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一章 空回りな王様

ちょっと良いところ

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 椅子に座ったまま声をかけると、本当に陛下だったらしく、扉を開けて部屋に入ってきた。他の人もいる場で、流石に2人の時のような態度は取れない為、慌てて膝をついた。

「コイツを借りていくぞ」

 腕を掴まれ扉の外へ連れて行かれる。は?まだ試験の途中なのに…。扉を潜る前、強面の人の方を振り返ると気にした様子もなく跪いていた。

 …もしかして最初から計画通り?

「ら、ラインハルト様!どこへ向かっているのですか?」

 今もなお腕を掴まれたまま歩いている為、いまにも転けてしまいそうだ。声をかけると、陛下がいきなり止まったので、勢いそのまま背中にぶつかってしまう。

「ぐっ…すみません。」

 陛下はやっと俺の腕を離して、こちらを向いた。

「…やっと俺の名前を自分から呼んでくれたな!」

一等星の輝きにも負けない笑顔を浮かべている。こんな近くでキラキラした笑顔を見せられると目がチカチカしてくる。

「ところで何故俺を連れ出したのでしょうか…?」

「ああ、ちゃんと謝ろうと思って。」

「いやその件はお手紙で謝罪して頂きましたし…。」

「俺が直接謝りたいと思ったから謝るんだ。ダメなのか?」

コテンと傾げられた首に思わず、公衆の面前で陛下が謝罪することを許してしまいそうになった。

 でも、手紙で既に謝罪しているのに、直接謝りたいと言うってことはものすごく誠実な人なのだろう。陛下相手に失礼な言い方だが、少し見直してしまった。

「いや、ダメというか国王陛下ですし、あまり簡単に謝るべきではないと思うんです。」

「…人に見られているからか?」

「まあ、それもありますが…。」

「それなら俺の部屋に行こう。そこなら問題ないだろう?」

「へ?」

 陛下の部屋に?俺の部屋という言い方をしたから、執務室ではなく、陛下が休日をお過ごしになる部屋なのだろう。だが、あの区域は王族と護衛以外立ち入り禁止ではなかったか?

「お、俺が入ってもよろしいのですか?それに試験もまだ途中ですし、あまり遠くに行くのは…。」

陛下はすでに歩き出していて置いて行かれないようについては行きながらも、質問をする。

「採点の結果なら、すでにウィリアムに聞いた。あと面接は、今日来たときの態度などを見た限りわざわざする必要もないと言っていた。問題はない。」

「え…。それってつまり俺は落ちたってことですか?」

「いや、その反対だ。悪いところがない。満点だそうだ。」

 満、点?いや嘘だろ、こんな簡単に合格できていいのか?

 でもこれで俺の就職先が決まったんだよな。じゃあ穀潰しにならなくて済む!兄上の新婚生活の邪魔もしない!

 合格だと聞いてはしゃいでいると、陛下がチラリとこちらを見た。

「喜んでいるな。」

「ええ!もちろんです!だってこれで働けますから!」

 喜びそのまま笑顔で伝えると、フイっと顔を背けられた。

「…どうかなさいましたか?」

「別に何も。」

 …何もない声じゃあないが。後ろから顔を見ようとするとフイっと顔を逸らされる。それならば、正面から、と前に回ろうとすると足を早められた。

 俺も陛下に負けじと追いかける。

 そこから、俺と陛下の追いかけっこが始まった。少しずつスピードが上がって、既に走っているときと遜色ない速さだ。誰かにぶつかるのではないかと不安になる程だが、通りすがる人はみんなスルリとうまく避けていく。

 もしかして避けるプロしかいないのかここは⁉︎

 暫く追いかけっこをしていると、段々と周りの人が少なくなってきた。追いかけっこをしながらも着々と陛下の部屋に近づいていたらしく、ついに王族しか入れないエリアまで来てしまった。

 陛下の部屋は突き当たりにあるらしく、廊下を真っ直ぐに進んでいく。陛下が扉のノブをつかむ前に、ドンっと勢いそのまま手をついた。

「これ以上逃げないでくださいね、ラインハルト様。」

 扉を開けようとしながらも陛下は少し後ろを見ようとしていたらしく、顔がとても近くにある。とりあえず、扉を開けて逃げられないように、陛下の手を固定した。

「さっき、なぜ顔を背けたのですか?」

 少し悲しそうな顔を浮かべて聞くと、陛下はまた顔を背けながら口を開いた。今までは陛下に振り回されていたけれど、今は俺の方が優位に立っている気がして楽しい。

「…お前が喜んでいたから。」

 は?喜んでいたから…?そんなことをいわれても、喜ぶのは俺の勝手だとしか言いようがない。

「どういう意味ですか?」

「お前、を喜ばせるのは俺がいいと、思った。」

少しずつ顔を赤く染めながら、そう口にする陛下。…かわいい、かも知れない。



…俺は今、何を思った?陛下がかわいいだとか思わなかったか?

 いや、気のせいだ、気のせい。陛下の顔の造形がいいから、ちょっと言葉の選び方を間違えてしまっただけだ。きっと。

 俺が悶々としていると陛下が口を開いた。すっかり顔の色は戻ってしまっている。

「…お前から迫ってきてくれるのは嬉しいが、人に見られている。いいのか?」

「…え?」

 ギギギと首を回すと、洗濯物を抱えた侍女がいた。

「し、失礼しました!」

「あ、ちょっと待って!」

 目が合うと侍女は一目散に駆けていってしまった。

「…部屋に入るか?」

「…はい。」

 自分で陛下に人に見られないようにと言っておきながらガッツリ見られてしまった。侍女のあの様子は一瞬見ただけではなく、結構最初の方から見られていたのだろう。

 恥ずかしい…。王城に勤務する前から噂が広がっていたら、仕事がしにくいなんてもんじゃない。

 とりあえず、開かれた扉から、陛下の部屋に入った。
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