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二章 王弟殿下の襲来
急展開が過ぎる
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前に試験を受けた会議室にゾロゾロと入って行くと、既に長机がいくつか並べられていた。全員が席に着くと、どこからともなく現れた。殿下の秘書官のような人が、俺たちの前に冊子になった書類を配って行く。
「今からこれに目を通してくれ。大体の日程や仕事内容はまとめてある。」
言われた通りに、書類をめくると、修学旅行のしおりさながら細かな日程が書かれていた。こんなに忙しいのか……。しかも期間が結構長い。
「君達には、外交時に会話内容の記録をしたり、必要な資料をまとめたり基本的には事務仕事をしてもらいたい。外交官も何人かいるんだが、そこまではなかなか手が回らなくてね。」
はあ…。とため息をつく殿下。人員不足か……。人を集められないからってオーバーワークをさせてやめられてはことも子もないし。案外苦労してるんだな。
「今日はもう解散にする。必要なものは早めに揃えておけ。消耗品の費用はこちらで負担するから、領収書は残しておくように。」
殿下が口を閉じると、皆一斉に立ち上がった。俺もそれに続いて、外に出ようとする。……あれ、前に進まないな、あれ?
あれ、じゃねえよ。原因はわかってるけど……。
「殿下、その手をお離しいただけますかね?」
「いやだね。」
こっちを見ながら、いい笑顔で言う殿下。
「まだ何かあるんですか?」
「うーん……。これといった用事はないんだけど。」
「じゃあ、仕事に戻らせてくださいよ。まだ残ってるので。」
「今は昼休憩の時間だよ?仕事はしてはいけない決まりだ。」
そういえば、あの紙にもそう書かれていたような気はするけど……。
「だからさ、一緒にご飯食べよっか。」
「は?」
なんであんたと昼ごはんを食べないといけないんだ。そう言いたいけれど、さすがに不敬が過ぎる。
「拒否権は?」
「ないよ。」
ため息を一つ吐いた。なんなんだ本当に。おかげで幸せがどんどん逃げて行ってしまう。
腕を引かれながら渋々食堂へと向かう。城中の職員が集まる食堂だから、本当に広いパーティーが行われる広間と遜色ない程度には。
食堂につくと、みんな食事を受け取りにカウンターへと向かう。向かうのだが…なぜか俺はそこを通り過ぎて、王族専用席に連れて行かれそうになっている。
「ちょっと、やめてくださいよ殿下!」
「なんで?さっきまで普通に着いてきてたじゃん。」
「王族専用席に連れて行かれるなんて微塵も考えませんって!」
「だって俺、王族だよ?下の食堂でもの食べて何かあったら大変じゃん。」
正論を言われて何も言えなくなる。でも、貴族をそこに連れて行っていいかといったら別問題では?
「俺がそこに足を踏み入れていいわけがないじゃないですか。」
「いいよ?だって王族の人が連れてきてるんだから。」
……抵抗する術が無くなってしまった。手を振り払うこともできないので、ズルズルと引きずられて行く。
「俺、これ以上目立ちたくないんですけど…。」
「兄さんのせいで今更でしょ。」
「それでも潜みたいっていうか僻みとか開けたくないんですけど……。」
「それは知らなーい。心の中で思ってもさ、嫌がらせとかする奴この城にいないでしょ。ねえ?」
そういうと、殿下は食堂をぐるりと見渡した。ざわざわとしていた食堂がシンッと静まり返った。見せ物でも見るようにこちらを見ていた人も表情が固まってしまっていた。
殿下にこうも牽制されてしまっては俺に手を出せる人などいるわけがない。なんでまた目立つことをしちゃうかな……。
殿下は周りを気にすることなく階段を登っていく。腕を掴まれているから、俺も一緒に上がって行ってしまう。みんなの表情はそのまま、俺たちを目で追っている。
階段を登り切ったところでもう見えなくなってしまったが、なんとなく気まずい。
「……あんな発言、してしまってよかったんですか。」
「なに?その失言したみたいな言い方。君がいじめられたくな~い、って言ったから牽制してあげたんだよ?」
「……ありがとう、ございます。」
なんか、空気が冷たい。
「まあ、ご飯、食べよう。」
空気を読まない殿下でさえ、バツの悪そうな顔をしている。
ちょっと、かわいそう?
