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銀のとまりぎ亭──side セイ──①

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 イリヤ様に手を引かれてギルドを出ると、通りをまっすぐに噴水があるという方に馬車を走らせた。

「一番良い部屋をお願い」

「はい、そうしますと商家の方などが使う部屋になりまして簡易ですが応接間と主寝室に従者用の部屋があり、こちらのお部屋は一泊六万ガルド、馬車が二頭立てとなりますので一泊二千ガルド、お食事が一食千ガルドとなります。特別室は簡易の風呂がついておりますので湯のご利用は魔石で湯をはりますのでお声掛け下さい」

 銀のとまりぎ亭に着いてまずは馬車を厩に預け、私が受付で部屋を押さえている間にイリヤ様は天然人たらしの実力を遺憾なく発揮する。その様子にちょっとため息が零れそうになるのは仕方ない。あれはパッシブなのかしら?

「へぇ、テレーザちゃんって言うのか。その歳で家の手伝いとか偉いな」

 この世界ではそれが普通ですからね、イリヤ様……なんて、一人心の中で突っ込んでみる。

「お兄ちゃんキラキラでカッコイイね!」

 学校では長すぎ……長い前髪に隠されていて誰も気付かなかったみたいだけどイリヤ様は昔から可愛……カッコイイんだから。ものすごく鈍感でヘタレですけど。
 ついでに昔一度会ってる事なんてこれっぽっちも覚えて無いみたいですけどね……とか、つい思考が恨みがましくなってしまうのも仕方ないと思う。

「そうかな?えっと、ありがとう?」

 お礼に疑問符がついているのは自分が目立たず地味だと思っているからで、きっと鎧がカッコイイんだろうなとか思っていそう。私なんてあの時、王子様が来てくれたのかと思ったのに。

「とりあえず三日、食事は明日から二人分を朝晩でお願い。お湯は魔法で出せるから必要無いのと、それと馬の世話はこちらでするから水も餌もいらないわ」

 実は私は魔法の細かい調節は苦手だけど器用貧乏……じゃなくて、魔力操作完璧なイリヤ様がちょちょいのちょいとお湯を出してくれるだろうから大丈夫。なんなら付与大好きだから言えば湯をはるだけじゃなく簡易シャワーくらい作ってくれるだろうし。

 そして立派な白馬に見えるけど、実際はゴーレムだから水も餌もいらないのよね。なんて省エネ。
 普通なら作成されたゴーレムは動力としての魔石に魔力の充填が必要で、核の魔力が無くなると活動を停止してしまうものが殆どだ。なんとなく燃費が悪いイメージ、というか燃費が悪い。
 でもこの白馬型ゴーレムはイリヤ様が無駄に良い材料使っているからちょっとやそっとじゃ魔石の魔力が減らない上に、大気中の魔素を変換して充填するというなんともエコな付与をこれまたイリヤ様が刻んでいるから、実質的には半永久的に使用可能とかいう末オソロシイ性能。
 ゲームの中では省エネで便利ーくらいにしか思ってなかったけど、この世界基準で言えばただただヤバイ代物だ。
 にもかかわらず材料費も技術力もほぼタダだからこれはもう実質タダじゃないか?とか言い出すイリヤ様に、呆れながらも私たちがしっかりしなきゃと、三人で力強く頷きあったのも今では良い思い出だ。

 もちろん魔物として現れるゴーレムは何らかの方法で核である魔石に魔力を充填しているのだろうけど、それこそ倒す時に核を壊してしまうから真実どうなのかわからない。もしかするとイリヤ様が刻んだような魔素を充填するような付与が核にされているのかもしれない。

 宿代で十八万ガルド、馬車で六千ガルド、食事代で四千ガルド。

 金貨を一枚、小金貨を九枚と横にずらして一枚で合計十枚……トータル二十万ガルドを渡す。とりあえずチップの相場がわからないから一万ガルドにしておく。こういう時はケチっちゃダメだけど多すぎてもダメ。
 わざわざ金貨二枚で出さなかったからか横にずらしたからかチップの意図は伝わった模様。この変はチップ出しすぎをやらかしそうなイリヤ様には任せられない。考えなしに金貨とかほいほい出しちゃいそうだもの。

「そうだ、テレーザちゃんにこれあげるよ」

「うわ~、お兄ちゃんありがとう!」

 なんだかとてつもなくイヤな予感がして声の方を見れば、盛大なやらかしの現場を目撃した。

 なんで今ソレほいほいと出したりして下さってますの?びっくりし過ぎて日本語が変になったじゃない。











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