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自己紹介と嫉妬の炎

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「では改めて、自己紹介からいこうか」

 店に入って注文を済ませたところで、勇者がそう切り出した。
 なお、俺とセシリアはすでにやさぐれモード突入中です。
 あからさまに『機嫌悪いです』というオーラを放ちながら、代表して俺が「ご自由に~」と返した。

「えっと、それじゃあ、まずは僕から。――僕の名前はアルフレッド。世間では勇者なんて呼ばれもしているけど、一応は一介の冒険者だよ」

 爽やかに人好きする笑顔で、自己紹介をする勇者アルフレッド。
 ちなみに、勇者&姫騎士&美少女神官がやって来たってんで、店の中はてんやわんやの大騒ぎ。店にいた客は、揃いも揃ってこちらを窺っている。
 あと、今の自己紹介で女性客の何人かが落ちたな。忌々しい。

 正直に言って、これはかなり恥ずかしい状況だ。
 つか、よく考えてみたらこんな中で自己紹介とか、『これ、なんの罰ゲーム?』って感じだよ。

「じゃあ次は、シェフィル。頼むよ」

「あ、はい。わかりました」

 勇者が神官さんに話を振る。
 瞬間、態度をコロッと変え、聞く気満々になって神官ちゃんを凝視する。そして、更に機嫌を悪くしてやさぐれるうちのポンコツ邪神。
 美少女が俺とオマケのジャリに向かって自己紹介。いや~、ワクワクが止まんねぇ!

「私の名前はシェフィルと申します」

「シェフィルさんですか。美しいお名前ですね。あなたにピッタリだ!」

「ありがとうございます。私は元々、聖都ディアスで神官見習いをしておりましたが、今はアルフレッド様たちと共に旅をして、見聞を広めているところです。あなた方とここで会えたのも、きっと神の思し召し。今後ともよろしくお願いいたしますね、ヨシマサさん、セシリアさん」

「ええ。俺も個人的にぜひよろしくさせていただきたいです。つきましては、連絡先などを――うぎゃ! おいこら、何しやがんだ!」

「……フン!」

 セシリアめ、足を目いっぱい伸ばして俺の足を踏みつけてきやがった。しかも、踵でグリグリと……。
 嫉妬とは本当に醜いやつだ。
 そんなに俺が美少女と仲良くするのが妬ましいか。

「あの……どうかされましたか?」

「い……いえ、お気遣いなく。ちょっと持病の癪が出ただけですので」

「それは大変なのでは……?」

「ハハハ。ご安心を。あなたの美しい顔を見ていたら、すぐに治まりましたので」

「は……はあ……。なら、良いのですが……」

 急に悲鳴を上げた俺を気遣ってくれたのだろう。
 シェフィルさんが、今も心配そうな顔で俺を見つめている。
 美少女の熱視線。何と気持ちいいものだ。

「バカモン。あれは奇人を見る目と言うのじゃ。明らかに引いとるじゃろうが」

 無視しよう。
 何はともあれ、シェフィルさんの熱視線……。
 これは、脈があるのではなかろうか。

「うん。ありがとう、シェフィル。じゃあ次はフレア」

「わかった。――私の名前はフレア・アリオス。ここよりはるか南に位置するアリオス王国の三番姫だ。よろしく頼むぞ、ヨシマサ、セシリア」

 シェフィルさんと代わるように、姫騎士ちゃん――フレアちゃんがハキハキとした声で自己紹介を始めた。
 うんうん。気品の中にも活発さを感じさせる、実に聞き心地のよい声だ。
 口調的には似ているけれど、俺への暴言を吐き出すしか能がないどこかのジャリは、ぜひとも見習ってもらいたいものだ。

「今はこちらの勇者アルフレッドと共に旅をしている。将来は、その……アルフレッドに婿に来てもらって、姉上達と共にアリオス王国の発展に寄与できればと思っている」

「あ、フレアさん! 抜け駆けはずるいですよ! わ、私だって、アルフレッド様と……」

 真っ赤になった頬に手を当て、くねくねと妄想に耽る美少女たち。
 ハハハ!
 いや~、二人の頭の上にお花畑が見えるな。
 一体、どんな妄想をしているんだか。

 にしても……うんうん。そっかそっか。そうだったな。
 忘れるところだったぜ。
 フフフ……。

「お帰り、魔王」

 ただいま、邪神。

 ああ、そうだったわ。
 いい人オーラとか、美少女登場とかで忘れていたけど、勇者って俺の敵だったわ。
 こいつ、俺の脳内『あいつ絶対許さんリスト』のトップに燦然と輝いていたんだったわ。
 たくさんの美少女に囲われて、あまつさえ取り合いにまで発展している。
 そのくせ本人はド天然なのか、「いやはや、まいったな」と爽やか笑顔で朴念仁ぶりを発揮しているときた。
 なんですか? あんた、ギャルゲーの主人公かなんかですか?
 実にうらやま――けしからん!
 マジ許すまじだ、この勇者。全国一千万の同胞たちに代わり、粛清してくれる。
 フォー○の暗黒面、全開!

「おお、ヨシマサが過去最高に猛っておる。すごい嫉妬と僻みのオーラじゃ。ぶっちゃけ、超キモい!」

 ハハハ。
 勇者よ、今こそ俺の本気に見せてやろうじゃないか。
 明日、子供たちに「勇者様って、超女たらしなんだぜ!」って言いふらしてやる。
 他にもあることないこと、ないことないこと吹き込んでやる。

「75%捏造じゃな。やり口がとことんクズじゃ」

 見ていろ、勇者。
 てめえのこの国における子供人気を、根絶させてやるぜ!
 後で後悔するといい。
 クークックック!

「小さい! 小さいぞ、ヨシマサ。見事な小物っぷりじゃ!」

 黙れ、邪神。
 てめえも似たようなものだろうが。
 てか、最初に勇者の人気失墜狙ってたのはお前の方だ。
 手伝ってやるって言ってんだから、てめえも黙って協力しろ。

「ヨシマサよ、黙っていたら協力になるのか? ならば、わらわも全力で黙っているとしよう」

 うん。
 やっぱりいいや。お前はどっかで遊んでろ。
 
 ――と、俺が綿密な嫌がらせ計画を立てているところで、注文していたメシがやって来た。

 さすがはこの国の富裕層御用達のレストラン。
 見るからにうまそうな料理だ。
 
「今日はぼくのおごりだ。さあ、遠慮なく食べてくれ」

 What!?
 この人、今「おごり」って言いました。
 つまり、ここにあるメシはすべてタダメシ。
 おいしいご飯食べ放題!

 ……フッ!
 さすがは勇者さんだ。マジ、パネえッス!
 俺、一生ついて行きます!

「わらわも、わらわも!」

 こうして見事に餌付けされた俺たちは、速攻で嫌がらせのことも忘れて、勇者のおごりによるメシに舌鼓を売ったのだった。
 余談だが、どうしておごりのメシって、こんなにうまいんだろうね?
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