上 下
12 / 40
一章 空回りな王様

帰宅

しおりを挟む
 王城で働き始めるのは一月後だが、今のうちに荷物を家から持って来ておかなければならない。また4日もかけて戻るのは面倒なので帰りは馬に乗って帰ることにした。

 宿代や食事代などの小銭と護身用の短剣を鞄に入れ、馬へ飛び乗った。最近は考え事ばかりしていたから、少しでも気分が晴れるといいが…。

 貴族街の門を出て、ゆっくり進む。兄上は…すごく心配しているだろうな。王都に来る前からある程度、予想はしていたみたいだし…。

 しばらく進むと綺麗なガラス細工を売っている露天商を見かけた。兄上やキリル嬢にお土産として買って行くか。兄上とキリル嬢は揃いのものがいいよな。

 馬を降りて露天商に声をかけた。

「そこのガラス細工をもらえないか?」

 俺が目をつけたのは、ウサギのガラスの置物何色か並んでいたし、縁結びの象徴だからちょうどいいと思った。縁結びは恋愛だけではなく、友達などの縁も繋いでくれるから2人がいい人たちに囲まれて過ごせたらいい。

 青と紫のウサギを選び、馬に乗っても割れないようにしっかり包んでもらう。

 …俺も買おうかな。ガラスが太陽の光に反射して綺麗だし、窓際に飾るのもいいだろう。

 あともう一つ、と露天商に指差したのは赤色の亀。亀はあらゆる吉兆を呼び寄せてくれるそうだ。

 露天商が手厚く包んでくれている途中、ふと陛下の顔が浮かんだ。そういえば、陛下の瞳の色も赤だったな…。

 なんだかこれでは、俺が陛下のことが恋しくてたまらないやつみたいじゃないか!

でも、綺麗だし、陛下の目に入るものでもないし。少し恋しいと思ってしまっているのも本当だし。まあ、いいか。

 露天商に3つの代金を払うと、頬に手を当ててみる。じんわり熱くなっているのがわかって慌てて踵をかえした。

 露天商には俺の顔が赤くなってるの丸見えだったんだろうな…。恥ずかしい。

馬に乗ってさっきよりも少しスピードを上げて走り出した。




 王都は出るときには入る時ほど厳しい審査はない。審査は入ったときの記録と見比べるだけで終わり、すぐに通り抜けることができた。

 街道へ出るとスピードを出すことができる。だから、人が周りにいないかを確認して、グンっとスピードを上げた。馬車に乗っていた時はゆっくり眺められた光景が、流れるように過ぎていく。

 さわやかな草原の香りが、肺を満たす。赤い頬の熱もグルグルと頭を巡る悩みも風が全部持ち去ってくれた。




 夢中で走り続けていると、だんだんと空が赤くなって来た。

「次の街で泊まるか…。」

 すぐ目の前に見えできた街で今夜は宿をとることにした。

 俺は一応侯爵令息だし、寝ている間に誘拐なんてされてはたまらない。俺はこの街で1番セキュリティがしっかりしていると評判の宿に向かった。

 馬を降り、歩いていると目的の宿が見えて来た。馬を厩舎に預けてチェックインをする。1番高い部屋を取ったけれど、高級宿というわけではないから、そこまでお金はかからなかった。

 部屋に入ってすぐにベットに飛び込む。流石に一日中馬に乗るのはキツい…。休憩もロクにとっていなかったし。明日起きたらすぐにご飯を食べよう。腹が減った…な…。






 目が覚めたら既に昼になっていた。

「寝過ぎたな…。」

宿にある食堂で食事を済ませ、すぐに厩舎へと向かう。

「昨日は、たくさん走らせて悪かったな。」

鼻を撫でると、フンッと鼻を鳴らした。

「今日は休み休み行くから許してくれ。」

苦笑しながら手綱を引いて街の外に出る。

 忘れ物はないかと、鞄の中をあさって確認をする。今日の昼飯…昼飯というには遅いが、宿の食堂で買ってきたものがある。あと馬の餌も厩舎の人が持たせてくれた。道中に川もあるから水は必要ないし、昨日買ったガラス細工もある。

