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第四章 二人きりでの馬車の旅
012 夜のティータイム
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セシルは宿屋の一室で大きく背伸びをした。
「美味しかったぁ~」
宿屋の夕食は絶品だった。
ライ麦パンとクリームシチュー。
しかもおかわり自由。
だけどおかわりは一回で止めておいた。
理由は二つ。
アルベリクの視線が痛かったから。
そしてもう一つは……。
「うふふっ」
さっきお店でかったレープクーヘンを食べるためだ。
しかしその前に大事なお仕事がある。
アルベリクの夜のお茶の時間だ。
セシルは持ってきていたメイド服に着替え、ティーセットの入った鞄を開けた。お湯は部屋に上がる前に宿の人からもらっておいたし、準備万端だ。
アルベリクにお茶を出して、それが終わったら自分にもお茶を入れてレープクーヘンを楽しむ、という算段だ。
「さっさと終わらせちゃお~」
セシルは鼻歌交じりにティーセットを持ち、アルベリクの部屋へと足を向けた。
◇◇
アルベリクはベッドに横になり今日のことを思い返していた。
まさかセシルに女だと思われていたとは。
だから聖女だった時のセシルは自分と出会っていたことを思い出せなかったのだ。
メアリがした家出の話で気付いたと言っていたから、メアリのお陰である。
母親を失った時、セシルに会えたから今の自分がある。
だからセシルには幸せになって欲しかった。
なのに……。
トントンと扉をノックする音と共にセシルの声がした。
こんな時でも律儀にハーブティーを持ってきたのだろう。
「入れ」
「失礼します」
そして、ティーセットを抱えて部屋に入ってきたセシルを見て……アルベリクは絶句した。
「は? お前……何してるんだ?」
「へ? 今日はさっぱりとアールグレイにしました。お店のおばちゃんのお薦めだったので……ハーブの方が良かったですか?」
「いや、そうじゃなくて……なんでメイド服なんか着てるんだ?」
「……? お仕事の時はそうかな~と……?」
アルベリクはベッドに腰を下ろして大きくため息をついた。
「俺は剣の訓練に行くんだ。お前はおまけみたいなものだから、メイドの仕事などしなくていい」
「ええっ。……じゃあ私、なんの為に付いてきたんですか?」
確かに、なんの為にと言われたらなんと答えればいいのかアルベリクにも分からない。
屋敷にはクロードもリリアーヌもいる。あんなところにセシルを残して置くことは出来ないが、それを本人に言うのは気が引けた。
「まあ、社会勉強だと思え。お前は知らないことが多過ぎて見てられないんだ。それから、メイド服は着なくていい。なんの為に普通の服を用意したと思っているんだ。宿に身分も明かしていないし。……恥ずかしいから二度と着るなよ」
「えっ。……い、今すぐ着替えますっ」
「もういい。早くお茶の準備をしろ。そんな格好で宿屋の中をウロウロされたくないからな」
「はい……」
しょんぼりとお茶をいれるセシル。テーブルにティーカップを置くと、部屋の隅で自身が着るメイド服を不満そうに眺めている。
「お前も一緒に飲め。さっきの菓子も食べるのだろ?」
「へ? アルベリク様も食べるんですか!?」
「お前……あれを全部一人で食べる気だったのか?」
「はい」
セシルは当たり前だといった表情でそう答えた。アルベリクは立ち上がりカップをセシルの盆の上に戻した。
「レープクーヘンはお前の部屋にあるんだろ? だったらそっちでいただく」
「……こ、こちらにお持ちしますよ?」
「だから。その格好で部屋を往復されるのが嫌なんだ、ということを理解しろ!」
「……はい」
アルベリクはセシルの肩にマントを掛け、盆を取り上げた。
「美味しかったぁ~」
宿屋の夕食は絶品だった。
ライ麦パンとクリームシチュー。
しかもおかわり自由。
だけどおかわりは一回で止めておいた。
理由は二つ。
アルベリクの視線が痛かったから。
そしてもう一つは……。
「うふふっ」
さっきお店でかったレープクーヘンを食べるためだ。
しかしその前に大事なお仕事がある。
アルベリクの夜のお茶の時間だ。
セシルは持ってきていたメイド服に着替え、ティーセットの入った鞄を開けた。お湯は部屋に上がる前に宿の人からもらっておいたし、準備万端だ。
アルベリクにお茶を出して、それが終わったら自分にもお茶を入れてレープクーヘンを楽しむ、という算段だ。
「さっさと終わらせちゃお~」
セシルは鼻歌交じりにティーセットを持ち、アルベリクの部屋へと足を向けた。
◇◇
アルベリクはベッドに横になり今日のことを思い返していた。
まさかセシルに女だと思われていたとは。
だから聖女だった時のセシルは自分と出会っていたことを思い出せなかったのだ。
メアリがした家出の話で気付いたと言っていたから、メアリのお陰である。
母親を失った時、セシルに会えたから今の自分がある。
だからセシルには幸せになって欲しかった。
なのに……。
トントンと扉をノックする音と共にセシルの声がした。
こんな時でも律儀にハーブティーを持ってきたのだろう。
「入れ」
「失礼します」
そして、ティーセットを抱えて部屋に入ってきたセシルを見て……アルベリクは絶句した。
「は? お前……何してるんだ?」
「へ? 今日はさっぱりとアールグレイにしました。お店のおばちゃんのお薦めだったので……ハーブの方が良かったですか?」
「いや、そうじゃなくて……なんでメイド服なんか着てるんだ?」
「……? お仕事の時はそうかな~と……?」
アルベリクはベッドに腰を下ろして大きくため息をついた。
「俺は剣の訓練に行くんだ。お前はおまけみたいなものだから、メイドの仕事などしなくていい」
「ええっ。……じゃあ私、なんの為に付いてきたんですか?」
確かに、なんの為にと言われたらなんと答えればいいのかアルベリクにも分からない。
屋敷にはクロードもリリアーヌもいる。あんなところにセシルを残して置くことは出来ないが、それを本人に言うのは気が引けた。
「まあ、社会勉強だと思え。お前は知らないことが多過ぎて見てられないんだ。それから、メイド服は着なくていい。なんの為に普通の服を用意したと思っているんだ。宿に身分も明かしていないし。……恥ずかしいから二度と着るなよ」
「えっ。……い、今すぐ着替えますっ」
「もういい。早くお茶の準備をしろ。そんな格好で宿屋の中をウロウロされたくないからな」
「はい……」
しょんぼりとお茶をいれるセシル。テーブルにティーカップを置くと、部屋の隅で自身が着るメイド服を不満そうに眺めている。
「お前も一緒に飲め。さっきの菓子も食べるのだろ?」
「へ? アルベリク様も食べるんですか!?」
「お前……あれを全部一人で食べる気だったのか?」
「はい」
セシルは当たり前だといった表情でそう答えた。アルベリクは立ち上がりカップをセシルの盆の上に戻した。
「レープクーヘンはお前の部屋にあるんだろ? だったらそっちでいただく」
「……こ、こちらにお持ちしますよ?」
「だから。その格好で部屋を往復されるのが嫌なんだ、ということを理解しろ!」
「……はい」
アルベリクはセシルの肩にマントを掛け、盆を取り上げた。
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