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「――ヴァ、……エヴァ。朝だよ――」

 透き通ったテノールボイスが私の名を呼ぶ。
 朝はいつも同じベッドで眠るアルジャンが起こしてくれる。
 それからメイドのダリアが部屋に来る。

 でも、この声は――男性の声。
 執事は来る筈がないし、お兄様は寝坊助だし。
 うん。夢だわ。寝よう。

「エヴァ。愛しいエヴァ。起きて、俺を見て?」

 夢の中の男性は私の肩を揺り動かす。
 何が愛しいエヴァ……よ。気持ち悪い。
 人間なんて大嫌いなのに。
 でも、触れられた気がしたけれど嫌悪感が生まれない。やっぱり夢なんだ。

「愛しいエヴァに、早く俺を見て欲しいのに……」

 夢の癖にしつこい男。私が愛しているのは――。

「アルジャン。私が愛しているのはアルジャンだけよ……」

 私は微睡みの中、その男の声を振り切るように隣で眠るアルジャンに手を伸ばした。
 たとえ夢だとしても私の隣はアルジャン一択。
 それ以外なら悪夢だわ。

 ――で、今日は悪夢? でした。

 伸ばした手はモフモフに触れることなく、固い人間の手に捕まれた。その感触がまるで本当に握られたみたいにハッキリ伝わってきて、私は驚いて目を開いた。

 いつもの私の部屋。
 窓辺に置かれたベッドの天蓋に朝陽が降り注ぐ。
 その陽射しを遮るのは、アルジャンじゃなくて、見知らぬ全裸の美青年だった。

「き――」
「落ち着いてっ。エヴァ」

 叫ぼうとしたら大きな手で口を塞がれた。肩まで伸びた銀髪をフワリと揺らし、慌てた様子で青年は私の名を呼んだ。
 だれ? 私を知ってる?

「エヴァ。愛しているよ。俺はアルトゥール=ロドリゲス。君の愛で呪いが解けたんだ」 
「んんっ」

 こんなヤツ知らない。
 何処のエヴァと間違えてるんだ変態野郎!?
 私が首を横に振ると、変態は手の力を緩めて謝罪した。

「あ。すまない。俺はアルジャンだ。エヴァが助けてくれた狼だよ」
「???」

 はい? あれ……。確かにこの琥珀色の瞳には見覚えがある。それに、右腹に残る矢の傷痕も、アルジャンと同じ場所だ。

「エヴァ。婚約破棄おめでとう。俺と家族になろう?」

 変態は微笑むと私の口から手を離して、ゆっくりと顔を近づけた。
 綺麗な顔が私に迫る。

 これがアルジャン? ウソウソ無理無理。
 モフモフのモの字も無いじゃないの!?

「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 
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