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変態はシーツ一枚腰に巻いた姿でベッドから降り、私の家族へと挨拶をした。
「初めまして。このような身形で申し訳ありません。私はアルトゥール=ロドリゲス。隣国の伯爵にございます。ある呪いにより銀狼へと姿を変えられていたところ、エヴァに助けていただきました。是非エヴァを私の妻として迎え入れたいと思っております。いかがでしょうか?」
「ほぉ。身分も良し。隣国の伯爵なら第二王子様も気になさらないだろう。ワシは賛成だ」
「そうね。丁度良いわ。婚約を白紙にされて終わった娘の人生が急に色づいて来たじゃない。私、泣いちゃうっ」
うちの両親チョロ過ぎ。
私だったらこんな変態に娘あげないわよ。
私が両親の反応に呆れていると、兄は真面目な顔をして口を開いた。
そうよお兄様。はっきり言ってやって。
結婚してない女性のベッドに全裸で潜り込んで、しかも私からアルジャンを奪っておいて知らん顔。
こんな奴、投獄しちゃって!
「ロドリゲス? 聞いたことがあるな。――あっ、隣国最恐の辺境伯様じゃないか? 冷酷非道。国潰しの天才とか言われていて、この国も狙ってるって……」
えっ。綺麗な顔して、すっごくヤバい奴じゃないの!?
「そんなご立派な人間ではありませんが、この国も最近攻略対象に入れたのは本当ですし、まさか知られているとは思ってませんでした。ですが、エヴァをくださるなら、それも保留にいたしましょう。ベリス侯爵領は美しい森がありますし、それを壊すことはしたくありませんから」
変態の言葉を聞くと、みんな羨望の眼差しで奴を見つめた。
「おおっ。エヴァ、お前のお陰で国が救われたぞ!」
「やだぁ。こんな素敵な方の義理ママになれるなんて。幸せ過ぎっ」
「エヴァ。結婚おめでとう」
「ちょっ、ちょっと待って! 何故、こんなに怪しい不審者の言葉を信じるのっ!? 私のアルジャンは人間じゃないわ。狼なのっ。私はこんな奴がアルジャンだなんて認めないわっ」
「エヴァ……」
みんな揃って私に哀れみの目を向ける。
おいおい。
娘の言うことよりイケメン取らないでよっ!
変態は私に向き直ると捨てられた子犬のような目を向けた。
「エヴァ。毎夜毎夜、私を愛していると囁いてくれたのは嘘だったのか?」
「だから、貴方にそんな事言ってないわっ」
「毎日毎日、頬をすり寄せ、私の気持ち良いところを沢山撫でてくれたじゃないか」
「してない、してないっ。変な言い方しないでっ」
「昨日、家族になると約束しただろう?」
「それは……アルジャンにしたのよ。貴方にじゃないっ。私は、貴方なんか愛していないわっ!!」
差し伸べられた変態の手を思いっきり叩き返して叫ぶと、変態がビクッ体を震わせた。
そして腰に巻いたシーツから、フワリの銀色の尾が覗く。
「え? 尻尾?」
変態も尻尾の出現に驚き、そっとそれに触れた。
「尻尾……生えてる。あ、でも。これで俺がアルジャンだと信じてくれるかい? 愛しいエヴァ?」
フワフワの尻尾がユラユラ揺れている。
ああ、アルジャンだわ。
あの尻尾をムギュってしてワシャワシャしてブラッシングしたい。
でも駄目。ムリムリっ。
だって、尻尾以外、人間だからっ。
「初めまして。このような身形で申し訳ありません。私はアルトゥール=ロドリゲス。隣国の伯爵にございます。ある呪いにより銀狼へと姿を変えられていたところ、エヴァに助けていただきました。是非エヴァを私の妻として迎え入れたいと思っております。いかがでしょうか?」
「ほぉ。身分も良し。隣国の伯爵なら第二王子様も気になさらないだろう。ワシは賛成だ」
「そうね。丁度良いわ。婚約を白紙にされて終わった娘の人生が急に色づいて来たじゃない。私、泣いちゃうっ」
うちの両親チョロ過ぎ。
私だったらこんな変態に娘あげないわよ。
私が両親の反応に呆れていると、兄は真面目な顔をして口を開いた。
そうよお兄様。はっきり言ってやって。
結婚してない女性のベッドに全裸で潜り込んで、しかも私からアルジャンを奪っておいて知らん顔。
こんな奴、投獄しちゃって!
「ロドリゲス? 聞いたことがあるな。――あっ、隣国最恐の辺境伯様じゃないか? 冷酷非道。国潰しの天才とか言われていて、この国も狙ってるって……」
えっ。綺麗な顔して、すっごくヤバい奴じゃないの!?
「そんなご立派な人間ではありませんが、この国も最近攻略対象に入れたのは本当ですし、まさか知られているとは思ってませんでした。ですが、エヴァをくださるなら、それも保留にいたしましょう。ベリス侯爵領は美しい森がありますし、それを壊すことはしたくありませんから」
変態の言葉を聞くと、みんな羨望の眼差しで奴を見つめた。
「おおっ。エヴァ、お前のお陰で国が救われたぞ!」
「やだぁ。こんな素敵な方の義理ママになれるなんて。幸せ過ぎっ」
「エヴァ。結婚おめでとう」
「ちょっ、ちょっと待って! 何故、こんなに怪しい不審者の言葉を信じるのっ!? 私のアルジャンは人間じゃないわ。狼なのっ。私はこんな奴がアルジャンだなんて認めないわっ」
「エヴァ……」
みんな揃って私に哀れみの目を向ける。
おいおい。
娘の言うことよりイケメン取らないでよっ!
変態は私に向き直ると捨てられた子犬のような目を向けた。
「エヴァ。毎夜毎夜、私を愛していると囁いてくれたのは嘘だったのか?」
「だから、貴方にそんな事言ってないわっ」
「毎日毎日、頬をすり寄せ、私の気持ち良いところを沢山撫でてくれたじゃないか」
「してない、してないっ。変な言い方しないでっ」
「昨日、家族になると約束しただろう?」
「それは……アルジャンにしたのよ。貴方にじゃないっ。私は、貴方なんか愛していないわっ!!」
差し伸べられた変態の手を思いっきり叩き返して叫ぶと、変態がビクッ体を震わせた。
そして腰に巻いたシーツから、フワリの銀色の尾が覗く。
「え? 尻尾?」
変態も尻尾の出現に驚き、そっとそれに触れた。
「尻尾……生えてる。あ、でも。これで俺がアルジャンだと信じてくれるかい? 愛しいエヴァ?」
フワフワの尻尾がユラユラ揺れている。
ああ、アルジャンだわ。
あの尻尾をムギュってしてワシャワシャしてブラッシングしたい。
でも駄目。ムリムリっ。
だって、尻尾以外、人間だからっ。
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