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019☆どうやらこの選択はバッドエンドの様です②

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「……っ」

 齎された恐怖から悲鳴にさえならない何かが自然と口から漏れ出た。
 ああ、あの目だ。
 濃い深遠の紫水晶アメジストは幼さは消えてもっと切れ長だったけれど、何者さえも写すことの無い瞳。
 過去と言っていいのか分からないけれど繰り返した何回目かの私の人生で、今までの殿下はあの・・殿下と同じではなかったのだと、今更ながらに気づく。
 多分もうすべて遅かったのだけれど。

「死んでもご免なら、」

「……ち、がっ……」

 違くないけど違う。ああ、ヒロインちゃんのアルフレッド様のバッドエンドって……
 もしかしてもしかすると殿下もご同類?

「……ウィル?っ、ぐぁっ!!!」

 不穏な空気を察知したギルバート様が私と王太子殿下の間に入ろうとしてあっと言う間に吹き飛ばされた。
 ……ギルバート様ってば壁に激突しましたよ?スゴイ音がしましたよ?友人とか側近枠なのに殿下ってば一寸たりとも容赦がねぇ。

「なら私と一緒に死んで」

 のががさぬ様にか私の腕をむんずと掴むと王太子殿下はとてもとても綺麗に微笑んだ。
 もちろん目は笑ってないけど。一ミリたりとも。

 殺して死ぬんですね、そうですね。
 王太子殿下はそっちタイプか。
 どうやら振り切ってしまわれた。
 つまり御乱心です。
 ……なんかのフラグを間違って回収してしまったのか、それとも地雷を踏んでしまったのか、私アリシアは殿下の病んでる部分の琴線に触れてしまった模様。

 ゲームでアルフレッド様の——他の攻略対象の好感度を上げていてアルフレッド様との好感度があまり高くない状態でアルフレッド様のエンドに行くと——バッドエンドで、そうとは知っていたけど……ご兄弟でヤンデレ属性とかマジか。



********************


 そして左の内扉の先に引きずり込まれて、私は四回目の終焉を迎えた。
 ……てかこれ、今までで一番の恐怖体験。


********************



「あら、そんな顔しなくても大丈夫よアリーちゃん。エリーに毎日来て貰いましょう!なんならエリーも一緒に暮らしちゃえば良いのよ、うふふふ」


 …………待って。

 次の台詞は、


「アリー!」

「殿下、走ってはいけませんっ!」

 キラキラの金糸を靡かせて菫色の瞳を輝かせて私の方に走ってくるのはアルフレッド様……

 これって死んで繰り返すんじゃなくて、しかも最初からじゃなくて今回は少しだけ時間が戻っているの?

 心臓の音がやけに耳に煩い。
 手足が震える。


「アリーが今日から城で暮らすと先ほど父上から聞いて城の探け……案内をしてあげようと思ったんだ」

「……アル様、一緒にお城の探検しましょう」

 私の選択した台詞は間違って無い?

「…………シア」

 冷ややかな声が私にクリティカルヒットしたけど、さっきの恐怖体験よりはマシだ。
 だって王太子殿下の紫水晶アメジストの瞳には私が写っている。

「アルフレッド、シアの案内は不要だ」

「……はい、わかりました」

 しかしっ、何故かアルフレッド様にしゅんとなった犬のお耳と尻尾が見えるからこの台詞は言っておく。もう一度死ぬ事になろうとも!後悔はしない。きっと。

「アル様、アル様、王太子殿下が学園に行かれたら一緒に遊びましょう?私、探検もかくれんぼも好きです」

「あら、だったらわたくしもアリーちゃんとアルとお庭でかくれんぼするわ!」

 ロイヤルガーデンかくれんぼのフラグは死せども回収よっ!


「部屋に案内しよう」

 そして、ちょっと残念そうなアルフレッド様とお母様が明日来るかしらとお花畑なソフィア様を残して王太子殿下は王宮の奥へと歩を進める。
 ちょいちょいとギルバート様に手招きされ考え事をしながら私はその後に続く。

 くらくらする。
 足が鉛の様に重い。
 もう死にたく無い。
 多分王太子殿下の地雷は全身全霊で拒絶したコト。
 だってあの目に戻った、というか変わった・・・・のは死んでもご免だと拒否した瞬間だった、と思う。

 どんどん冷たくなる手足と息苦しさに何の状態異常なのかと自分のステータスを垣間見る。

 極端に減ったHPとMPに名前の横の薔薇の花マークが……五つ……一つ減ってる?
 ……待って、私の死んだ回数は四回+アリシアになる前の一回。
 これ……この薔薇って私の生命ライフ……残りのコンティニューの回数ってこと?
 あとこれを何回繰り返すの?
 終わりは来るの?
 これがゼロになったら……どうなるの?

「シアっ?!」

 ぐらりと傾いた身体に訪れるはずの衝撃は来なかった。
 ごめんなさい。
 どうしてもあの目は忘れられ無いしやっぱり怖いのだけれど、今の殿下・・・・はあの殿下とは違うのかもしれない。
 私は今、五回目を生きていて、私も前とはまったく違う。

 意識が落ちる瞬間、そう思った。

 だって、ほら。

 今、こんなにも温かいのだから…………










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