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序章

8話目 最初の異世界へ [下] (星夜の復活。そして殴りこみへ)

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[☆星夜の夢☆]

 あれ? この身に覚えのある空間は、確か名前の知らないおっさんが現れた所? 少しの間探してはみたが例のおっさんはいない。

 その代わりにある風景が、まるで命の灯火が尽きかけようとしているが如く、走馬灯のように描写されてきた。

「こんな所で寝てないでさっさと修行に戻れ! まったく......」

 何処かで聞き覚えのある声。もう思い出したくないような、特徴的なドスの聞いた声。これは昔の出来事だろうか? 名前は......

 なんでこんな過去の出来事を思い出したんだろう......ちょっと待て。今日は大事な日! その瞬間、一筋の光が道しるべみたいに現れ、この光がまるでこっちに来なさい、と言っているようだった。俺はその光に向かって走りだし、そして覚醒する!


      ◇◇◇◇◇


 イテテテテ......あれ? ここは何処だ? なんだこの部屋は? 確か俺は二日酔いのまま神官さんの話をパーティーメンバーと共に聞いていたはずなのに、今はとてもフカフカのベッドで横になっている。

 あっ。枕の横に星夜宛の手紙がある。この随筆は隊長諸星が書いた字だな。何なに?『おい! 女の子不可侵同盟を破った裏切り者よ。さっさと体調治して、さっきの広場に戻りやがれ!』ん......?

 どゆこと? まあまあこの手紙の続きを読んでみよう。『あと、昨日はとても楽しい時間だったかい? 肥溜め性癖野郎!? 羨ましいんだよこんちくしょう! そんなわけだ。後で詳しい事包み隠さず話しやがれ!』

「お前は何を言ってるんだ?」

 今すぐ現場に戻ってこいと諸星が言ってる事は分かった。だが、女の子不可侵条約って何!? 初耳なんだが!?

 そうこうしちゃいけねえ。詳しい事は現場についてから聞こう。今から神官さんの所に急いで行くぞ!


      ◇◇◇


「そもそもお主らは常識がなっとらん! よし今からワシが常識とはなんたるかを教えてやろう! まずは、お前さんのパンツの色を教えなさい!」

「なんだろう。見てはいけない所を俺は見ている気がする......」

 案外近くに神官さんが居たのは良かった事だけど、幾分状況がよろしくない事は俺の目でも分かった。今の様子を詳しくまとめてみると、神官さんが筋肉パーフェクトフォルム(勝手に呼称してる)になってて、それの煽りを受けているパーティーメンバーがみんな縮こまっている。

 まるでお偉いさんのボスが部下達を怒鳴りつけているみたいな状況になってるな。ていうかこの神官、常識を教えるという名目で俺の仲間にやばい事を要求してない? 筋肉モリモリマッチョの変態じゃねぇか!

「そうだな! おい、お前達、神官様を見習って常識というものを身につけな! 常識を身につけないと大人の階段へ登れねえぞ!」

 神官の言葉に素早く反応して、神官の側についた諸星は、一見いい事を言ってる風に聞こえるが、多分己の欲望に負けたのだろう。まるで如何わしい物を見つめるが如くまなかを見つめている。

 ていうかもう帰っていい? 別に俺がやらなくても神官が討伐してくれそうな勢いだし。いやいや、流石に助けに行かないとまずいな。異世界に行く前に星歌達が変態魔人の毒牙にかかってしまう。そもそも諸星くん、腐っても隊長だよね? なんでそっち側にいるの?

 とにかく俺はさっきまで隠れていた柱の影から素早く飛び出し、神官の間に割って入る。

「お前......復活したのか?」

 諸星含む一部の仲間達が歓喜の目で俺を見てくるが、今はそれどころじゃ無さそうだ。

「やっと首謀者の復活か。お前達含めお主も罪深き罪人。今ここで断罪してくれるわ!」

 断罪? というかなんなんだよ! この神官という名の筋肉おじさんは! 話がコロコロ変わってるし本来の目的忘れてない? 元はと言えば俺が全部悪いんだけどさ。

「断罪は後でいっぱい受けるから早く本来の目的である異世界の話をしてくれ!」

 その言葉に神官は急に態度を改めてこう聞いてくる。

「お主、その言葉に偽りは無いだろうな? ワシは容赦せんぞ」

 ドスの聞いた声でこう言われた。あれ? もしかしてだけど俺の命危ない?