「なにがあるんですか?メニュー。」
「へ?ああ、頼めば大体のものは出てくるよ。好きなの頼んでいいよ。」
席に着くと、殿下は俺の顔をしたから覗き込んできた。
「怒ってる?」
殿下が、相手の気持ちを思いやってる…!俺以外の人への対応をよく知らないからなんとも言えないけど、俺の気持ちに興味持ったのは初めてじゃないか?
「別に怒ってませんけど……。」
これは流石に本当。目立ってしまったのは確かだけど、今後ひどい目に遭うことは無いわけなのだから。
そのあと、食事が運ばれてくるまで俺たちの会話はなかった。
給仕の人は、それはそれは丁寧に俺の前に料理を置いてくれた。俺はそこまで量が食べられないから、カルボナーラを頼んでいたのだが、本当に美味しそうな匂いがしてくる。
対して殿下は、たくさんの品をテーブルに並べている。大食漢なんだな、なんか意外だ。結構線が細い人だからかもしれない。
味の感想を言い合っていると、殿下がある提案をしてきた。
「それ、俺に一口ちょうだいよ。」
「いや、殿下それは…。」
王族に食べている途中の物をあげるなんてあり得ない。困惑して、給仕に目線をやると給仕もダメだというように首を振っていた。
「同じ物を少量持ってきてもらいましょう。お願いできますか?」
給仕に頼むと、すぐに調理室の方へと向かった。
「君、いいよ。わざわざそんなことしなくても。元の位置に戻って。」
給仕は仕方なく元の場所へと戻って行く。……ということは、これを食べると?
「……殿下どうぞ。」
これ以上の抵抗は無駄そうなので、諦めて皿を差し出す。
「……食べさせてよ。いいでしょ?」
よくもまあこんなことをいい笑顔で頼めるなぁ……!流石に同じフォークはダメだと思い新しいものをもらう。フォークにクルクルをカルボナーラを巻き付け、殿下に差し出す。
それをニコニコとした笑顔で咥える殿下。テーブルが案外大きいのでどちらも身を乗り出す形になっている。きちんと口の中にカルボナーラが入っていることを確認してフォークを引き抜こうと動かしたところで、バンッと扉が開いた。
「おい、レオン!なにしてる!」
え、陛下?
「今からこれに目を通してくれ。大体の日程や仕事内容はまとめてある。」
言われた通りに、書類をめくると、修学旅行のしおりさながら細かな日程が書かれていた。こんなに忙しいのか……。しかも期間が結構長い。
「君達には、外交時に会話内容の記録をしたり、必要な資料をまとめたり基本的には事務仕事をしてもらいたい。外交官も何人かいるんだが、そこまではなかなか手が回らなくてね。」
はあ…。とため息をつく殿下。人員不足か……。人を集められないからってオーバーワークをさせてやめられてはことも子もないし。案外苦労してるんだな。
「今日はもう解散にする。必要なものは早めに揃えておけ。消耗品の費用はこちらで負担するから、領収書は残しておくように。」
殿下が口を閉じると、皆一斉に立ち上がった。俺もそれに続いて、外に出ようとする。……あれ、前に進まないな、あれ?
あれ、じゃねえよ。原因はわかってるけど……。
「殿下、その手をお離しいただけますかね?」
「いやだね。」
こっちを見ながら、いい笑顔で言う殿下。
「まだ何かあるんですか?」
「うーん……。これといった用事はないんだけど。」
「じゃあ、仕事に戻らせてくださいよ。まだ残ってるので。」
「今は昼休憩の時間だよ?仕事はしてはいけない決まりだ。」
そういえば、あの紙にもそう書かれていたような気はするけど……。
「だからさ、一緒にご飯食べよっか。」
「は?」
なんであんたと昼ごはんを食べないといけないんだ。そう言いたいけれど、さすがに不敬が過ぎる。
「拒否権は?」
「ないよ。」
ため息を一つ吐いた。なんなんだ本当に。おかげで幸せがどんどん逃げて行ってしまう。
腕を引かれながら渋々食堂へと向かう。城中の職員が集まる食堂だから、本当に広いパーティーが行われる広間と遜色ない程度には。
食堂につくと、みんな食事を受け取りにカウンターへと向かう。向かうのだが…なぜか俺はそこを通り過ぎて、王族専用席に連れて行かれそうになっている。
「ちょっと、やめてくださいよ殿下!」
「なんで?さっきまで普通に着いてきてたじゃん。」
「王族専用席に連れて行かれるなんて微塵も考えませんって!」
「だって俺、王族だよ?下の食堂でもの食べて何かあったら大変じゃん。」
正論を言われて何も言えなくなる。でも、貴族をそこに連れて行っていいかといったら別問題では?
