19 / 35
018 サリュウス伯爵子息
しおりを挟む
色々な出来事が重なり、すっかりと忘れていたレオナルド王子の様子を見に行くと、彼はガブリエラに手を引かれ、屋敷を後にするところでした。
意気揚々と軽やかな足取りの近衛騎士達と相反して、王子は食事の時より更に顔を曇らせ、私と目が合うとゆっくりと視線を外し、馬車に乗り込みました。
「王子との婚約。うまく行きそうだな」
振り向くと、ルシアンが立っていました。
ルシアンは私と目が合うと、少しだけ気まずそうな顔をしました。
「ルシアン……。さっきはごめんなさい。色々な事で頭が混乱していて」
「いや。俺が悪かった。ちゃんと」
「大丈夫よ。ガブリエラがサリュウス伯爵から逃れたいと言うのなら、私が婚約します。もう決めたの」
「そうか」
ルシアンは口元を一瞬だけ緩めると、それを隠すように俯きました。ガブリエラが婚約者の時はあんなに怒っていたのに、私の時は喜んでいるように見えます。
もしかしたら、サリュウス家に嫁げば、隣国でルシアンとまた一緒に勉強が出来るのかもしれません。それも楽しそうです。
「まぁ、私で伯爵が納得されるか、分からないけれど。ルシアンはどう思う? 私には鈴蘭の加護はないわ。それでは受け入れられないかしら」
「そうだな。難しいかもしれない。でも、必ず父を納得させてみせるよ」
「……え? 今話しているのは、サリュウス伯爵のことよ。ルシアには婚約者がいて、私も婚約することになったのだから、お父様を納得させなくてもいいのよ。私達はもう……」
「ごめん」
言葉の途中でルシアンは私の手を取り唐突に謝罪し、俯いたまま声を絞り出すようにして言いました。
「ずっと言えなかったんだけど、……アレが父親なんだ」
「アレ?」
「さっきの化け物」
「…………ぇ?」
さっきのとは、サリュウス伯爵のことでしょうか。
ルシアンは少しだけ顔を上げ、私の顔色を窺っています。
そんなルシアンを意気揚々と押しのけて割って入ってきたのはガブリエラです。
「お姉様。王子は私と婚約することになりましたわ。お姉様はサリュウス伯爵のご子息と婚約するのですから、ルシアン様とは距離をお取りになってくださいます?」
そのサリュウス伯爵のご子息がルシアンだと今聞いたばかりで、私は反応に困り真顔のままルシアンを見つめ返してしまいました。
「俺は、サリュウス伯爵子息とは見知った仲だ。ガブリエラが拒絶した婚約者がどんな奴か、シェーラに教えてやろうかと思っている」
「まぁ!? それは良いわ。なぁんだ。ルシアン様ったら。やっぱり、さっき私が言った通りだったのね。ふふっ」
「サリュウス伯爵子息なら、シェーラと気が合うだろう」
私を見つめたまま、何処かぎこちないルシアンの物言いにガブリエラは目を輝かせています。
「あら。そうなの? そっか。お姉様って、植物がお好きですものね。サリュウス伯爵ったら、古びた巨木のようでしたもの」
ガブリエラは大層ご機嫌で、笑いながら屋敷へと戻っていきました。妹が去った方を呆然と見つめていると、ルシアンが私の手をそっと握りました。
「シェーラ。サリュウス伯爵子息の話、聞いてくれるか?」
「ええ。聞きたいわ」
意気揚々と軽やかな足取りの近衛騎士達と相反して、王子は食事の時より更に顔を曇らせ、私と目が合うとゆっくりと視線を外し、馬車に乗り込みました。
「王子との婚約。うまく行きそうだな」
振り向くと、ルシアンが立っていました。
ルシアンは私と目が合うと、少しだけ気まずそうな顔をしました。
「ルシアン……。さっきはごめんなさい。色々な事で頭が混乱していて」
「いや。俺が悪かった。ちゃんと」
「大丈夫よ。ガブリエラがサリュウス伯爵から逃れたいと言うのなら、私が婚約します。もう決めたの」
「そうか」
ルシアンは口元を一瞬だけ緩めると、それを隠すように俯きました。ガブリエラが婚約者の時はあんなに怒っていたのに、私の時は喜んでいるように見えます。
もしかしたら、サリュウス家に嫁げば、隣国でルシアンとまた一緒に勉強が出来るのかもしれません。それも楽しそうです。
「まぁ、私で伯爵が納得されるか、分からないけれど。ルシアンはどう思う? 私には鈴蘭の加護はないわ。それでは受け入れられないかしら」
「そうだな。難しいかもしれない。でも、必ず父を納得させてみせるよ」
「……え? 今話しているのは、サリュウス伯爵のことよ。ルシアには婚約者がいて、私も婚約することになったのだから、お父様を納得させなくてもいいのよ。私達はもう……」
