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第五章 男ばかりの訓練所
012 最後の夕食
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訓練所での最後の夕食。
と言っても二ヶ月後にまたくるのだろうけれど。
今日で最後だからか、いつもはアルベリクと距離を取っていた訓練生達が積極的だった。
「最後くらいセシルちゃんと話させろー!」
「そうだ。アルベリクとオリヴィア様ばかりずるいぞ!」
と騒ぎ立て、なぜか腕相撲大会が始まった。
負けた方が酒を飲むというものらしい。
ここの人達はこういうお祭り騒ぎみたいなのが好きなのだな。とセシルはだんだん理解できるようになっていた。
力自慢の人からアルベリクと対戦して、酔わせてしまおうという作戦だそうだ。アルベリクは剣の腕は他の人より立つようだが、体つきは細いし力は弱そうだ。
そして、一人目はなんとディルクだった。
肩を回しヤル気満々。
アルベリクも気まずそうな顔をしている。
そして結果は……やはり力ではディルクが上だった。
アルベリクはコップ一杯の酒を一気飲みさせられている。
「くそっ。誰だ、こんな強い酒を入れたのは!?」
飲みきったアルベリクが赤い顔で怒っている。
セシルは何だか可笑しくなってきて笑いそうだったが、アルベリクがこっちに顔を向けたので、真面目な顔を作るのに必死だ。
しかし隣にいた訓練生達は笑っているかと思ったら、悔しそうな顔をしていた。
「一杯じゃあの程度か……。次だ次!」
「そうだ。酔わせれば俺達にも勝機がある!」
その後も、体格のよいの訓練生から挑みアルベリクは酔わされていった。
こんな風景は二度と拝めないかもしれない。
うつ向いてこっそり笑っていたセシルに、ディルクが話しかけた。
「セシルちゃん。次も来るよな?」
「はい。ディルク様」
セシルの返事を聞くと他の訓練生達が寄ってきた。
今なら危険人物なしで会話が出来る。
「やったー。ちゃんと花壇に水やりしておくから!」
「俺も俺も!」
「嬉しいです。頑張ってくださいね」
「「はぁ~い」」
「セシルちゃん。これ良かったら……」
訓練生の一人がレープクーヘンをセシルに差し出した。
街でみんなで買ってきてくれたらしい。
「わぁ~ありがとうございます」
「手当てのお礼だよ」
「またよろしくな」
「アルベリクは置いてきてもいいぞ」
それぞれ好き勝手言っていると、人だかりをかき分けアルベリクが現れた。顔が赤いし足元が少しフラついている。
「誰だ。今俺の名を出した奴は!?」
「うわぁ~。まだ意識があんのか~」
「もっと飲ませちまえ」
「今なら俺も勝てるかも……」
沸き立つ群衆にディルクが声を上げた。
「はいはい。今日はもうお開きだな。明日アルベリクは帰るんだし。あんまり酔わせ過ぎたら道中心配だしな」
「それもそうだな……」
「馬車に『白い悪魔在中』って貼り紙しとけよ」
「俺、ついてくよ」
ざわつく訓練生を笑って受け流し、ディルクはアルベリクに肩を貸して部屋まで連れていってくれた。セシルを引き止めようとする者もいたが、ディルクが笑顔を向けるとみんな静かになった。
◇◇
「じゃ、後はセシルちゃん。よろしくな」
アルベリクをベッドに横にするとディルクは部屋を出て行こうとした。よろしくって、この後何をしたらいいの?
「よ、よろしくって何をでしょうか?」
「へ? あー、明日帰るんだよな。荷物の整理とかさ……」
「ああ。成る程。承知いたしました!」
「ははは。じゃあ、また明日」
「ありがとうございました」
セシルがペコリと頭を下げると、ディルクは笑顔で部屋を出ていった。
さて。片付けをしよう。
と思って部屋を見渡すが、とても綺麗に片付いているではないか。
明日着る服まで用意してある。
無駄な物といえば――セシルはアルベリクの顔の横に本を一冊見つけた。
アルベリクがよく読んでいるものだ。
カバーがかかっていて内容は知らない。ずっと中身が気になっていたので、静かに手を伸ばして本を取った。
「えっと……魔法と魔術?」
魔法と魔術。それは違うものなのだろうか。
屋敷の書庫には魔法に関する本はなかった。
それもそうだ。
この国では、魔法は禁忌とされているのだから。
他の国の本なのだろうか。
後で部屋でゆっくり読もうかな。
と思っていたら、急にアルベリクに腕を掴まれた。
「ひゃぁっ。起きてましたか?」
「ああ。それは俺の鞄の中に入れておいてくれ」
「は、はい」
見つかってしまった。セシルは諦め、床に置いてあるアルベリクの鞄に本を入れようとしゃがみこんだ。鞄の中も綺麗に整頓されている。
「セシル……」
名前を呼ばれて振り返ろうとしたら、それよりも先に背中にアルベリクを感じた。
後ろから手を回されて、ギュッと抱きしめられる。
