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それから私は気分転換に馬小屋へ向かった。
愛馬のノワールに乗り、森へ足を伸ばす。
心をリフレッシュさせるには、これが一番。
湖畔の周りには沢山の動物が代わる代わるやってくる。アルジャンはほぼ変態になってしまったし、私は癒しを求めて湖畔を目指した。
「平和だわ」
途中で怪我をしたシカと遭遇して魔法で治してあげて、それ以降は元気な動物にしか会っていない。
この国の森の切り崩しもほとんど終ったからか、最近は住みかを求めて逃げてくる動物も減ってきた。
ノワールと一緒に草原に座り、湖の向こう側で水を飲むコジカを見つけ私は満足していた。
「可愛い~」
そう。これが私の日常。
森に帰した動物達を見守るの。
アルジャンだって、ああやって森に帰ってしまったと思えばいいのよ。
だって、もし狼に戻ったとしてもアルジャンモドキなのよ?
無理無理。知ってしまったら、もう絶対にナデナデなんて出来ないわ。
もうアルジャンはいない。家族の元へ帰ったの。
アルジャンモドキは適当にあしらっておけばいい。
どうせ私みたいな干物女なんて、すぐに飽きて国へ帰るでしょう。
でも、あの尻尾はどうなるのかしら。
まさか自分の身体の一部に剣を向けるなんて。
やっぱり最恐の辺境伯というのは本当なんだわ。
でも、あのフワフワの尻尾が無くなったら……。
アルジャンがこの世界から消えてしまうように思えて、胸が苦しい。
アルジャンは他の動物達より人懐っこくて、優しくて、フワフワでモフモフで可愛くていい匂いがして――。
駄目だわ。忘れなきゃいけないのに。
「はぁ……」
私のため息に反応して、草を食べていたノワールが隣に寝転んだ。いつもは立って眠るのに、最近構ってやれなかったから、甘えているのかもしれない。
ノワールの黒い肢体を撫でると、嬉しそうに鼻をならした。
「よしよし。いい子ね……」
ポカポカ暖かい日差しに包まれて、ノワールの寝息が聞こえる。気持ち良すぎて、私はそのまま夢の中に誘われていった。
◇◇
「……んっ」
ぶるんっと耳元で唸るノワールの鼻息で目が覚めた。
大分ぐっすり眠っていた気がするけれどまだ眠い。
ノワールに額を鼻で押されて原っぱの上を転がると、フワフワに触れた。
これ大好き。だからモギュッと抱き寄せた。
「アルジャン……」
「ぅぉっ」
「ぇっ?」
フワフワがビクッと跳ねて変な声をあげた。
恐る恐る目を開けると、案の定、アルジャンモドキがいた。
私は腕の中のモフモフを慌てて手放した。
彼は身体を起こして顔を赤くし、私に不満そうに目を向ける。
「エヴァ。尻尾は敏感なところだから優しく握って」
「な、何よ。さっきは剣を向けようとしたくせに」
「エヴァなら止めると思ったから。好きだろ? 尻尾」
「べ、別にっ。アルジャンはもう家族の元へ帰ったの。そう思うことにしたから。私のことは忘れて国へ帰って」
強い口調で睨み付けてやったら、悲しげに私を見つめ返した。
アルジャンと同じ琥珀色の瞳で。
「忘れて? そんなの無理に決まってるだろ。エヴァが、愛する者へどんな目を向けるのか。その瞳も声も全て知っているのに……。もう愛されないとか。無理だ」
物凄く真面目に恥ずかしいこと言っているような……なんだか胸の辺りが悶々としてきた。
ああ、そっか。尻尾のせいね。
あの尻尾に触れたいから、こんなに変な気持ちになるのよ。
そう……。そうとしか考えられない。
愛馬のノワールに乗り、森へ足を伸ばす。
心をリフレッシュさせるには、これが一番。
湖畔の周りには沢山の動物が代わる代わるやってくる。アルジャンはほぼ変態になってしまったし、私は癒しを求めて湖畔を目指した。
「平和だわ」
途中で怪我をしたシカと遭遇して魔法で治してあげて、それ以降は元気な動物にしか会っていない。
この国の森の切り崩しもほとんど終ったからか、最近は住みかを求めて逃げてくる動物も減ってきた。
ノワールと一緒に草原に座り、湖の向こう側で水を飲むコジカを見つけ私は満足していた。
「可愛い~」
そう。これが私の日常。
森に帰した動物達を見守るの。
アルジャンだって、ああやって森に帰ってしまったと思えばいいのよ。
だって、もし狼に戻ったとしてもアルジャンモドキなのよ?
無理無理。知ってしまったら、もう絶対にナデナデなんて出来ないわ。
もうアルジャンはいない。家族の元へ帰ったの。
アルジャンモドキは適当にあしらっておけばいい。
どうせ私みたいな干物女なんて、すぐに飽きて国へ帰るでしょう。
でも、あの尻尾はどうなるのかしら。
まさか自分の身体の一部に剣を向けるなんて。
やっぱり最恐の辺境伯というのは本当なんだわ。
でも、あのフワフワの尻尾が無くなったら……。
アルジャンがこの世界から消えてしまうように思えて、胸が苦しい。
アルジャンは他の動物達より人懐っこくて、優しくて、フワフワでモフモフで可愛くていい匂いがして――。
駄目だわ。忘れなきゃいけないのに。
「はぁ……」
私のため息に反応して、草を食べていたノワールが隣に寝転んだ。いつもは立って眠るのに、最近構ってやれなかったから、甘えているのかもしれない。
ノワールの黒い肢体を撫でると、嬉しそうに鼻をならした。
「よしよし。いい子ね……」
ポカポカ暖かい日差しに包まれて、ノワールの寝息が聞こえる。気持ち良すぎて、私はそのまま夢の中に誘われていった。
◇◇
「……んっ」
ぶるんっと耳元で唸るノワールの鼻息で目が覚めた。
大分ぐっすり眠っていた気がするけれどまだ眠い。
ノワールに額を鼻で押されて原っぱの上を転がると、フワフワに触れた。
これ大好き。だからモギュッと抱き寄せた。
「アルジャン……」
「ぅぉっ」
「ぇっ?」
フワフワがビクッと跳ねて変な声をあげた。
恐る恐る目を開けると、案の定、アルジャンモドキがいた。
私は腕の中のモフモフを慌てて手放した。
彼は身体を起こして顔を赤くし、私に不満そうに目を向ける。
「エヴァ。尻尾は敏感なところだから優しく握って」
「な、何よ。さっきは剣を向けようとしたくせに」
「エヴァなら止めると思ったから。好きだろ? 尻尾」
「べ、別にっ。アルジャンはもう家族の元へ帰ったの。そう思うことにしたから。私のことは忘れて国へ帰って」
強い口調で睨み付けてやったら、悲しげに私を見つめ返した。
アルジャンと同じ琥珀色の瞳で。
「忘れて? そんなの無理に決まってるだろ。エヴァが、愛する者へどんな目を向けるのか。その瞳も声も全て知っているのに……。もう愛されないとか。無理だ」
物凄く真面目に恥ずかしいこと言っているような……なんだか胸の辺りが悶々としてきた。
ああ、そっか。尻尾のせいね。
あの尻尾に触れたいから、こんなに変な気持ちになるのよ。
そう……。そうとしか考えられない。
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