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今
希望
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美咲さんが俺の部屋にやってきたのは、そんな時だった。
美咲さんは部屋に入るなり、俺が抱きしめている向日葵の髪飾りを見つめて動きを止めた。
そして大きく深呼吸をし、部屋の外から心配そうに部屋を覗き込む健さんに目配せして、扉を静かに閉めた。
「君が…悠馬くんね」
「…そうだけど」
何を今更、と鼻白む俺に、美咲さんは優しく微笑んで言った。
「兄さんにとてもよく似てるわ…」
人を睨む時、斜め上から見下そうとする癖とかね、と笑って言われ、俺は赤面した。
「アンタ、父さんの妹なの?」
「ええ、そうよ。名前は美咲。何度か会ったこともあるのだけれど、小さかったものね」
俺は全く覚えていなかったが、その優しい口調に、少しずつ警戒心は解けていった。
「ねえ、その髪飾りは、晴香ちゃんのものよね?」
美咲さんは、俺が握りしめている髪飾りを指して言った。
「…そうだけど。姉ちゃんの唯一の…」
遺品、という言葉は、喉が詰まったように出てこなかった。まだ心のどこかで、姉が死んだことを認めたくなかったのだ。
「そう…知ってるかしら?それ、私の兄があなたのお母さんにプレゼントした物なのよ。」
「父さんが、母さんに?」
そう、と呟いた美咲さんの白い頬を、一筋の涙が伝った。
もしかしたら、姉は、母さんのことを想って、いつもこの髪飾りを身につけていたのだろうか…。優しい姉の事だ、きっとそうだと思った。
「ねえ、悠馬くん。」
美咲さんは、少し涙声で、しかしはっきりとした口調で言った。
「あなたは…妖狐を見たわね?」
頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
妖狐、妖狐、妖狐…。
姉が死んでから今まで、誰ひとりとしてその名を口にする者はいなかった。
まるで、「言ってはいけない」と示し合わせているかのように。
自分の荒い息遣いと目の前の髪飾りが、俺をぐんと「あの日」に連れ戻した。
飛び散る血。
揺れる木々。
黄金色の毛。
跳ねる髪飾り。
泥に横たわる姉の…
『首から下』。
「うぁ…ぁあぁあぁぁ…」
いやだ。
いやだいやだいやだ、
もうやめろ…これ以上、
姉ちゃんを、
俺を、殺さないで…
「…ま…悠馬くん!!」
はっと気がつくと、そこは暗い森ではなく、自分の部屋だった。
目の前にいるのは、姉の死体ではなく美咲さん。
自分の手のひらも、泥に濡れてはない。
「どうしたの?急にうなされ出して…」
「い、いや、なんでもない…」
妖狐。
どうして美咲さんが、その忌まわしい名を…。
「やっぱり見たのね…。
あのね、辛いことを思い出させてごめんなさい。
でも、これだけは言っておかないといけないの」
「…やめろ…」
泣きそうな顔で後ずさる俺に、美咲さんは真っ直ぐな目で言った。
「あなたは、この村で唯一、妖狐を殺せる人間よ」
美咲さんは部屋に入るなり、俺が抱きしめている向日葵の髪飾りを見つめて動きを止めた。
そして大きく深呼吸をし、部屋の外から心配そうに部屋を覗き込む健さんに目配せして、扉を静かに閉めた。
「君が…悠馬くんね」
「…そうだけど」
何を今更、と鼻白む俺に、美咲さんは優しく微笑んで言った。
「兄さんにとてもよく似てるわ…」
人を睨む時、斜め上から見下そうとする癖とかね、と笑って言われ、俺は赤面した。
「アンタ、父さんの妹なの?」
「ええ、そうよ。名前は美咲。何度か会ったこともあるのだけれど、小さかったものね」
俺は全く覚えていなかったが、その優しい口調に、少しずつ警戒心は解けていった。
「ねえ、その髪飾りは、晴香ちゃんのものよね?」
美咲さんは、俺が握りしめている髪飾りを指して言った。
「…そうだけど。姉ちゃんの唯一の…」
遺品、という言葉は、喉が詰まったように出てこなかった。まだ心のどこかで、姉が死んだことを認めたくなかったのだ。
「そう…知ってるかしら?それ、私の兄があなたのお母さんにプレゼントした物なのよ。」
「父さんが、母さんに?」
そう、と呟いた美咲さんの白い頬を、一筋の涙が伝った。
もしかしたら、姉は、母さんのことを想って、いつもこの髪飾りを身につけていたのだろうか…。優しい姉の事だ、きっとそうだと思った。
「ねえ、悠馬くん。」
美咲さんは、少し涙声で、しかしはっきりとした口調で言った。
「あなたは…妖狐を見たわね?」
頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
妖狐、妖狐、妖狐…。
姉が死んでから今まで、誰ひとりとしてその名を口にする者はいなかった。
まるで、「言ってはいけない」と示し合わせているかのように。
自分の荒い息遣いと目の前の髪飾りが、俺をぐんと「あの日」に連れ戻した。
飛び散る血。
揺れる木々。
黄金色の毛。
跳ねる髪飾り。
泥に横たわる姉の…
『首から下』。
「うぁ…ぁあぁあぁぁ…」
いやだ。
いやだいやだいやだ、
もうやめろ…これ以上、
姉ちゃんを、
俺を、殺さないで…
「…ま…悠馬くん!!」
はっと気がつくと、そこは暗い森ではなく、自分の部屋だった。
目の前にいるのは、姉の死体ではなく美咲さん。
自分の手のひらも、泥に濡れてはない。
「どうしたの?急にうなされ出して…」
「い、いや、なんでもない…」
妖狐。
どうして美咲さんが、その忌まわしい名を…。
「やっぱり見たのね…。
あのね、辛いことを思い出させてごめんなさい。
でも、これだけは言っておかないといけないの」
「…やめろ…」
泣きそうな顔で後ずさる俺に、美咲さんは真っ直ぐな目で言った。
「あなたは、この村で唯一、妖狐を殺せる人間よ」
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