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断章 ファビウス邸の日常
02 友達作り
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セシルは同年代の友達がいなかった。
それは、一度目の記憶の時も、二度目の聖女の時も。
自分自身にも問題があることは分かっていた。
ドジでノロマでどんくさい。
三拍子がそろっていた。
そしてセシルには、教会にいた他の子と違う点が一つあった。
母親の形見のロザリオを持っていたことだ。
一番仲の良かったアンにロザリオの秘密を話すと、翌日から女子全員から嫌がらせを受けるようになった。
この教会にいる子供は、お金のために親に売られ、ここへと逃げてきた子がほとんどなのだ。他にも色々な子がいるらしいが、セシルの様に親の形見などを持っている子は誰一人いなかった。
セシルは庭に出ている時間が長くなった。
セシルは草や花と過ごす時間が長くなった。
母のロザリオを握り、一人言を話すことが多くなった。
そしたら、ロザリオが力をくれた。
でも、教会の中にセシルの居場所は無かった。
◇◇
しかし今、友達を作るチャンスがやって来た。
それは、クロエと一緒にやって来たメイド、ミリアだ。
「ミリアさん。ミリアさんもクッキーはお好きなんですか?」
「いいえ」
「……」
会話が終わる。しかしセシルはめげなかった。
「じゃあ、好きな食べ物って何ですか?」
「ないわ」
「……」
はい。終了。ミリアはとても手強い相手である。
「じゃあ──」
「クロエ様。そろそろお時間です」
「そっか。じゃあ、レオンは兄様と一緒だから、レオンが戻ってきたら戻ろう」
「はい。かしこまりました」
セシルがもたもたしている間に帰りの時間になってしまった。今のところイエスかノーぐらいしか返事をもらっていない。これでは会話が成立したとも言い難い。
セシルは焦る。そしてイエスかノー以外で答えてくれそうな質問を一つ思い付いた。
「ミリアさんってお幾つなんですか?」
「……十八です」
「えっ! 五歳も年上!?」
小柄で平坦な体型のミリア。(セシルが言えたことではない)
想像していたより年が離れていて、セシルは驚いていた。
表情一つ変えないミリアに、セシルは何と声をかけてよいのか分からなくなる。
その時、後ろから声をかけられた。
「おいおい。失礼な反応するなよ。セシル」
「レクト……。そうだ、レクトなら、ミリアさんの好きな物、知ってるよね!?」
「えっ。……じゃあ、ちょっと耳貸せ……」
レクトはミリアをチラ見してから、セシルの耳に顔を近付けた。本人を前にして耳打ちとは、一旦どんな内容なのか、期待が高まる。
「ミリアさんが好きなのはリリアーヌ様だ。だから、リリアーヌ様の良いところを沢山言えば仲良くなれるぞ」
「えっ。この間、ミリアさん、怪我させられてたんだよ?」
「俺はリリアーヌ様はちょっと苦手なんだけど。ミリアさんは、蔑まれたり踏まれたり叩かれたりするのが大好きなんだよ。だからなのか……何て言うか、リリアーヌ様を心から尊敬してる。ああ、でも、そう言うことされたいから、クロエ様に怪我させたとかは無いからな。ミリアさんは超真面目だから!」
「う、うん」
返事をしたものの、どうしたらミリアと仲良くなれるのか答えが見つからない。あんなことをされても、リリアーヌが好きだなんて、理解できない。
リリアーヌの良いところなど皆目見当もつかないし、だったら……セシルがミリアを踏みつければいいのか?
「違う。絶対に違う。そんなの友達じゃない!」
急に叫んだセシルに皆の注目が集まった。
レクトは呆れ顔。クロエは何かの見世物かと勘違いしたのか、ニコニコとセシルを見上げている。
そしてミリアは、やっとセシルがしつこく話しかけてきた理由に気付いたのだった。
「友達? あなた、私と友達になりたかったの?」
小首をかしげて尋ねるミリアは感情の全く読めない顔をしている。しかし今まさに、初めて会話が成立したのである。
「はい。そうです。仲良くしたいんです!」
セシルの熱い視線とミリアの冷たい視線が混ざり合う。
しかしミリアの瞳にその熱が移ることはなかった。
「……無理よ。リリアーヌ様が仰っていました。──今度あのメイドに会ったら、頬が腫れるまで叩いて踏みつけて、鞭をうちつけてやる。──と」
一瞬、場の空気が凍りついた。
しかしこの場にはクロエもいる。真っ青な顔で立ち尽くすセシルを見て、レクトは笑って誤魔化す作戦に出た。
「またまた、そんなご冗談を~」
「あはは。ミリア面白~い」
笑い合うレクトとクロエに、ミリアは場を和ませるように微笑むと、顔を青くし硬直したままのセシルの耳元に顔を近付けた。
「冗談ではありません。あなた、ズルいです。来たばかりの癖に、リリアーヌ様に目をかけられるなんて……。リリアーヌ様のお手に触れてもよいメイドは私だけ。あなたにリリアーヌ様の鞭は似合いませんし、それを受けるべきは私なのです。どうかご自身の行動にはお気をつけください」
「はい。気を付けます……」
セシルはミリアに嫌われていたようだ。
そして、分かってはいたが、リリアーヌにも。
今日のところはお友達作りは諦めよう。
正直に言うと、リリアーヌの発言が本当に自分の身に起こりそうで、怖くて震え上がっていた。
