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第五章 巫女と隣国の王子

004 狙い目は朝?

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 神獣様の人型の件について話すと、興奮したアレクと一緒にノエルの部屋へ押しかける事になった。
 神獣様はいつも通りのお姿でノエルと本を読んでいた。見ているのは植物の図鑑らしくて、街に何を植えたらよいのか勉強しているらしい。

 私達がなぜ部屋まで来たのか、朝の事も交えてノエルに話すと、彼はちょっと驚いていた。

「あー。恐らくそれは、普段お前が垂れ流してる魔力を睡眠中に潤沢に受けることで出来たのだと推測する。繋がりを深めればもう少し自由に形態を保てるようになると思う」 
「ということは、朝が狙い目って事かしら。でも、寝起きに神獣様に話しかけられると、夢か現実か分からないし緊張して言葉も出ないの」
「ふんっ。よくそんなんで巫女なんて出来るな」

 ノエルの言葉は最もだけど、あの神獣様を見たら使い魔の仔猫ちゃんみたいにテンパるに決まっている。

「ノエルは神獣様を直接至近距離で見てないからそんな悠長なことが言えるのよ」
「はぁ。だったら今のうちに質問しておけば良いだろ」
「あっ。それもそうね。ぇっ。何を質問したら良いのかしら」 

 アレクに話を触ろうとしたが、アレクは既に質問があるのか律儀に挙手していた。

「あ、気になっていることがあります。ネージュに連れて行かれた本物の巫女って、本当に異世界から来た少女なんですか? 神獣様は、姉様から鞍替えする予定はありますか?」
「キューピピ。ピピ」
「巫女は……神獣様が呼んだ異世界の少女だけど、鞍替え予定は無いそうだ」

 神獣様が答えられるとノエルが通訳してくれて、アレクはホッとした顔をしていた。

「ほぉ。良かった。ん? ノエル殿は通訳できるのか?」
「ああ。言ってなかったか?」
「し、知らなかった……。えっと、じゃぁ。その少女を、神獣様はどうされたいですか?」
「キュピィ」
「彼女が居たい場所に届けたい。それが巻き込んだお詫び。だそうです」
「巻き込んだか……。そうですよね。勝手に呼んで役割を押しつけて、そして邪魔なら処分だなんて、やっぱりおかいですもんね。姉様。絶対に、ミヤビさんを助けましょう。善は急げ。明日、ヴェルディエに立ちますよ!」

 神獣様の言葉に気合を入れ直しアレクは明日の出向を決意した。

「おい。お前はいいのか? 質問」
「え? あっ。えっと。じゃあ。――も、もし。異世界に送り帰す力を行使したら、神獣様はどうなりますか?」
「キュピィ~ピピピ」
「次に会った時、お前だけに教えるって」
「えっ……」

 これって、次のデートの約束的なやつ? 違うか。
 神獣様はお好みの植物を見定めたらしく、本を猛烈につついてノエルにアピールしている。

「んじゃ。質問はここまで。明日、ここを立つなら仕度をしないと」
「そうだな。では、ここで失礼しよう。姉様、行きますよ」
「えっ。私も?」
「殿方の部屋に女性が居られるはずないでしょうが」
「あ。そっか。失礼しました」

 神獣様が気に入った植物がなにか知りたかったのに。
 それはまた今度にしよう。

 ◇◇

 夜、寝る前に神獣様が仔猫と現れた。
 いつも通り枕元で寝てしまったけれど、朝目覚めた時、もしかしたらまたあのお姿を拝めるのかもしれないと思うとドキドキする。
 そう言えば、ノエルの反応がちょっと薄かったな。神獣様が人型になられたなんて知ったら、もっと興奮するかと思っていたのに。
 神獣様が仔猫をノエルと呼んでいたし、ノエルは仔猫の見る世界も見えているのかもしれない。

「ずるいなぁ。ノエルは……」

 そう呟くと頭の上に視線を感じた。
 仔猫は立ち上がり、私をじーっと丸い瞳で見つめていた。
 今まで可愛いとしか思わなかったが、ノエルに見つめられているような気がしてきて、何だか複雑な気持ちになる。

「ああ。仔猫ちゃんがノエルに見えてきちゃった。ごめんね。仔猫ちゃんは仔猫ちゃんなのに」

 ナデナデしたらプイってそっぽを向かれてしまった。
 いつものちょい塩対応に不思議と安心した。 

「寝ましょう。明日また、人型の神獣様に会えるかもしれないのだし」

 なんて考えたら目が冴えてしまった。
 明日は早朝アレクに起こしてもらう約束をしている。
 二人で神獣様にご挨拶するんだ。
 多分アレクは目を丸くして驚いて、もしかしたら余りの神々しさに神獣様を拝んでしまうかも。
 そんな妄想をしていたらいつの間にか夢の中に落ちていった。

 ◇◇

 翌朝アレクに起こされて飛び起きるも、神獣様はいつものお姿でスヤスヤと眠っていた。アレクは少し残念そう。

「毎回お話できる状態になるとも限らないのですね」
「そうみたいね。あら? 今日は仔猫ちゃん早起きだったのかしら?」
「仔猫とは?」
「ノエルの使い魔の仔猫ちゃんよ。寝る時はいつも一緒よ」
「へぇ~。使い魔を扱えるとは、ノエルも大したものですね」

 使い魔を扱えるって凄いことなんだ。
 アレクなら知っているだろうか。

「やっぱりノエルには使い魔が見たものが見えているのかしら」
「さぁ? 熟練者であれば見聞き出来ると聞きますが、ノエルはまだ若いですから、危険を察知するくらいではないですかね」
「そっか。あっ今日はヴェルディエに向けて船に乗るのよね」
「はい。姉様、船酔い大丈夫ですか?」
「私、船酔いするの!?」
「昔は、ですけど。小さい頃に船酔いして、船は避けてましたよ」

 昨日乗ったなら、平気かな。とアレクは言葉を足して準備があるからと部屋を出ていった。
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