話もう少し詳しく聞いてもいい?」
……また口調が変わってる。驚きながらも、多少は予想していたことなので、つまることなく説明ができた。
「手で書くよりも正確で、簡単なので、仕官にとってもあまり大きな負担にはならないかと思いまして。それにレコードは大体の国に売っていますし、入手しやすいので今からでも変えられると思ったんですけど……。説明ってこれで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。じゃあさっさと出ていってね。」
さっさとって……酷くないか?殿下が引き止めたのに。いつのまにか横に立っていたラインハルトに連れられ、自室へと足を進める。
「全く兄さんは嫉妬深いなぁ……。」
食堂に残った殿下は、ラインハルトの顔を思い出しては苦笑していたと言う。
「あ、いた!ハロイドくん。探してたんだけど~」
「すみません……デッキに出てたので。」
陛下に続き、殿下にまで探されていたことに驚きを感じる。
「まあ、いいけどさ今から会議するから。すぐに食堂に来てくれる?」
「あ、はい。」
「兄さんもちゃんと来てよね!」
「ああ、当然だ。」
しおりには日程は書かれていたけれど、インドールでの具体的な仕事内容については書かれていなかったから、たぶんそれについてだろう。
仕事だし、ラインハルトとあまり距離が近いのは周りが落ち着かないだろう。
「ラインハルト、仕事中はくっついてこないでくれよ。」
ラインハルトを見ながら言うと、驚いたような顔をされた。
「なんでだ。」
「なんでって……仕事だろ?」
切り替えはきちんとしたい、というとラインハルトは渋々了承してくれた。そのかわり、と手を繋がれる。
ラインハルトは本当に隙あらばくっつきたがる。食堂の前まで行くとパッと手を離してくれた。自分から言ったことではあるが、さらっと手を離されてしまうとそれはそれで寂しい。
ラインハルトにバレたら、からかわれてしまいそうだから、少し肌寒く感じる手をスッと胸元に寄せる。
食堂の入り口をくぐる。そこにはまだ数人しかおらず、空席が目立っている。大体の席の振り分けは既にされているらしく、新人と王族は対極の席に座ることになった。
それから、ぞろぞろと人が集まってきた。その中にはボルデモート先輩の姿もある。
「……それでは、今から会議を始める。」
全員が静かになったところで、殿下が口を開く。本当に、殿下は普段と仕事の時のギャップがものすごい。いつもの何処かつかめないような雰囲気なんて欠片も感じさせない威厳を放っている。
「今回のインドール訪問の目的は、主に条約内容の確認・更新と貿易の不審な点を発見したため事実確認をとることだ。外交官は耳にタコができるほど聞かされていることとは思うが、会話内容の記録は何よりも大事だ。」
会話内容の記録か……。よほど速く字が書けないと難しいだろうな。……レコードとか使ったらだめだろうか。音の振動をそのまま刻み込むから、俺たちが記録するよりよほど正確だろう。
「そして、不審点については、手元の書類を見てもらえばわかると思うが今までに比べて輸入額が異常に増えている。しかも、国の備蓄となる穀物の額が、だ。ここ数年我が国の小麦などの穀物類は豊作続きで、輸入量を増やす必要はない。それに、城に届く量は今までと変わりがない。」
なんてバレバレな不正……。インドールとは、長年公平な関係を築いてきた。だから、穀物の値段が高騰したのなら素直に伝えてくれるはずだ。それに、情勢調査員がインドールの各地にいるから間違った情報はなかなか入ってこない。
「このことについては、くれぐれも口外しないように。両国の信頼関係にかかわる問題だ。詳細が分からない今、間違った情報を流されてしまっては困る。」
食堂に集まっている全員が神妙な顔で頷く。こんな重大なことを聞かされるなら、始めから言っておいてほしかった。それなら、もうすこし心の準備ができたのに。
そのあと、各々の持っている情報や会談の記録担当などの擦り合わせを行った。
「ほかに、何か提案は?」
みんなの話を聞く限り、やはり記録は紙に行っているらしく、毎回担当者の緊張が異常だという。
俺も一つ会談の記録担当があったし、少しでも楽に仕事がしたい。
みんなが周りをチラチラと伺う中、スッと手を上げる。
「ハロイド、言ってみろ。」
「記録についてなのですが、紙に記録するのではなく、レコードに記録するのはいかがでしょうか。」
「ほお……なぜだ?」
なんだか、縋るような視線で見られている。やっぱりみんなも楽に仕事がしたいよな……。
「録音しておけば何度でも再生できますし、荷物もかさばりません。カッティングマシンは必要になってくるとは思いますが……。」
「そうだな……。ハロイドが言うことも一理ある。検討しておこう。」
俺の提案を最後に会議は終わった。
みんな食堂から出ていくので、俺も続こうと席を立つと、殿下に手招きをされた。
「ハロイドくん、さっきの話もう少し詳しく聞いてもいい?」
……また口調が変わってる。驚きながらも、多少は予想していたことなので、つまることなく説明ができた。
「手で書くよりも正確で、簡単なので、仕官にとってもあまり大きな負担にはならないかと思いまして。それにレコードは大体の国に売っていますし、入手しやすいので今からでも変えられると思ったんですけど……。説明ってこれで大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。じゃあさっさと出ていってね。」
さっさとって……酷くないか?殿下が引き止めたのに。いつのまにか横に立っていたラインハルトに連れられ、自室へと足を進める。
「全く兄さんは嫉妬深いなぁ……。」
食堂に残った殿下は、ラインハルトの顔を思い出しては苦笑していたと言う。
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