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第二章 専属メイド兼、庭師!?
005 薬か魔法か
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セシルはアルベリクの書斎を訪ねていた。中には入れてもらえたものの、忙しいらしく扉の前で待たされている。
書斎のソファーを見ると、初めてここへ来た日を思い出す。あそこでアルベリクに髪を結われた。今でも、どうしてアルベリクがあんなことをしてくれたのか、よく分からないでいた。
「待たせたな。用件は何だ?」
「あ、あの。湿布を作りました」
「湿布?」
「はい。庭にあった葉っぱで。レクトにも使ってみたのですが、良く効くと褒めてくれたので、アルベリク様にもお持ちしました」
アルベリクに文句を言われまいと、湿布の効能はレクトで実験済みだ。
アルベリクはセシルの持ったすり鉢を訝しげに見つめると、上着を脱ぎシャツのボタンに手を掛けた。
「な、何で脱ぐんですか!?」
「それは患部に塗るものだろう?」
「はい」
「だからだ」
「??」
まだ赤みの残るアルベリクの額に塗ろうと思っていたセシルは動揺したが、アルベリクがシャツを脱ぎ終えると彼の行動の意味を理解した。
アルベリクの腰には大きな痣が出来ていた。そう言えば、あの時アルベリクは腰をさすっていた。
「そ、その痣……」
「早くしろ」
「はいっ。ソファーにうつ伏せで寝てください」
アルベリクはソファーにうつ伏せになった。白い肌に浮かぶ赤紫色の痣を、セシルは凝視する。これぐらいの怪我なら、魔法で一瞬で治せる。セシルのせいで怪我をしたのだから治してあげたい。
しかし、この屋敷に魔法が使える人間は存在してはならない。アルベリクはそういったのだから、湿布で我慢してもらう他に方法はない。
「おい。まだか?」
「はいっ。す、少し冷たいですからね」
セシルは小麦粉と葉っぱを混ぜて作った湿布をアルベリクの患部に指で塗っていった。触れた瞬間にアルベリクがピクッと少し反応したが、その後は、組んだ腕に顔を伏せたまま動かなかった。
「これは、お前が育てた草の一つか?」
「いえ。これはお庭に偶然生えていた薬草です。裏が白色の葉っぱで香りも良いんですよ」
「そうか。なら、お前の草は雑草に劣るのだな」
「そ、そんな事ないです。それに草じゃなくてハーブです! お料理に使ったり、色々な効能が得られるお茶にもなるんですから」
自信満々にハーブの説明をするセシルに、アルベリクは横目で冷ややかな視線を向けた。
「お前は料理が出来ないだろう?」
「お茶ぐらい入れられます! アルベリク様、少し身体を起こしてください。後は包帯で固定すれば……」
「いや。いい。剥がしてくれ」
アルベリクは身体を起こすと背中の湿布に触れ、セシルを見上げた。
「えっ。何かご不便でも……痒くなったりしましたか?」
「お前、ズルをしたな?」
「ズル……ですか?」
湿布にズルとはどう言うことだろう。
もしかしたら、メアリが作ったと思っているのかもしれない。一生懸命、心を込めて作ったのに、心外である。
「ほら、剥がしてみろ」
「はい……」
言われるがままに湿布を剥がすと、アルベリクの痣は綺麗に消えていた。まるで魔法みたいに。
「あれれ?」
「あれれ、じゃない。お前、魔法を使っただろ」
「つ、使ってません。怪我が治るように、お祈りしながら湿布を作っただけで……す?」
「す? じゃない。それが魔法を使ったことになったのだろう? 自覚しろ」
「はい。申し訳ございません」
折角作ったのに、また怒られてしまった。セシルはしょぼんと肩をすくめて、すり鉢を抱きしめた。
「ほら、続きは?」
「へっ? ……あ」
アルベリクは赤くなった額を指さていた。文句を言う癖に、湿布はご所望のようだ。
「今、塗りますね」
「ああ」
アルベリクは前髪をかき上げ瞳を閉じた。
上半身は服を脱いだまま視界を閉ざす無防備なアルベリクの姿に、セシルは恐る恐る近づき湿布を塗る。
こんなにまじまじと近くでアルベリクの顔を見るのは始めてだ。長い睫毛は暗めの灰色、肌は白くてきめ細かい。黙っていれば理想的な美男子だ。
「おい」
「はいっ」
「お茶は入れられるんだな?」
「はい?」
セシルがすっとんきょうな声を上げると、アルベリクは眉を潜めた。
「お前の育てている草でだ!」
「はいっ。出来ます!」
「だったら、寝る前に茶を入れろ。最近使えないメイドが入って心労が絶えない。眠りにつきやすい茶を頼む」
使えないメイドとはセシルのことだろう。何だかモヤモヤするが、こんなことで拗ねても仕方がない。
「……かしこまりました。気持ちが安らぐハーブティーをご用意しますね。湿布、終わりました」
「ああ。ご苦労様」
アルベリクは額に触れ確認するとソファーから立ち上がりシャツを羽織った。そして、セシルとすれ違いざまに、くしゃっと頭を撫でる。
セシルは驚き、アルベリクに触れられた髪にそっと触れた。
ご苦労様、などと初めて言われた。頭に触れた手の暖かさがいつもより優しく感じる。
何だか嬉しい。今なら素直に、さっきのお礼が言える気がした。
セシルはすり鉢をギュッと胸に抱き、アルベリクに一礼する。
「痣が治って良かったです。先程はありがとうございました。これからはご迷惑かけないように、それから、太りすぎないよう気を付けます。失礼しました」
言葉にしてみたら、段々と恥ずかしくなってきて、セシルは言い切ると直ぐに部屋を飛び出していった。
セシルが部屋を去った後、部屋は静けさを取り戻していた。いつも忙しないセシルにアルベリクは呆れつつ、セシルの言葉が気になったいた。
「太りすぎ? むしろ、もう少し太った方が良いだろうに……」
書斎のソファーを見ると、初めてここへ来た日を思い出す。あそこでアルベリクに髪を結われた。今でも、どうしてアルベリクがあんなことをしてくれたのか、よく分からないでいた。
「待たせたな。用件は何だ?」
「あ、あの。湿布を作りました」
「湿布?」
「はい。庭にあった葉っぱで。レクトにも使ってみたのですが、良く効くと褒めてくれたので、アルベリク様にもお持ちしました」
アルベリクに文句を言われまいと、湿布の効能はレクトで実験済みだ。
アルベリクはセシルの持ったすり鉢を訝しげに見つめると、上着を脱ぎシャツのボタンに手を掛けた。
「な、何で脱ぐんですか!?」
「それは患部に塗るものだろう?」
「はい」
「だからだ」
「??」
まだ赤みの残るアルベリクの額に塗ろうと思っていたセシルは動揺したが、アルベリクがシャツを脱ぎ終えると彼の行動の意味を理解した。
アルベリクの腰には大きな痣が出来ていた。そう言えば、あの時アルベリクは腰をさすっていた。
「そ、その痣……」
「早くしろ」
「はいっ。ソファーにうつ伏せで寝てください」
アルベリクはソファーにうつ伏せになった。白い肌に浮かぶ赤紫色の痣を、セシルは凝視する。これぐらいの怪我なら、魔法で一瞬で治せる。セシルのせいで怪我をしたのだから治してあげたい。
しかし、この屋敷に魔法が使える人間は存在してはならない。アルベリクはそういったのだから、湿布で我慢してもらう他に方法はない。
「おい。まだか?」
「はいっ。す、少し冷たいですからね」
セシルは小麦粉と葉っぱを混ぜて作った湿布をアルベリクの患部に指で塗っていった。触れた瞬間にアルベリクがピクッと少し反応したが、その後は、組んだ腕に顔を伏せたまま動かなかった。