リリアーヌには今後絶対に近づかないように気を付けなくては。そう心に刻むのであった。
それは、一度目の記憶の時も、二度目の聖女の時も。
自分自身にも問題があることは分かっていた。
ドジでノロマでどんくさい。
三拍子がそろっていた。
そしてセシルには、教会にいた他の子と違う点が一つあった。
母親の形見のロザリオを持っていたことだ。
一番仲の良かったアンにロザリオの秘密を話すと、翌日から女子全員から嫌がらせを受けるようになった。
この教会にいる子供は、お金のために親に売られ、ここへと逃げてきた子がほとんどなのだ。他にも色々な子がいるらしいが、セシルの様に親の形見などを持っている子は誰一人いなかった。
セシルは庭に出ている時間が長くなった。
セシルは草や花と過ごす時間が長くなった。
母のロザリオを握り、一人言を話すことが多くなった。
そしたら、ロザリオが力をくれた。
でも、教会の中にセシルの居場所は無かった。
◇◇
しかし今、友達を作るチャンスがやって来た。
それは、クロエと一緒にやって来たメイド、ミリアだ。
「ミリアさん。ミリアさんもクッキーはお好きなんですか?」
「いいえ」
「……」
会話が終わる。しかしセシルはめげなかった。
「じゃあ、好きな食べ物って何ですか?」
「ないわ」
「……」
はい。終了。ミリアはとても手強い相手である。
「じゃあ──」
「クロエ様。そろそろお時間です」
「そっか。じゃあ、レオンは兄様と一緒だから、レオンが戻ってきたら戻ろう」
「はい。かしこまりました」
セシルがもたもたしている間に帰りの時間になってしまった。今のところイエスかノーぐらいしか返事をもらっていない。これでは会話が成立したとも言い難い。
セシルは焦る。そしてイエスかノー以外で答えてくれそうな質問を一つ思い付いた。
「ミリアさんってお幾つなんですか?」
「……十八です」
「えっ! 五歳も年上!?」
小柄で平坦な体型のミリア。(セシルが言えたことではない)
想像していたより年が離れていて、セシルは驚いていた。
表情一つ変えないミリアに、セシルは何と声をかけてよいのか分からなくなる。
その時、後ろから声をかけられた。
「おいおい。失礼な反応するなよ。セシル」
「レクト……。そうだ、レクトなら、ミリアさんの好きな物、知ってるよね!?」
「えっ。……じゃあ、ちょっと耳貸せ……」
レクトはミリアをチラ見してから、セシルの耳に顔を近付けた。本人を前にして耳打ちとは、一旦どんな内容なのか、期待が高まる。
「ミリアさんが好きなのはリリアーヌ様だ。だから、リリアーヌ様の良いところを沢山言えば仲良くなれるぞ」
「えっ。この間、ミリアさん、怪我させられてたんだよ?」
「俺はリリアーヌ様はちょっと苦手なんだけど。ミリアさんは、蔑まれたり踏まれたり叩かれたりするのが大好きなんだよ。だからなのか……何て言うか、リリアーヌ様を心から尊敬してる。ああ、でも、そう言うことされたいから、クロエ様に怪我させたとかは無いからな。ミリアさんは超真面目だから!」
「う、うん」
返事をしたものの、どうしたらミリアと仲良くなれるのか答えが見つからない。あんなことをされても、リリアーヌが好きだなんて、理解できない。
リリアーヌの良いところなど皆目見当もつかないし、だったら……セシルがミリアを踏みつければいいのか?
「違う。絶対に違う。そんなの友達じゃない!」
急に叫んだセシルに皆の注目が集まった。
レクトは呆れ顔。クロエは何かの見世物かと勘違いしたのか、ニコニコとセシルを見上げている。
そしてミリアは、やっとセシルがしつこく話しかけてきた理由に気付いたのだった。
「友達? あなた、私と友達になりたかったの?」
小首をかしげて尋ねるミリアは感情の全く読めない顔をしている。しかし今まさに、初めて会話が成立したのである。
「はい。そうです。仲良くしたいんです!」
セシルの熱い視線とミリアの冷たい視線が混ざり合う。
しかしミリアの瞳にその熱が移ることはなかった。
「……無理よ。リリアーヌ様が仰っていました。──今度あのメイドに会ったら、頬が腫れるまで叩いて踏みつけて、鞭をうちつけてやる。──と」
一瞬、場の空気が凍りついた。
しかしこの場にはクロエもいる。真っ青な顔で立ち尽くすセシルを見て、レクトは笑って誤魔化す作戦に出た。
「またまた、そんなご冗談を~」
「あはは。ミリア面白~い」
笑い合うレクトとクロエに、ミリアは場を和ませるように微笑むと、顔を青くし硬直したままのセシルの耳元に顔を近付けた。
「冗談ではありません。あなた、ズルいです。来たばかりの癖に、リリアーヌ様に目をかけられるなんて……。リリアーヌ様のお手に触れてもよいメイドは私だけ。あなたにリリアーヌ様の鞭は似合いませんし、それを受けるべきは私なのです。どうかご自身の行動にはお気をつけください」
「はい。気を付けます……」
セシルはミリアに嫌われていたようだ。
そして、分かってはいたが、リリアーヌにも。
今日のところはお友達作りは諦めよう。
正直に言うと、リリアーヌの発言が本当に自分の身に起こりそうで、怖くて震え上がっていた。
リリアーヌには今後絶対に近づかないように気を付けなくては。そう心に刻むのであった。
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