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 両親は憐れんだ瞳を私に向けた。

「エヴァ。その顔はどういうつもりだ」

 ごめんなさい。盛り過ぎました。

「そうよ。いくら人間嫌いだと言っても、第二王子妃よ? 何不自由なくふんぞり返って暮らしていけるのに」

 お母様、ちょっと言い過ぎです。
 でも、思うところがあれど、両親に迷惑をかけているのは私なので、反抗的な言葉を返すつもりはありません。

「申し訳ありません。私はこのベリス領で、傷ついた動物達を保護していたいのです」

 屋敷の者しか知らないことだが、私は魔法が使える。この国ではとても珍しく、家族に魔法が使えるものはいない。魔法が使えるとなれば、専門の学園に強制入学させられるけれど、人間嫌いで引きこもり体質の私を想って、両親も家族もこの事実を隠してくれている。 

「お前が優しい娘だとは知っている。しかし、この婚約破棄が知られれば、国中の誰も、お前を娶ることはしないだろう」
「はい。……私は、このベリス領に骨を埋める覚悟にございます」

 落胆する両親を尻目に私は、足取り軽く自室へ向かう。

 この国は今、森を切り崩して人々の住みやすい街作りに力を入れている。
 それは人間には良いことなのでしょう。しかし、森に住んでいた動物達にとっては死活問題。

 父は私の願いを聞き、ベリス侯爵領の広大な森を壊さないように計らってくれている。屋敷の裏には森が広がり、そしてその森には、住みかを失い傷付いた動物達が逃げ込んで来る。
 今、私の部屋にいるあの子もそうだ。

 自室の扉を開けると、窓から差す陽の光に照らされて煌々と輝く銀色の狼が出迎えてくれた。

「アルジャン。良い子にしていたかしら?」

 言葉をかけるとアルジャンは私にすり寄り、クゥンと鼻を鳴らす。私は我慢できなくてアルジャンの首に手を回し抱きしめた。

「大好きよ。アルジャン。私、婚約を破棄してもらえたの。これからもずぅっと一緒にいられるわ」

 フカフカの首に顔を埋めると陽だまりの香りがする。アルジャンも私を求めるように首を上下に揺すり、モフモフされる。

 幸せーー。
 この至福のモフモフタイムは誰にも邪魔されたくない。

 傷だらけのアルジャンを拾ったのは、ひと月前。
 怪我は私の魔法で治せたけれど、この子は酷く衰弱していた。傷は酷く、折れた弓が腹部に深く突き刺さり、生きていた事を奇跡だと思った。

 人に追い立てられて傷付いたのだと思うと胸が痛む。こうして元気になってくれて安心したけれど、気がかりなことが、ひとつ。

 アルジャンはそろそろ森に帰ってしまうのでは無いかと言うことだ。
 何処かに、アルジャンの家族がいるかもしれない。

「アルジャン。貴方に家族はいるの? もし、いないのなら、私が家族になるから。これからも、私の傍にいてね」

 アルジャンは私の頬に顔を寄せ、クゥンと鳴いた。
 愛らしいその声に私はホッとして、もう一度アルジャンを抱きしめてモフモフを堪能した。



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