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即物最高

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 ともあれ、昼間に食い物を稼いで、夜は金を稼ぐ。
 加えて当初のセシリアの目的である人気を稼ぐこともできている。(と言っても最近のあのロリ邪神の様子を見ていると、この目的をちゃんと覚えているのかいまいちよくわからんが……)
 正直なところ、こわいくらいに順風満帆だな。

 あとは、俺の野望を果たせりゃ万々歳だ。

 ――おっと。

 こんなことを考えている内にショーはフィナーレを迎える時間となったみたいだ。

 フフフ。
 今の俺にかかれば、考えごとをしながら最高のパフォーマンスを見せることくらい、お茶の子さいさいだ。
 そこで見ている美しいお嬢さん方、惚れるなよ。(←パチリとウィンク)

 ……………………。

 おかしい、逃げられた。
 なぜだ!

「安心せい。むしろ正常な反応じゃ。まともな女子なら、お主に興味を持ったりせん」

 てめえはわざわざモノローグへツッコミ入れるためだけに出てくんじゃねえ。
 さっきまで万桜号の中でグースカ寝てただろうが。
 普段ポンコツなくせに、なんでこういう時だけ妙な勘を働かせてんだ。

「そんなのは簡単じゃ。お主に現実を突きつけるのが、今のわらわの楽しみなのでな」

 嫌な楽しみもあったもんだ。
 俺、なんでこんなののパートナーやってんだろう。
 つうか、すぐにやめろやバカ野郎。

 本来なら今すぐこの怒りの鉄拳を叩き込みに行きたいところだが、まだショーは終わっていないしな。
 仕方ない。
 あとで覚えていろよ、クソ邪神。

 ――なんてことを考えつつも、顔には全く出さずにお客様へ向かう俺。

 正にエンターテイナーの鏡だな。
 なのに、なぜモテないんだ。
 うーん、ミステリー……。

「そんなの決まっておろうが。――ひとえにお主の人柄のたまものじゃて」

 だから、一々出てくんじゃねえ。
 てめえはもうすっこんでろ。
 あと、モテない人柄って何だそれ。
 最悪じゃねえか。

「本日のショーはこれにて閉幕でございます。本日はお越しいただき、誠にありがとうございました! よろしければ、心ばかりのおひねりをいただけますと、幸いにございます!」

 邪神からの心ない言葉にひっそり胸の内で涙しつつ、地面にシルクハットのような帽子を置く。
 すると、ショーを見てくれた人たちがポンポンポーンと金貨や銀貨を投げ込んでくれた。
 うむうむ。
 今日の上々な稼ぎだ。
 ああ……。金を見ると、すさんだ心が洗われるな。(←金の亡者)

「ヨシマサよ、そこは嘘でも『お客様の笑顔』とか『お客様の拍手』と言ったらどうじゃ。ただでさえモテないのに、余計モテなくなるぞ」

 『ただでさえ』は余計だ。
 俺は自分に素直なの!
 即物最高!

 などという俺は一言もしゃべらないコミュニケーションを取っている間に、客はまばらに散っていった。
 これで完全にお開き。
 今日の仕事も終了だ。

 俺は片付けもそこそこに、万桜号の中に戻る。
 そしたらセシリアが助手席の背もたれを倒し、星を見ていた。

 ふむ。
 頃合い的にはちょうどいい機会だな。
 かねてより計画していたことを実行に移すとするか。

「おい、セシリア」

「あん? なんじゃい」

 セシリアが、ドカッと運転席に腰を下ろした俺の方へ首を向ける。
 見たところ若干眠そうだが、まあ話を聞くくらいはできるだろう。
 そう判断した俺は、割と真剣な声音で話し始めた。

「前にさ、俺がやりたいことをお前に話したことあったよな」

「ああ……。『この世界の本を集めて、色んな人に物語を届けたい』とかいうやつのことかの?」

 意外としっかり覚えていたみたいだな。
 正直、もう忘れられているかもと思っていたんだが……。
 こいつもちゃんと人並みの記憶力があったんだな。

「ガウーッ!」

 噛まれた。
 考える自由も与えられんのか、俺は。

 まあいいや。
 とりあえずセシリアの顎を開いて、腕を引き抜いてっと……。
 ……ここら辺の処理もうまくなってきたな。

「それだ。今まではとりあえずこの車に載せてきた本を読み聞かせしてきたが、軍資金もある程度貯まってきたしな。そろそろ、その夢の第一歩ってやつを踏み出してみたいと思う」

「というと、つまり……」

 何やら閃いた顔をするセシリア。
 どうやら、俺の言いたいことを察したらしい。
 んじゃ、さっさか言ってしまうとしますか。

「おう。明日、この国の本屋へ行くぞ」
 
 セシリアと同じように夜空を見上げ、俺ははっきりとそう宣言した。
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