「ごめん」
言葉の途中でルシアンは私の手を取り唐突に謝罪し、俯いたまま声を絞り出すようにして言いました。
「ずっと言えなかったんだけど、……アレが父親なんだ」
「アレ?」
「さっきの化け物」
「…………ぇ?」
さっきのとは、サリュウス伯爵のことでしょうか。
ルシアンは少しだけ顔を上げ、私の顔色を窺っています。
そんなルシアンを意気揚々と押しのけて割って入ってきたのはガブリエラです。
「お姉様。王子は私と婚約することになりましたわ。お姉様はサリュウス伯爵のご子息と婚約するのですから、ルシアン様とは距離をお取りになってくださいます?」
そのサリュウス伯爵のご子息がルシアンだと今聞いたばかりで、私は反応に困り真顔のままルシアンを見つめ返してしまいました。
「俺は、サリュウス伯爵子息とは見知った仲だ。ガブリエラが拒絶した婚約者がどんな奴か、シェーラに教えてやろうかと思っている」
「まぁ!? それは良いわ。なぁんだ。ルシアン様ったら。やっぱり、さっき私が言った通りだったのね。ふふっ」
「サリュウス伯爵子息なら、シェーラと気が合うだろう」
私を見つめたまま、何処かぎこちないルシアンの物言いにガブリエラは目を輝かせています。
「あら。そうなの? そっか。お姉様って、植物がお好きですものね。サリュウス伯爵ったら、古びた巨木のようでしたもの」
ガブリエラは大層ご機嫌で、笑いながら屋敷へと戻っていきました。妹が去った方を呆然と見つめていると、ルシアンが私の手をそっと握りました。
「シェーラ。サリュウス伯爵子息の話、聞いてくれるか?」
「ええ。聞きたいわ」
12
お気に入りに追加
1,994
あなたにおすすめの小説
初夜をボイコットされたお飾り妻は離婚後に正統派王子に溺愛される
きのと
恋愛
「お前を抱く気がしないだけだ」――初夜、新妻のアビゲイルにそう言い放ち、愛人のもとに出かけた夫ローマン。
それが虚しい結婚生活の始まりだった。借金返済のための政略結婚とはいえ、仲の良い夫婦になりたいと願っていたアビゲイルの思いは打ち砕かれる。
しかし、日々の孤独を紛らわすために再開したアクセサリー作りでジュエリーデザイナーとしての才能を開花させることに。粗暴な夫との離婚、そして第二王子エリオットと運命の出会いをするが……?
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?
柚木ゆず
恋愛
猫かぶり姉さんの悪事がバレて、ついに追放されることになりました。
これでやっと――え。レビン王太子が姉さんを気に入って、あたしに罪を擦り付けた!?
突然、追放される羽目になったあたし。だけどその時、仮面をつけた男の人が颯爽と助けてくれたの。
優しく助けてくれた、素敵な人。この方は、一体誰なんだろう――え。
仮面の人は……。恋をしちゃった相手は、あたしが苦手なユリオス先輩!?
※4月17日 本編完結いたしました。明日より、番外編を数話投稿いたします。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
【完結】王妃候補として召喚された失敗作の私は、呪われた騎士団長様に連れられてチートスキルで愛の城を築きます
るあか
恋愛
昔から病弱だった私は18歳で息を引き取ったが、その時異世界へと召喚され、新たな身体での転生となった。
私はその国の王子に、将来王位に就いた際の王妃候補として召喚されたが、王子のクズっぷりに耐えられなくなった私は夜の城内を逃げ回ると騎士団長様に助けられる。
そして、彼と国を逃げ出す決意をする私。
そんな彼にも秘密が色々とあり……。
私は一目惚れした彼の秘密を知ると、彼に幸せになってほしくて色々と奔走するのであった。
これは、そうしているうちになぜか私が幸せになっていくお話。
(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?
青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・
心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。
※ご注意
これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。
この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる