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最終章 それぞれの道

011 偽装◯◯

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 それから一月後。ルーシャは城の転移陣の前で旅行鞄を手にしていた。

「気を付けていっておいで。ルーシャ」
「はい。お見送りありがとうございます」
「いや~。陛下に見送りしてもらうなんて凄いですね~」
「この人は、ただ仕事をサボっているだけだ」 

 リックが茶化すと、レイスは陛下の隣で不服そうに述べた。
 これからルーシャとヒスイはリックの国へ旅行に行く。ハネムーンではなく、婚前旅行という名目だ。

 シェリクス領から王都に戻り、レイスにヒスイとの事を話すと、レイスはかなり反対した。アーネスト伯爵も認めてくれたと説明しても、何が裏があるに違いないと言って、実の父親に使者を送り動向を探らせるような始末だった。

 そこで、迷走するレイスを見て、陛下が助言したのだ。

「それならウチの子なんてどうだい?」

 レイスはヒスイとの仲を認めてくれた。というか、テオドアの時のように王子との婚約を避けるため偽装婚約ならと許可してくれた。

 もう名称なんてどうでもいいかな。と思いルーシャもそれを受け入れることにして今に至る。
 レイスは今も陛下にヒスイという婚約者がいることをアピールしているのだろうけれど、陛下はどこまで知っているのかは謎だ。

 ◇◇◇◇

 リックの国はとても綺麗に整備された大きな国だった。王都の一番街はお城みたいに大きな建物が並んでいて、リックの実家は立派な宝石店だった。

「あら。お帰りなさい。本物のルーシャちゃんとヒスイ君だぁ~」 

 裏口から入り、出迎えてくれたのはとても綺麗なリックそっくりの赤髪垂れ目の女性だった。

「初めまして。私ルーシャと申します」
「知ってるわ。マオからいつも聞いているもの。私はマオの母のアネットよ。よろしくね」

 アネットの隣で小さな赤髪の女の子がお辞儀している。

「よろしくお願いします。えっと貴方がマオちゃん?」
「ううん。マオにぃの妹のガーネットです!」
「か、可愛い。マオ君の妹さん? えっとマオ君って……」
「オレオレ」

 リックは目が合うと、自身を指差し何度も頷いている。

「え、えと……リックが何?」
「ルーシャ。これがアリスの呪いが効かなかった理由ですよ」
「理由?」
「だから、オレの名前はマオ=ロドリーゴ。偽名使ってたから呪いを跳ね返せたって訳。呪いに必要なのは名前と身体の一部だからな」
「えっ。ぇぇぇぇぇ!? 偽名って……。何でヒスイは知ってたみたいた顔してるのよ!?」
「知ってましたから」

 またいつもの涼しい顔で流されて、そうやってすぐ顔にでるから秘密なんですよって耳元で囁かれた。解せない。
 
「って言っても、向こうではリックでよろしく。もうそれで登録してあるし色々面倒だから」

 リックの本名はマオ=ロドリーゴ。ルクレスト王国へ初めて転移した際、転移陣を作った魔法使いセオドリック=シルヴェストの息子と間違えられ、元々アリス対策で偽名を名乗ろうとしていたので、従兄弟の名前を借りたのだという。

 嘘をついていたお詫びということで、リックは国のあちこちを案内してくれると言った。

 始めに案内されたのは宝石店の向かいにあるシルヴェスト雑貨店。そこでは、リックお手製のわん子サマ人形が売られていて、リックとそっくりの顔の少年がつまらなそうに店番をしていた。
 ただ、顔はそっくりだけど、髪色は金色で瞳も淡い水色だ。どことなく儚げで落ち着いた印象の少年だった。

「ほ、本物のフレデリック=シルヴェストさんですか?」
「そうですけど。あ、マオのって、あいつ逃げたな」

 振り返るとリックの姿はなく、ルーシャとヒスイだけ店に残されていた。

「リック……あ。マオさんにはとてもお世話になりまして……えっと。何を話したらいいのかしら」
「あいつといると大変だったでしょう。これ、よかったらどうぞ」

 フレデリックは黒い犬のぬいぐるみと、魔力回復のドロップをくれた。

「よかったら。またいらしてくださいね」
「は、はい」

 爽やかな笑顔で見送られると、店の外ではリックが待っていた。

「本物のフレデクックさん。リックと色違いだけど、それだけじゃなくて凄く大人びた人だったわ。でも、笑顔がやっぱり子供らしくてリックみたいだったの」
「やっぱりそういうと思ったんだよ。見比べられるのが一番苦手なんだよな~。それもあいつの外面全開スマイルとさ」

 外面全開スマイル。リックも同じことをしているのに、自覚はなかったらしい。


 それから、あちこちお店や露店巡りをした後、夕食は一番街の高級レストランでソルボン・ポークのステーキを頂いた。豚肉と言ったらソルボン伯爵のブランドが最高らしい。


 この国は転移陣を介して、色々な場所へすぐに行けた。国内だけでなく様々な国と繋がっていて、一週間だけで何ヵ国も観光することができた。


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