 神官はみるみると小さくなり、元の筋肉に戻った。そのあとタバコを吹かしながら口を開く。

「そんで何だったかな。確か、まずは異世界を調査してこいと言ったんだっけな」

「あっはい......」

 なんだろう......この筋肉質の身体から謎のオーラが俺の身体全体を包み込んでいき、神官の目をまともに見てられない。

 とりあえず、くると達はどうなってるかなという感じで目を向けてみると、くるとくんは意識不明の重体。まなかも右に同じなんだが、多分アイツは無謀にも神官に挑んで返り討ちにあったと分析しているがどうだろう? 諸星は何故が敵意剥き出しにして俺を睨んできている。後で迷惑かけたこと謝っておこう......。星歌は特に動き無しと......。ていうか星歌はなんだかんだメンタル強いな。

 そうこうしている内に神官が本来の目的である異世界について語り始める。

「なんでまずは、異世界について変化があったら教えてほしいと言ったわけだが、何故そんな事を言ったかと言うとなぁ。お主らはまだ異世界にも行ってないいわゆる初心者じゃろ? 異世界はこの天界とは違い過酷な世界。無知の状態のまま行ったらみすみす殺されに行くものじゃ」

 神官が長々と話しているが、つまり......どういうことだってばよ? 殺されにいくだけってことか? その神官の話にはまだ続きがあるらしく、一呼吸置いたあとに話始めた。

「我々神様達は貴重な戦力を失いたくないらしいのでな。まずは自分達で状況を見ながら本番に入ってほしい。いわゆる準備期間ってやつが。もちろんやれそうならやってもよいがな。あっちの何か違和感があったら報告してな」

 準備期間か......確かにぶっつけ本番で挑むのは無謀かも。そもそも異世界に行って何をするのかもハッキリしていない。首謀者を捕らえるのか、暗殺するのか、平和的に解決するのかでいろいろ変わってくるからさ。

「神官さん。準備期間というものは何となく意図は分かりました。それで本番というのは何をするんですか?」

 星歌の疑問に神官はこう答える。どうやらこの天界には能力剥奪書というアイテムがあって、これで異世界人を能力を奪うことが出来るという。これを使わなくても直接倒してもいいし、できることなら天界に侵攻しない約束を取り付けてみるのもよし。とにかく、天界に危害を加えそうな危険人物を未然に何かしらしろというのが、上からの命令なのか?



 こうして一応神官の話は終わったようだ。神官は異世界行きの扉を開けたあと、何かブツグサ言いながら神殿の奥に消えていく。完全に神官の足音が消えた後、諸星が提案してきた。

「まずは偵察か~。なんか拍子抜けだよな」
「やっぱり異世界行くのやめません? わざわざ僕達が危険を冒すのはバカバカしいし」
「くるとん......反対するのもわかるけど、どっちみち後戻り出来ないと思うぞ。それよりも......」

 そうぶつぶつ諸星が言っていると、何かを思いついたらしく、そしてその矛先が俺に向かっていく。

「なんかさ。このパーティーって名前なかったじゃん? なんか味気ないっていうか、とにかくかっこいい名前が欲しいな!」

 いきなりそう言われてもね......知らね。返信に困った俺は星歌に話を振ってみる事にした。

「星歌はどんな名前がいいかな?」
「ふぇ!?」

 すまんな。かっこいい名前ってよく分からなくてさ。それなんで意見をください。いやごめん。これは怒らしたかな? 顔を赤らめながら睨んでくる。

「ぶっ飛ばし隊とかどう?」

 うん。星歌.....考えてくれてありがとう。でもさ、シンプルにダサくね? 考える能力がない俺が思った事である。

「いいな! シンプルでいい!」

 諸星隊長がお気に召したようだ。いやまぁ......ぶっ飛ばし隊も案外かっこいいかもしれない。

「いいんじゃない? うん」
「名前に興味ないです」

 残りの2人はそもそも興味無しと言った感じか......なんか元気なさそうだけど大丈夫かな?

「決定! ぶっ飛ばし隊だーー!」

 諸星がそう宣言し、ぶっ飛ばし隊が結成された。

◇◇◇◇◇◇◇
一章に続く
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