33 / 35
033 エスコート
しおりを挟む
私は今、アルドと二人で礼拝堂へ向かっています。
控え室から礼拝堂までのエスコートは、父の代わりにアルドにお願いしました。
今日までとても緊張していましたアルドですが、いざ私の手を握ると、意外と落ち着いた様子で私をエスコートしてくれています。
「ベル姉様。僕、あんなに泣いている辺境伯様を初めて見ました」
「私もです。お義父様はお優しい方だから」
「そうですけれど、現役の頃は結構怖かったのですよ。随分、丸くなられたように感じます」
アルドは何処か遠くを見つめながらそう言いました。
「そう。……父や母も、変われるかしら」
「それは僕に任せてください。父はアーノルト家の皆さんのお陰で静かになりましたし。母やティア姉様はこれから徐々に僕が変えていって見せますよ」
「アルドは凄いわ。でも、全部ひとりで背負わないでね。私もすぐ近くにいるんだから」
「はい! 勿論です」
アルドと話していると礼拝堂へ着きました。
大きな扉がゆっくりと開かれ、長い赤い絨毯が祭壇まで続いています。
アルドの腕にぐっと力がこもり、緊張が伝わってきます。
アルドは背筋をピンと伸ばすと、私を気遣いながら足を進めました。
たくさんの参列者に見守られながら、祭壇で待つヨハンの元へと進みます。懐かしい学友達の前を過ぎ、そして母の姿が見えました。
母は嬉しそうに笑みを浮かべていますが、その視線の先はカーティアでした。
カーティアは、どうしてか新郎側にいて、見慣れないご令息の隣で俯き、顔は見えません。ですがそれよりも、今にも泣きそうなお義父様の存在が気になってしまいました。
そして、アルドの手からヨハンへと私の手は引き渡されると、アルドは涙ぐみながら母の隣の席へと戻りました。アルドのこんな顔は初めてです。
父とこの場まで歩いていたら、こんなアルドを見ることは出来なかったでしょう。それに、こんなに清々しい気持ちで、ヨハンの手を握れなかったことでしょう。
ここまで考えて、ヨハンは父が来ないように仕向けたのかもしれません。
ヨハンは優しく私の手を引くと、耳元で囁きました。
「ベルティーナ。皆、君をどうやって手に入れたのか知りたいらしい」
「へ?」
ヨハンは参列席を一瞥すると悪戯な笑みを浮かべ、神父へと向き直りました。
その横顔は凛々しく自信に満ち、つい見惚れてしまいます。
彼のこの姿を、いつか違う席から見るのではないかと、二年前に思いました。
ですがこうして一番近くで彼を見つめることが出来て、私はとても幸せです。
◇◇
「このふたりの結婚に異議のある者は今すぐ申し出よ、さもなくば永遠に沈黙せよ」
神父が参列者にそう尋ねました。
礼拝堂は静けさを保ったまま、神父が次の言葉を発しようとした瞬間――。
「い、異議があります! 私は、こっ、こんな結婚、認めません!」
礼拝堂に聞きなれた少女の声が響きました。
声の主は、二列目の席に立つ、私の妹のカーティアです。
場は静まり返ったまま、参列者はカーティアへと好奇の目を向け、ヨハンはそちらへ呆れた眼差しを向けると、私の手を握りしめてくれました。
「異議がおありですか?」
神父の素朴な問いかけに、カーティアは興奮した様子で言い返しました。
「は、はい! だって、お姉様は辺境伯様の後妻だって聞いていたから婚約をしましたのよ! ヨハン様だなんて聞いていません。これは詐欺ですわ!」
カーティアの言葉に一番に反応を示したのはアルドでした。
「詐欺ではありません。正式な契約書は両家に存在します。姉と離れたくない妹の妄言ですので、どうぞ続きをっ」
「アルド! 妄言ですって!? それでは私が頭のおかしい女みたいじゃないっ。訂正なさい!」
ヨハンの手に力がこもり、「人の結婚式で、この屑女が……」と声が漏れ聞こえ、ヨハンが声を上げようと大きく息を吸い込んだ時、カーティアの隣にいる男性が笑い声を上げました。
「はははっ。ロジエ家の方々は、面白いのですね」
控え室から礼拝堂までのエスコートは、父の代わりにアルドにお願いしました。
今日までとても緊張していましたアルドですが、いざ私の手を握ると、意外と落ち着いた様子で私をエスコートしてくれています。
「ベル姉様。僕、あんなに泣いている辺境伯様を初めて見ました」
「私もです。お義父様はお優しい方だから」
「そうですけれど、現役の頃は結構怖かったのですよ。随分、丸くなられたように感じます」
アルドは何処か遠くを見つめながらそう言いました。
「そう。……父や母も、変われるかしら」
「それは僕に任せてください。父はアーノルト家の皆さんのお陰で静かになりましたし。母やティア姉様はこれから徐々に僕が変えていって見せますよ」
「アルドは凄いわ。でも、全部ひとりで背負わないでね。私もすぐ近くにいるんだから」
「はい! 勿論です」
アルドと話していると礼拝堂へ着きました。
大きな扉がゆっくりと開かれ、長い赤い絨毯が祭壇まで続いています。
アルドの腕にぐっと力がこもり、緊張が伝わってきます。
アルドは背筋をピンと伸ばすと、私を気遣いながら足を進めました。
たくさんの参列者に見守られながら、祭壇で待つヨハンの元へと進みます。懐かしい学友達の前を過ぎ、そして母の姿が見えました。
母は嬉しそうに笑みを浮かべていますが、その視線の先はカーティアでした。
カーティアは、どうしてか新郎側にいて、見慣れないご令息の隣で俯き、顔は見えません。ですがそれよりも、今にも泣きそうなお義父様の存在が気になってしまいました。
そして、アルドの手からヨハンへと私の手は引き渡されると、アルドは涙ぐみながら母の隣の席へと戻りました。アルドのこんな顔は初めてです。
父とこの場まで歩いていたら、こんなアルドを見ることは出来なかったでしょう。それに、こんなに清々しい気持ちで、ヨハンの手を握れなかったことでしょう。
ここまで考えて、ヨハンは父が来ないように仕向けたのかもしれません。
ヨハンは優しく私の手を引くと、耳元で囁きました。
「ベルティーナ。皆、君をどうやって手に入れたのか知りたいらしい」
「へ?」
ヨハンは参列席を一瞥すると悪戯な笑みを浮かべ、神父へと向き直りました。
その横顔は凛々しく自信に満ち、つい見惚れてしまいます。
彼のこの姿を、いつか違う席から見るのではないかと、二年前に思いました。
ですがこうして一番近くで彼を見つめることが出来て、私はとても幸せです。
◇◇
「このふたりの結婚に異議のある者は今すぐ申し出よ、さもなくば永遠に沈黙せよ」
神父が参列者にそう尋ねました。
礼拝堂は静けさを保ったまま、神父が次の言葉を発しようとした瞬間――。
「い、異議があります! 私は、こっ、こんな結婚、認めません!」
礼拝堂に聞きなれた少女の声が響きました。
声の主は、二列目の席に立つ、私の妹のカーティアです。
場は静まり返ったまま、参列者はカーティアへと好奇の目を向け、ヨハンはそちらへ呆れた眼差しを向けると、私の手を握りしめてくれました。
「異議がおありですか?」
神父の素朴な問いかけに、カーティアは興奮した様子で言い返しました。
「は、はい! だって、お姉様は辺境伯様の後妻だって聞いていたから婚約をしましたのよ! ヨハン様だなんて聞いていません。これは詐欺ですわ!」
カーティアの言葉に一番に反応を示したのはアルドでした。
「詐欺ではありません。正式な契約書は両家に存在します。姉と離れたくない妹の妄言ですので、どうぞ続きをっ」
「アルド! 妄言ですって!? それでは私が頭のおかしい女みたいじゃないっ。訂正なさい!」
ヨハンの手に力がこもり、「人の結婚式で、この屑女が……」と声が漏れ聞こえ、ヨハンが声を上げようと大きく息を吸い込んだ時、カーティアの隣にいる男性が笑い声を上げました。
「はははっ。ロジエ家の方々は、面白いのですね」
2
お気に入りに追加
5,609
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる