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最終話
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それから一週間後、国中の貴族を招いて婚約式が開かれましたが、私の両親と妹は参加を辞退しました。ガブリエラは呪いを受けたと国中で噂され、学園を休学しルロワ領の片隅で療養中とのことです。
サリュウス伯爵によると、フェミューはもう怒っていないので、ガブリエラ自身が己のしたことを悔い改めれば、髪と瞳は本来の色を取り戻すだろうと教えて下さいましたが、その兆しは一向に見られない様子だと伯爵から教えていただきました。
婚約式では、サリュウス伯爵は巨木の姿で参加されていました。外遊先や領外でのみの姿なのかと思っていましたが、公式の場ではその姿だそうです。ルシアンが留学する前は、ここまで植物と一体化されていなかったそうで、参加者も大層驚かれていました。
鈴蘭に選ばれた婚約者だから。と言うより、将来ルシアンがこの伯爵の力と姿を引き継ぐであろうことの方が、周りの人々への牽制になっていたように感じます。
婚約式を終えた後、私とルシアンは伯爵と共に国中の視察に回っています。もちろんフェミューも一緒に。
伯爵が契約している精霊への挨拶回りが主な目的です。この挨拶を済ませておかないと、サリュウス家の一員にはなれないそうです。
今日は湖の精霊に挨拶をし、その後サリュウス領で一番大きな書庫に来ました。本に興味のないフェミューは湖の精霊とお喋りを楽しんでいます。
ルシアンは私の手を引き、お勧めの本棚まで案内してくれました。今、珍しくルシアンと二人きりです。いつも一緒に過ごしてはいますが、二人きりになるのはいつ振りでしょうか。
ルシアンは好奇心旺盛な瞳で、背表紙を眺めています。いつも通りの横顔なのに、知らない場所だからなのか普段と違って見えて、何だか変な感覚です。
「シェーラのお陰だな。ずっとこの書庫で本を読み漁りたかったんだけど、邪魔が入ってできなかったから」
「そうなのね。私も嬉しいわ。見たことのない本ばかりだもの。あ、この本」
少し高いところにある本に手を伸ばすと、ルシアンも同じ本に手を伸ばそうとしていたみたいで、二人の指先が交わりました。
「あ……」
前にもこんな事があった気がします。懐かしさと恥ずかしさが蘇り、隣へと目を向けるとルシアンが私を見つめていました。
「俺が取るよ。――なんか、こっちに来てから周りがうるさいからかな。二人だと緊張する。……シェーラ?」
「う、うんっ」
「なんだ、シェーラも一緒か」
「そうね」
互いにクスッと笑みを溢し、もう一度顔を上げると視線が重なりました。大きなエメラルドの瞳は、優しく私だけを見つめています。
ルシアンは私の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけました。触れられた頬から全身に熱が広がり、間近にせまるルシアンに、私は恥ずかしさのあまり瞳を閉じました。
でも、目を閉じですぐ、温かな手は離れていきました。目を開けると、ルシアンは真っ赤な顔で遠くを睨みつけ、私の手を掴むと、書庫の奥へと踵を返しました。
「シェーラ。ごめん。軽率なことをした。……フェミューと父上が、そこの柱に擬態して覗いてた」
「えっ!? うそっ……」
歩き始めてすぐ、後ろから声が聞こえてきました。
『もうっ。何でバレちゃったの?』
「くそっ。夢中で覗いてしまって魔力を制御し忘れてしまった」
『もぅ。伯爵のバカ~』
こちらに来てから二人の言い合いは毎日ですが、日を追うごとに仲良くなっています。それは嬉しいことなのですが、まさか二人が共謀するとは……。
「シェーラ。父上も今は面白がっているけど、しばらくしたら飽きると思うから。それまでは……」
「それまでは?」
「あっ……いや。そういうことじゃなくて。えっと。――そう! 書物を読んだり、精霊について学んだり、シェーラが好きなことを、一緒に」
「ふふっ。私も知りたいこともたくさんあるし、沢山本を読みたい。ルシアンと一緒に」
『私も私も~』
「そうね。フェミューも一緒に」
伯爵もその輪に入ろうとしていましたが、ルシアンに睨まれ我慢されていました。
『そうだ! ガブリエラが私の加護をポイッてしたからね。もうちょっと修行を積んだら、また加護を与えられるようになるらしいの。シェーラ、そしたら……』
「ありがとう。でも、無くても大丈夫よ。私とフェミューは加護がなくても繋がっているもの」
『そうだけど~。今度こそシェーラにあげたいの。もう身代わりだなんて、誰にも言わせたくないんだから』
「分かったわ。待ってる」
『うん!』
何が本物で、何が偽物なのか分からないけれど、私はフェミューの申し出を受けることにしました。
身代わりではなくて、ちゃんと本物として、これからもルシアンの隣りにいたいから。
おわり
――――――――――――――
最後までお読みいただきありがとうございました。
次作の宣伝失礼します。
アルファポリスの来月のファンタジー大賞に参加します。
応援いただけると嬉しいです。
『乙女ゲームの悪役王女ですが、推しの為に愛され王女を目指すことにしました』
あらすじ→ただのOLだった主人公が、大好きな乙女ゲーム『トルシュの灯』の世界の悪役王女になるお話です。推しの神獣を成長させたい一心で、五人の攻略対象の好感度を上げるため、愛され王女を目指していきます。
こちらもお楽しみいただけたら幸いです。
ありがとうございました。
春乃紅葉
サリュウス伯爵によると、フェミューはもう怒っていないので、ガブリエラ自身が己のしたことを悔い改めれば、髪と瞳は本来の色を取り戻すだろうと教えて下さいましたが、その兆しは一向に見られない様子だと伯爵から教えていただきました。
婚約式では、サリュウス伯爵は巨木の姿で参加されていました。外遊先や領外でのみの姿なのかと思っていましたが、公式の場ではその姿だそうです。ルシアンが留学する前は、ここまで植物と一体化されていなかったそうで、参加者も大層驚かれていました。
鈴蘭に選ばれた婚約者だから。と言うより、将来ルシアンがこの伯爵の力と姿を引き継ぐであろうことの方が、周りの人々への牽制になっていたように感じます。
婚約式を終えた後、私とルシアンは伯爵と共に国中の視察に回っています。もちろんフェミューも一緒に。
伯爵が契約している精霊への挨拶回りが主な目的です。この挨拶を済ませておかないと、サリュウス家の一員にはなれないそうです。
今日は湖の精霊に挨拶をし、その後サリュウス領で一番大きな書庫に来ました。本に興味のないフェミューは湖の精霊とお喋りを楽しんでいます。
ルシアンは私の手を引き、お勧めの本棚まで案内してくれました。今、珍しくルシアンと二人きりです。いつも一緒に過ごしてはいますが、二人きりになるのはいつ振りでしょうか。
ルシアンは好奇心旺盛な瞳で、背表紙を眺めています。いつも通りの横顔なのに、知らない場所だからなのか普段と違って見えて、何だか変な感覚です。
「シェーラのお陰だな。ずっとこの書庫で本を読み漁りたかったんだけど、邪魔が入ってできなかったから」
「そうなのね。私も嬉しいわ。見たことのない本ばかりだもの。あ、この本」
少し高いところにある本に手を伸ばすと、ルシアンも同じ本に手を伸ばそうとしていたみたいで、二人の指先が交わりました。
「あ……」
前にもこんな事があった気がします。懐かしさと恥ずかしさが蘇り、隣へと目を向けるとルシアンが私を見つめていました。
「俺が取るよ。――なんか、こっちに来てから周りがうるさいからかな。二人だと緊張する。……シェーラ?」
「う、うんっ」
「なんだ、シェーラも一緒か」
「そうね」
互いにクスッと笑みを溢し、もう一度顔を上げると視線が重なりました。大きなエメラルドの瞳は、優しく私だけを見つめています。
ルシアンは私の頬に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけました。触れられた頬から全身に熱が広がり、間近にせまるルシアンに、私は恥ずかしさのあまり瞳を閉じました。
でも、目を閉じですぐ、温かな手は離れていきました。目を開けると、ルシアンは真っ赤な顔で遠くを睨みつけ、私の手を掴むと、書庫の奥へと踵を返しました。
「シェーラ。ごめん。軽率なことをした。……フェミューと父上が、そこの柱に擬態して覗いてた」
「えっ!? うそっ……」
歩き始めてすぐ、後ろから声が聞こえてきました。
『もうっ。何でバレちゃったの?』
「くそっ。夢中で覗いてしまって魔力を制御し忘れてしまった」
『もぅ。伯爵のバカ~』
こちらに来てから二人の言い合いは毎日ですが、日を追うごとに仲良くなっています。それは嬉しいことなのですが、まさか二人が共謀するとは……。
「シェーラ。父上も今は面白がっているけど、しばらくしたら飽きると思うから。それまでは……」
「それまでは?」
「あっ……いや。そういうことじゃなくて。えっと。――そう! 書物を読んだり、精霊について学んだり、シェーラが好きなことを、一緒に」
「ふふっ。私も知りたいこともたくさんあるし、沢山本を読みたい。ルシアンと一緒に」
『私も私も~』
「そうね。フェミューも一緒に」
伯爵もその輪に入ろうとしていましたが、ルシアンに睨まれ我慢されていました。
『そうだ! ガブリエラが私の加護をポイッてしたからね。もうちょっと修行を積んだら、また加護を与えられるようになるらしいの。シェーラ、そしたら……』
「ありがとう。でも、無くても大丈夫よ。私とフェミューは加護がなくても繋がっているもの」
『そうだけど~。今度こそシェーラにあげたいの。もう身代わりだなんて、誰にも言わせたくないんだから』
「分かったわ。待ってる」
『うん!』
何が本物で、何が偽物なのか分からないけれど、私はフェミューの申し出を受けることにしました。
身代わりではなくて、ちゃんと本物として、これからもルシアンの隣りにいたいから。
おわり
――――――――――――――
最後までお読みいただきありがとうございました。
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『乙女ゲームの悪役王女ですが、推しの為に愛され王女を目指すことにしました』
あらすじ→ただのOLだった主人公が、大好きな乙女ゲーム『トルシュの灯』の世界の悪役王女になるお話です。推しの神獣を成長させたい一心で、五人の攻略対象の好感度を上げるため、愛され王女を目指していきます。
こちらもお楽しみいただけたら幸いです。
ありがとうございました。
春乃紅葉
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意外にも横恋慕してくるレオナルド王子が真のイケメンだった!ルシアンと互いに憎まれ口叩きながらの親友になれそうだ。ガブリエラのざまぁは期待して然るべき処置でしたが両親共々反省しないのね。
こんだけ話が拗れてしまったのはフェミーが原因?それとも早合点した伯爵のせい??どちらも正体はおっちょこちょいで人間らしい振る舞いで楽しかったww
そして最後にシェーラ、妹本位で扱われていたルロワ侯爵家にいながらよく人間が曲がらなかったものだ。フェミーの依り代たる鈴蘭も根気よく世話していたし。これは人間不信なルシアンも魅かれるわな。
ともあれ楽しませて頂きました!
naimed様☆ミ
お楽しみいただけたようで何よりです😊
久しぶりに私も読み返してみて、
王子、意外と良い奴でしたね(。•̀ᴗ-)✧👑✨
ご感想ありがとうございました☺️
面白くて一気に読んでしまいました♪
ガブリエラとその両親は最後までダメダメな人たちでしたね。王子もそうなのかと思いましたが違いましたね♪ちゃんと人の心がある王子で良かったです。
サリュウス伯爵…厳ついのかと思いきやかなりお茶目で好きです~カワィイ(-^艸^-)何気ない日常のお話とかあったらちょっと読んでみたいかもです。
素敵なお話ありがとうございました( ∗ᵔ ᵕᵔ) ˶ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
にゃおん様☆ミ
日常小話ですね〜_φ(・_・メモメモ
伯爵のシャワーシーンについてのご感想をいただいてから、私も彼の生態が気になっています😂
お楽しみいただけて何よりです✨
ご感想ありがとうございます☺️
「ありがとう。でも、無くても大丈夫よ。私とシェーラは加護がなくても繋がっているもの」
シェーラではなくてフェミューでは?
ぽるくす様☆ミ
ありがとうございます😂
修正しました~🙋