「これは、お前が育てた草の一つか?」
「いえ。これはお庭に偶然生えていた薬草です。裏が白色の葉っぱで香りも良いんですよ」
「そうか。なら、お前の草は雑草に劣るのだな」
「そ、そんな事ないです。それに草じゃなくてハーブです! お料理に使ったり、色々な効能が得られるお茶にもなるんですから」
自信満々にハーブの説明をするセシルに、アルベリクは横目で冷ややかな視線を向けた。
「お前は料理が出来ないだろう?」
「お茶ぐらい入れられます! アルベリク様、少し身体を起こしてください。後は包帯で固定すれば……」
「いや。いい。剥がしてくれ」
アルベリクは身体を起こすと背中の湿布に触れ、セシルを見上げた。
「えっ。何かご不便でも……痒くなったりしましたか?」
「お前、ズルをしたな?」
「ズル……ですか?」
湿布にズルとはどう言うことだろう。
もしかしたら、メアリが作ったと思っているのかもしれない。一生懸命、心を込めて作ったのに、心外である。
「ほら、剥がしてみろ」
「はい……」
言われるがままに湿布を剥がすと、アルベリクの痣は綺麗に消えていた。まるで魔法みたいに。
「あれれ?」
「あれれ、じゃない。お前、魔法を使っただろ」
「つ、使ってません。怪我が治るように、お祈りしながら湿布を作っただけで……す?」
「す? じゃない。それが魔法を使ったことになったのだろう? 自覚しろ」
「はい。申し訳ございません」
折角作ったのに、また怒られてしまった。セシルはしょぼんと肩をすくめて、すり鉢を抱きしめた。
「ほら、続きは?」
「へっ? ……あ」
アルベリクは赤くなった額を指さていた。文句を言う癖に、湿布はご所望のようだ。
「今、塗りますね」
「ああ」
アルベリクは前髪をかき上げ瞳を閉じた。
上半身は服を脱いだまま視界を閉ざす無防備なアルベリクの姿に、セシルは恐る恐る近づき湿布を塗る。
こんなにまじまじと近くでアルベリクの顔を見るのは始めてだ。長い睫毛は暗めの灰色、肌は白くてきめ細かい。黙っていれば理想的な美男子だ。
「おい」
「はいっ」
「お茶は入れられるんだな?」
「はい?」
セシルがすっとんきょうな声を上げると、アルベリクは眉を潜めた。
「お前の育てている草でだ!」
「はいっ。出来ます!」
「だったら、寝る前に茶を入れろ。最近使えないメイドが入って心労が絶えない。眠りにつきやすい茶を頼む」
使えないメイドとはセシルのことだろう。何だかモヤモヤするが、こんなことで拗ねても仕方がない。
「……かしこまりました。気持ちが安らぐハーブティーをご用意しますね。湿布、終わりました」
「ああ。ご苦労様」
アルベリクは額に触れ確認するとソファーから立ち上がりシャツを羽織った。そして、セシルとすれ違いざまに、くしゃっと頭を撫でる。
セシルは驚き、アルベリクに触れられた髪にそっと触れた。
ご苦労様、などと初めて言われた。頭に触れた手の暖かさがいつもより優しく感じる。
何だか嬉しい。今なら素直に、さっきのお礼が言える気がした。
セシルはすり鉢をギュッと胸に抱き、アルベリクに一礼する。
「痣が治って良かったです。先程はありがとうございました。これからはご迷惑かけないように、それから、太りすぎないよう気を付けます。失礼しました」
言葉にしてみたら、段々と恥ずかしくなってきて、セシルは言い切ると直ぐに部屋を飛び出していった。
セシルが部屋を去った後、部屋は静けさを取り戻していた。いつも忙しないセシルにアルベリクは呆れつつ、セシルの言葉が気になったいた。
「太りすぎ? むしろ、もう少し太った方が良いだろうに……」
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