 忘れ物は無いようだ。

 もう、半日ほどで領地につくため、それほど急ぐ必要もない。俺は馬に乗ってゆっくりと走り出した。

 少しして、俺は昼の暖かい日差しと心地の良い振動で睡魔に襲われていた。落馬なんてことはないだろうが、ちょうど小川も近くにあることだし、一度休憩しよう。

 木の陰で馬に人参を差し出す。するとモシャモシャと食べ始めた。正面からものを食べている馬を見るのはちょっと面白い。クスクスと笑うと、プイッと顔を逸らされてしまった。

「怒るなよ、貶してないんだから。」

背中を撫でてやると、馬はまたこちらを向いた。結構単純なやつだな。

 ご飯を食べたり、水を飲んだりしっかり休憩してからまた出発した。






しばらく走ると、領地の門が見えて来た。今日帰ると文を出していたから、すぐに領地に入ることができた。

屋敷の入り口に着くと、兄上が出迎えてくれた。

「ユニ!無事だったか?」

「ただいま帰りました、兄上。…無事と言えば無事ですが、無事ではないと言えば無事ではないです。」

「…どういうことだ?」

「兄上、この話は後でします。とりあえずこれを受け取ってください。」

 そう言ってキリル嬢と揃いのガラス細工を渡す。流石に外で陛下の話はできないし、話を逸らすのに役立ってくれた。

「…これは、綺麗だな。お土産に買って来てくれたのかい?」

「ええ、まあ。キリル嬢にも色違いのものを買って来たのですが…兄上から渡してもらえますか?」

「ユニから渡さなくていいのか?」

「最近は忙しそうですし、そこまで時間をとってもらうことでもないので…。」

そうか、というと兄上は寂しそうな顔をしていた。キリル嬢とは俺も親しいから直接渡したいのはやまやまだが、キリル嬢は結婚を控えた身だし、噂好きな方もいるから余計な不安要素は消しておきたい。

 あとは他愛もない話をしながら、屋敷に入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

平凡でツンデレな俺がイケメンで絶倫巨根のドS年下に堕ちたりにゃんか絶対しにゃい…♡

うめときんどう
BL
わたしの性癖全て詰め込んでます…♡ ツンデレだけど友達もそこそこいる平凡男子高校生! 顔も可愛いし女の子に間違われたことも多々… 自分は可愛い可愛い言われるがかっこいいと言われたいので言われる度キレている。 ツンデレだけど中身は優しく男女共々に好かれやすい性格…のはずなのに何故か彼女がいた事がない童貞 と 高校デビューして早々ハーレム生活を送っている高校1年生 中学生のころ何人もの女子に告白しまくられその度に付き合っているが1ヶ月も続いたことがないらしい… だが高校に入ってから誰とも付き合ってないとか…? 束縛が激しくて性癖がエグい絶倫巨根!! の 2人のお話です♡ 小説は初めて書くのでおかしい所が沢山あると思いますが、良ければ見てってください( .. ) 私の性癖が沢山詰まっているのでストーリーになっているかは微妙なのですが、喘ぎ♡アヘアヘ♡イキイキ♡の小説をお楽しみください/////

身体検査が恥ずかしすぎる

Sion ショタもの書きさん
BL
桜の咲く季節。4月となり、陽物男子中学校は盛大な入学式を行った。俺はクラスの振り分けも終わり、このまま何事もなく学校生活が始まるのだと思っていた。 しかし入学式の一週間後、この学校では新入生の身体検査を行う。内容はとてもじゃないけど言うことはできない。俺はその検査で、とんでもない目にあった。 ※注意:エロです

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話

ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに… 結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?

処理中です...