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第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。

舞台裏:閻魔様と兼定さんの会話 その3

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 12月24日夜。
 現世ではクリスマスイヴを祝う、一種のお祭りのようなこの夜に……、

「はあ~……。ついに来てしまった……」

 儂は執務室の机で、重い溜息をつきながら一枚の紙を眺めていた。

「はあ~……。これはまずいぞ。下手をすれば、儂、本当に消されてしまう……」

「……どうかされたのですか、閻魔様。まるでこの世の終わりのような顔をされて」

 紅茶の入ったティーカップを差し出しながら、兼定君が不思議そうな顔で儂を見る。
 ああ……。儂、そんな顔していたのか。いや、世界というか儂の存在が終わりそうなわけなのだから、ある意味当然だけど……。

「ねえ、兼定君……。今日、天国本館で商議員会があったのは、君も知っているよね……」

「ええ。閻魔様のスケジューリングも秘書官である私の役目ですから」

「で、その最後にね、商議員の神様方からこれを渡されてしまって……」

 そう言って、儂はさっきまで穴が開くほど見つめていた紙を兼定君に差し出した。
 儂から紙を受け取った兼定君は、すぐさま書かれた内容に目を通していく。
 目の動きを見るに、かなりの速度で読んでいるね。さすがは無駄にスペックが高い変態秘書官。

「ふむ……。閻魔様、大変申し訳ありませんが今日はこれにて失礼いたします。急な仕事ができましたので」

 書かれた内容を三秒で読み終えた兼定君が、紙を私に返しながら唐突に退出を申し出た。
 これ読んだ瞬間にできた『急な仕事』って、すごく悪い予感しかしないのだけど……。

「あ~、兼定君。ちょっと待ってもらっていいかな?」

「何か急ぎの用事でしょうか? もしそうでないようでしたら、明日以降にお願いいたします。私、ここ数百年で一番焦っていますので」

「いや、急ぎの用事というか、単に確かめておきたいだけなんだけど……兼定君、君の『急な仕事』って一体何?」

「ハハハ。いえ、大したことではありません。地獄裁判所の新たな筆頭裁判官を決める選挙の準備と、候補者のリストアップをするだけです」

「結論が早いというか、飛躍し過ぎじゃないかな!」

 とんでもないことを言い始めた裏切り者の秘書官に、盛大なツッコミを入れる。
 なんだよ、新しい筆頭裁判官の選挙って!
 儂、まだまだ筆頭裁判官の仕事頑張るよ! てか、頑張らせてよ、お願いだから!

「いや、だって閻魔様、明日には良くて消し炭、悪ければ灰も残らないじゃないですか。これから年明けにかけて忙しくなりますし、早く次の筆頭裁判官を立てねば――」

「君、儂の秘書官なんだから、まずは儂が助かるための準備をしてよ!」

「ハハハ! 無茶苦茶なことをおっしゃいますね、閻魔様。私ごときに宏美さんを止められるわけないじゃないですか。仮にできることがあるとすれば――めくるめく快楽を味わった後、閻魔様といっしょに消されるくらいですよ」

「どちらにしても、儂は助からないじゃん!」

 ――ドッスン、バッタン!

 ギャーギャーと騒ぎながら、兼定君と不毛で見苦しい言い争いをする。儂もリアルに命がかかっているから、もう必死だ。
 儂らが暴れる最中さなか、机からハラリと落ちた今回の元凶とも言える紙。
 その末尾には、こんなことが書かれていた。

【――以上の理由から、今年度末を持って黄泉国立図書館地獄分館を閉館し、職員を解雇するものとする。】
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