婚約者は第二王子のはずですが？！

021☆レナーンス地方の視察へＧＯ！①

　あの衝撃の日から既に七日——……

　私には誘拐や暗殺防止に客室ではなく王族専用のフロアにある王太子妃の部屋と王太子夫妻用の寝室が割り当てられている。私の純潔がイコールして王太子殿下の命に関わってくるから、らしい。
　殺してもしななそうな殿下だけど例えば何らかの原因でぽっくり逝った場合、原因不明だと齢よわい五歳にして純潔が疑われるという社交界恐っ……てか、幼女の身体で突っ込まれたら死ぬって。

　基本的に起きたら寝室のそれまた左の王太子妃の部屋で王太子殿下手ずから着替えをさせられて——ドレスは一人で着替えられないのもあるけど侍女の選定が終わってない上に私付きのサラは着替えは手伝えても髪が結えないし、脳筋すぎて性格的も城には上がれないから——まぁ、着替えを殿下付きの侍従にさせるわけにはいかないのは分かる。
　"ウィルは何でも出来るから大丈夫"と、何故かギルバート様が自信満々に言っていたけど"僕がアリーの仕度を手伝っても良いけど髪なんて結えないしね"の発言からのなにやら殿下から漂う不穏な空気に"イヤ、だからって私の仕度に殿下を使うのはちょっと……"と言いたい言葉は飲み込んでおいた。
　その後は王太子殿下の私室か執務室で四六時中一緒に過ごしている。ふふ、精神耐性ばんざーい！
　仕事してる殿下を横目にお茶や読書、刺繍をするよりアル様と遊びたいな～、うふふ。

　それに初日に違和感なさすぎたからか何故だか王太子殿下まで一緒に寝ている摩訶不思議な事態が勃発。
　殿下は自分の寝室が別にあるのに……とこれまた不平不満を飲み込みつつ天蓋つきのベッドごと結界張られているから本当に誘拐や暗殺防止なんだろうな……と、これも早々に諦めた。
　だって貞操の危機は一応無いし、命の危険も今現在は無い。殿下の病んでるあたりや地雷に触れさえしなければ……ははは。
　問題といえば、なんか良い匂いするし魔法で室温は快適だし抱き枕に丁度良いしでちょっとこのぬくもりが癖になりそうなのだけが問題だ。ほんと。

　婚約解消して王太子殿下がちゃんとした妃を娶る場合はこの天蓋つきベッドは入れ替える方向で——アリシア特製の魔導具、前世の記憶をふんだんに取り入れた機能付き豪華ベッド特別生産で——配慮をしよう。うん。

「三日後にレナーンス地方に視察に出るが体調は問題無いか？」

「はい、大丈夫です」

　私の髪の毛を梳いてサイドを複雑かつ所々に宝石も編み込みハーフアップしながら王太子殿下が視察の日程を伝えてきた。何この人職人なの？！

「あの、殿下……その、侍女の選定はまだ終わりませんか？」

「まだだが、特に不都合は無いだろう」

　物理的には不都合無いけど精神的には不都合大ありだよコンチクセウ。王位継承権一位の殿下に何やらせとんじゃいってツッコミはもちろん受け付けない。……てか公爵家のお母様付きの侍女より器用で結うのが上手いんですけど。
　日毎技巧的になるその手腕に、もしかすると殿下は王国一の腕前やもしれぬ、と密かに思った。