「俺がそこに足を踏み入れていいわけがないじゃないですか。」
「いいよ?だって王族の人が連れてきてるんだから。」
……抵抗する術が無くなってしまった。手を振り払うこともできないので、ズルズルと引きずられて行く。
「俺、これ以上目立ちたくないんですけど…。」
「兄さんのせいで今更でしょ。」
「それでも潜みたいっていうか僻みとか開けたくないんですけど……。」
「それは知らなーい。心の中で思ってもさ、嫌がらせとかする奴この城にいないでしょ。ねえ?」
そういうと、殿下は食堂をぐるりと見渡した。ざわざわとしていた食堂がシンッと静まり返った。見せ物でも見るようにこちらを見ていた人も表情が固まってしまっていた。
殿下にこうも牽制されてしまっては俺に手を出せる人などいるわけがない。なんでまた目立つことをしちゃうかな……。
殿下は周りを気にすることなく階段を登っていく。腕を掴まれているから、俺も一緒に上がって行ってしまう。みんなの表情はそのまま、俺たちを目で追っている。
階段を登り切ったところでもう見えなくなってしまったが、なんとなく気まずい。
「……あんな発言、してしまってよかったんですか。」
「なに?その失言したみたいな言い方。君がいじめられたくな~い、って言ったから牽制してあげたんだよ?」
「……ありがとう、ございます。」
なんか、空気が冷たい。
「まあ、ご飯、食べよう。」
空気を読まない殿下でさえ、バツの悪そうな顔をしている。
ちょっと、かわいそう?
「なにがあるんですか?メニュー。」
「へ?ああ、頼めば大体のものは出てくるよ。好きなの頼んでいいよ。」
席に着くと、殿下は俺の顔をしたから覗き込んできた。
「怒ってる?」
殿下が、相手の気持ちを思いやってる…!俺以外の人への対応をよく知らないからなんとも言えないけど、俺の気持ちに興味持ったのは初めてじゃないか?
「別に怒ってませんけど……。」
これは流石に本当。目立ってしまったのは確かだけど、今後ひどい目に遭うことは無いわけなのだから。
そのあと、食事が運ばれてくるまで俺たちの会話はなかった。
給仕の人は、それはそれは丁寧に俺の前に料理を置いてくれた。俺はそこまで量が食べられないから、カルボナーラを頼んでいたのだが、本当に美味しそうな匂いがしてくる。
対して殿下は、たくさんの品をテーブルに並べている。大食漢なんだな、なんか意外だ。結構線が細い人だからかもしれない。
味の感想を言い合っていると、殿下がある提案をしてきた。
「それ、俺に一口ちょうだいよ。」
「いや、殿下それは…。」
王族に食べている途中の物をあげるなんてあり得ない。困惑して、給仕に目線をやると給仕もダメだというように首を振っていた。
「同じ物を少量持ってきてもらいましょう。お願いできますか?」
給仕に頼むと、すぐに調理室の方へと向かった。
「君、いいよ。わざわざそんなことしなくても。元の位置に戻って。」
給仕は仕方なく元の場所へと戻って行く。……ということは、これを食べると?
「……殿下どうぞ。」
これ以上の抵抗は無駄そうなので、諦めて皿を差し出す。
「……食べさせてよ。いいでしょ?」
よくもまあこんなことをいい笑顔で頼めるなぁ……!流石に同じフォークはダメだと思い新しいものをもらう。フォークにクルクルをカルボナーラを巻き付け、殿下に差し出す。
それをニコニコとした笑顔で咥える殿下。テーブルが案外大きいのでどちらも身を乗り出す形になっている。きちんと口の中にカルボナーラが入っていることを確認してフォークを引き抜こうと動かしたところで、バンッと扉が開いた。
「おい、レオン!なにしてる!」
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