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一章 空回りな王様

綺麗な女性

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4日目の夕方。勉強に没頭し過ぎていたらしく、御者に声をかけられた時には既に王都の門の前だった。入場検査を受けるため、馬車を一度降りなければならないらしい。外に出ようと腰を上げるとボキボキと骨がなった。

 動いてなさすぎたか……。急いで馬車を降りてググッと背中をのばす。腰から肩まで骨が解れて気持ちがいい。だけどあんまり続けているとなかなか治らなくなるだろうから気を付けないといけないな。

 一息ついていると、門番が本人確認をしに来た。戸籍登録されている顔と同じか見くらべる程度だが、それだけでも防犯になるからよくできていると思う。

 再び馬車に乗ると直ぐに出発した。門を潜ると整備された道路と街が広がっており、とても綺麗だ。王都はとてもわかりやすく建物が配置されている。

王都は円のような形をしており、中心に王城、次に貴族の邸宅、富豪の家、商業施設…。身分の高いものの家や手厚い警備が必要な場所が中央に集められているのだ。

 しばらく進むと我が家の邸宅が見えてきた。家の前で馬車が止まったので降りると、家令のセバスチャンが出迎えに来た。

「お久しぶりでございます。お部屋のご用意は出来ておりますので、ごゆっくりとお休みください。」

「ああ。ありがとう、そうさせてもらうよ」

 王都の邸宅に来るのは久しぶりだが、埃一つ落ちていない。我が家の使用人達は皆優秀で嬉しい限りだ。





階段を登り、自室へと入るとテーブルの上に何かが置かれていた。

「なんだこれ、花か?」

 無造作に置かれた一房の花。これ、サンザシか?少し暗いのでわかりづらいが。多分あっているはず。確か花言葉は…『ただ一つの恋』『成功を待つ』。

 誰からだ?この花は大体告白とかに使われるもので、男に贈るものじゃない。花を持ち上げてみると、下に小さなメッセージカードが置かれていた。

『愛するユニファートへ 想いを込めて。』

 女性の字か?綺麗な紙に香りまでつけられている。

誰からのプレゼントなのかわからないのは不気味だが、女性からのプレゼントなんて久しぶりだから嬉しいな…。

誰が持ってきたのか聞くためにセバスチャンを呼んだ。

「これ、誰が持ってきたかわかるか?テーブルの上に置かれていたのだが…。」

サンザシとメッセージカードを指差しながら言うと、
「そちらでしたら、昼間綺麗な女性の方がお持ちになられましたよ。きちんと毒物が混ざっていないか調べてありますゆえ、ご安心ください。」

「ああ、そうか。下がっていいぞ。」

……綺麗な女性、か。貴族の邸宅が建ち並ぶここは、ここに家がある貴族か、許可証がある人しか入れない。だからその女性の身分もそれなりにあるだろうから、俺のことを好いてくれているのなら、俺の結婚も夢じゃなくなるかもしれない。

 少し横になろうと手に持っていたメッセージカードをテーブルに置こうとした瞬間、手が滑って落としてしまった。拾うと裏に『今夜貴族街入り口で待つ。』と書いてあった。

 貴族街とは、街の人が貴族ばかりが住んでいるからとつけた名前で正式な名称ではない。隅のほうを見ると小さく「R」と書いてあった。

 ………会いに行ってみようか。俺の立場を考えたら、どうやったっていい行動とはいえないけれど、俺を慕ってくれる数少ない人間だし、あわよくば婚約でも……なんて下心もある。もう夜になるし、あまり待たせるのも悪いだろう。
直ぐに家を出ることにした。

 玄関ホールに行くと、セバスチャンが待機していた。

「準備はできておりますよ。」

……そういえば、あの花束とメッセージカード既に見られてたんだった。書かれたいたことに愚直に従うことまでバレていたと思うとすごく恥ずかしい……。まあ、歩いていくよりは楽だしありがたく乗らせてもらおう。

「……ああ、よろしく。」

馬車はさっきの御者が運転してくれるようだ。せっかく休めるようになったのにこき使って少し申し訳ない気持ちになる。

 無言で乗っていると直ぐに入り口についた。見られるのも恥ずかしいし、少し離れたところで待機するように伝えて門を抜ける。門の直ぐ横にフードを被って座り込んでいる人がいた。

 怪しいと疑いながらも、周りにそれらしき人がいないのでこれをかけた。

「もしかしてあなたが私に花を贈ってくださった方ですか?」

年上の方かもしれないし、丁寧に声をかける。本当にどんな人かわからない。でもすごくドキドキするな…





「おお!やっときたか!」

そういうとフードの人は立ち上がって見下ろした。俺を。

俺は結構身長は高いほうで、最近は測っていないものの確実に180cmはある。同じくらいの身長ならまだしも見下ろされるなんて、幼少期以来なかったのに……。

「……?」

「どうかしたのか?」

立った時の振動で被っていたフードが落ちてその顔があらわになっている。月明かりが反射して艶めく黒髪。燃えるような赤い瞳。

国王陛下じゃないか!慌てて傅くと上から不機嫌そうな声が聞こえた。

「何をしている。面をあげよ。」

言われた通りに顔を上げると、眉根を寄せる王の顔があった。何を怒っていらっしゃるのかさえわからないが、許可されていないので、口を開いて謝罪することもできない。

 一体どうすれば……。困っているのが顔にも出てしまったらしい、陛下は先程よりも少し柔らかい声で言葉を発した。

「立て。今は公式の場ではない。今夜は王としてではなく、1人の人間としてお前に会いにきたのだから、対等に接してくれ。」

なぜ、一家臣の元へわざわざ陛下が……?そんな疑問も口にできないほど、驚きが心を占めていた。
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