「へ? アルベリク様!?」
「屋敷に……帰りたくない」
「はい?」
と言っても二ヶ月後にまたくるのだろうけれど。
今日で最後だからか、いつもはアルベリクと距離を取っていた訓練生達が積極的だった。
「最後くらいセシルちゃんと話させろー!」
「そうだ。アルベリクとオリヴィア様ばかりずるいぞ!」
と騒ぎ立て、なぜか腕相撲大会が始まった。
負けた方が酒を飲むというものらしい。
ここの人達はこういうお祭り騒ぎみたいなのが好きなのだな。とセシルはだんだん理解できるようになっていた。
力自慢の人からアルベリクと対戦して、酔わせてしまおうという作戦だそうだ。アルベリクは剣の腕は他の人より立つようだが、体つきは細いし力は弱そうだ。
そして、一人目はなんとディルクだった。
肩を回しヤル気満々。
アルベリクも気まずそうな顔をしている。
そして結果は……やはり力ではディルクが上だった。
アルベリクはコップ一杯の酒を一気飲みさせられている。
「くそっ。誰だ、こんな強い酒を入れたのは!?」
飲みきったアルベリクが赤い顔で怒っている。
セシルは何だか可笑しくなってきて笑いそうだったが、アルベリクがこっちに顔を向けたので、真面目な顔を作るのに必死だ。
しかし隣にいた訓練生達は笑っているかと思ったら、悔しそうな顔をしていた。
「一杯じゃあの程度か……。次だ次!」
「そうだ。酔わせれば俺達にも勝機がある!」
その後も、体格のよいの訓練生から挑みアルベリクは酔わされていった。
こんな風景は二度と拝めないかもしれない。
うつ向いてこっそり笑っていたセシルに、ディルクが話しかけた。
「セシルちゃん。次も来るよな?」
「はい。ディルク様」
セシルの返事を聞くと他の訓練生達が寄ってきた。
今なら危険人物なしで会話が出来る。
「やったー。ちゃんと花壇に水やりしておくから!」
「俺も俺も!」
「嬉しいです。頑張ってくださいね」
「「はぁ~い」」
「セシルちゃん。これ良かったら……」
訓練生の一人がレープクーヘンをセシルに差し出した。
街でみんなで買ってきてくれたらしい。
「わぁ~ありがとうございます」
「手当てのお礼だよ」
「またよろしくな」
「アルベリクは置いてきてもいいぞ」
それぞれ好き勝手言っていると、人だかりをかき分けアルベリクが現れた。顔が赤いし足元が少しフラついている。
「誰だ。今俺の名を出した奴は!?」
「うわぁ~。まだ意識があんのか~」
「もっと飲ませちまえ」
「今なら俺も勝てるかも……」
沸き立つ群衆にディルクが声を上げた。
「はいはい。今日はもうお開きだな。明日アルベリクは帰るんだし。あんまり酔わせ過ぎたら道中心配だしな」
「それもそうだな……」
「馬車に『白い悪魔在中』って貼り紙しとけよ」
「俺、ついてくよ」
ざわつく訓練生を笑って受け流し、ディルクはアルベリクに肩を貸して部屋まで連れていってくれた。セシルを引き止めようとする者もいたが、ディルクが笑顔を向けるとみんな静かになった。
◇◇
「じゃ、後はセシルちゃん。よろしくな」
アルベリクをベッドに横にするとディルクは部屋を出て行こうとした。よろしくって、この後何をしたらいいの?
「よ、よろしくって何をでしょうか?」
「へ? あー、明日帰るんだよな。荷物の整理とかさ……」
「ああ。成る程。承知いたしました!」
「ははは。じゃあ、また明日」
「ありがとうございました」
セシルがペコリと頭を下げると、ディルクは笑顔で部屋を出ていった。
さて。片付けをしよう。
と思って部屋を見渡すが、とても綺麗に片付いているではないか。
明日着る服まで用意してある。
無駄な物といえば――セシルはアルベリクの顔の横に本を一冊見つけた。
アルベリクがよく読んでいるものだ。
カバーがかかっていて内容は知らない。ずっと中身が気になっていたので、静かに手を伸ばして本を取った。
「えっと……魔法と魔術?」
魔法と魔術。それは違うものなのだろうか。
屋敷の書庫には魔法に関する本はなかった。
それもそうだ。
この国では、魔法は禁忌とされているのだから。
他の国の本なのだろうか。
後で部屋でゆっくり読もうかな。
と思っていたら、急にアルベリクに腕を掴まれた。
「ひゃぁっ。起きてましたか?」
「ああ。それは俺の鞄の中に入れておいてくれ」
「は、はい」
見つかってしまった。セシルは諦め、床に置いてあるアルベリクの鞄に本を入れようとしゃがみこんだ。鞄の中も綺麗に整頓されている。
「セシル……」
名前を呼ばれて振り返ろうとしたら、それよりも先に背中にアルベリクを感じた。
後ろから手を回されて、ギュッと抱きしめられる。
「へ? アルベリク様!?」
「屋敷に……帰りたくない」
「はい?」
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