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 宮廷魔導師見習いのリオン様。
 この国では珍しい黒髪に翠色の瞳の青年。
 それに魔法使いも貴重な存在だ。

 リーゼロッテがリオン様と呼んでいることから、それなりの家柄の出の方なのだとは思うけれど、いつも謙虚で礼儀正しい素朴な青年という印象だった。

「あのね。エミリアが婚約を破棄されてしまったの。元気がでるような、何か面白い物を見せてもらえないかしら?」
「えっ。こ、婚約を……? ぇと、元気がでるものでしたら……こちらはいかがでしょうか?」

 リオン様は戸惑いながらもローブの中から可愛らし白い木箱を取り出した。指輪をいれるケースと同じくらいのそれは、花の模様があしらわれ上品な小箱だ。

 リーゼロッテも興味津々でテーブルに乗り出し、私の手の平に乗ったそれを、じーっと見つめている。

「何かしら?」
「開けてみてください」

 リオン様に勧められて小箱を開くと、中からフワッと風が溢れ、花の香りが広がった。小箱は開けると鏡が付いていて、自然と笑顔になった自分と目が合った。

「いい香り」
「開ける度に花の香りがする魔法の小物入れです。お気に入りのアクセサリーを入れてお使いください」
「頂いていいのかしら?」
「はい。それはエミリア様の物です。先日、お二人が箱に入れたハーブの香り当て遊びをしていらっしゃいましたよね。箱を開けて香りをかぐ姿が可愛らしかったので、作ってみたんです」

 随分前だが、そんな遊びをしていた記憶がある。
 小箱をいくつも用意して、互いの好きなハーブを各々に入れてごちゃ混ぜにしてから、目を瞑って開けて、香りだけで中の物を当てる遊びだ。
 当てる時は目を瞑っていたから、見られていたなんて気がつかなかった。

 でも、こんなに嬉しいプレゼントは初めてだった。
 誰とも比べられず、エミリアの物だと言ってくれたからだろうか。

「ありがとうございます。リオン様」
「いいなぁ。リオン様、私の分はないのかしら?」
「そちらは試作品ですから、またお作りしますね」
「楽しみにしてるわ。エミリア、リオン様をお呼びして良かったでしょう?」
「ええ。自然と笑顔になれました。でも、リオン様はお忙しい宮廷魔導師様ですから、玩具作りなんてお願いしてはいけないわ」

 リーゼロッテは茶会の時に、たまにリオン様を呼ぶ。その度に新しい魔法道具や玩具の説明を課している。魔導師ではなくて曲芸師とでも思っているのかもしれない。

「大丈夫ですよ。ただの趣味ですから。リーゼロッテ様が色々と魔法を活用した道具や玩具の案を下さるので、私もとても勉強になります。エミリア様のご意見も聞かせていただきたいです」
「そうよ。リオン様は宮廷魔導師見習いなんだから、色んな事を勉強中なの。気付いたことがあったらエミリアも言ってあげてね。──あら? そういえばエミリア。今日はひとりで来たの?」
「あ、そうだったわ」

 いつも一緒の付き人はいない。今日はひとりで屋敷から飛び出してきてしまっていた。

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