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第四章 海賊とお隣さん
005 消えない光
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それから一週間。海側の住民も手伝い、街の復興が始まった。初めて海側の住民と顔を合わせたけれど、それは私だけで、アレクやレナーテは海側の住民とも親しくしていた。
私へ向ける人々の目には、軽蔑と怒りが込められていた。
それでも、アレクとゼクスの後押しを得て、私は街の住居の掃除を毎日手伝った。ノエルも誘ったけれど、オリーブ畑で英気を養うと言って、神獣様を口実に逃げられている。
そして、知識の豊富なゼクスから、私は様々なことを教えてもらった。
『トルシュ』とは、『松明』を意味し、闇を照らすことから、人を導く英知の光という意味をもっているらしい。
この国の起源は船乗りたちのために建てられた灯台だったそうだ。それは船乗り達を導く光としてトルシュと呼ばれ、ある夫婦が灯台守になってから、次第に国へと発展していったそうだ。
ゼクスは暗い森の中で、この国の名のようにトルシュに消えない光を灯すことができないか、神獣の炎について研究をしていたそうだ。
ある夜、バルコニーで街の灯りを見下ろしながらゼクスは言った。
「ずっと灯りが欲しかったのです」
「あ、あかり?」
「は、はい。……暗い森で、私は温かな灯りを、ずっと恋しく思っていました」
乙女ゲームであったような台詞を急に食らった。これはライトとか電灯とかそっちの意味で私じゃない。そう分かっていても、気恥ずかしくなってしまって、私は多分紅くなった顔を隠すように俯いた。
「クラルテ様?」
「ぁ、えっと。神獣様に相談してみましょう。ゼクスの研究のこと」
「ありがとうございます」
私とノエルが仲介して、神獣様に相談すると、あっさりと消えない火種を作る事に成功した。研究はほぼ完成していて、後は神獣様の力を借りられれば良い状態だったのだ。
そしてアレクの発案で、それをランタンに灯し一軒一軒に配給する計画が生まれた。
住民たちとの触れ合いのきっかけになれば、ということで、ランタンを配る任務は私に託された。神獣様とノエルと三人で家々を回り、簡単な使い方を説明して手渡すと、街の人々は頬を綻ばせ御礼を言ってくれた。
ただ、私は居ないもののように視線を外され、みんな神獣様へ御礼を述べていた。神獣様はとても嬉しそうで、私はそれで満足だった。
でも、その日を境に、私に話しかけてくれる街の人が少しずつ出てきて、それは徐々に増えていった。
ある日、花の種を取りに城へ戻るとロイさんに遭遇した。
恐らく今後の物資について、アレクと話をしていたのだろう。
「おや。巫女様。だいぶ街の方とも打ち解けてきましたね」
「ロイさん」
ロイさんは今も宿屋に滞在中だ。神獣研究家と名乗っていたが、他国のくらしについても関心があるらしく、かなり復興の手伝いをしてくれている。
神獣様の復活により呪いの森の焼失を予想していたロイさんは、建物の修繕用の木材や植物の種や苗、そして食料を沢山ヴェルディエから船に積んできてくれていた。
それを全て無償で差し出し、尚且つ自ら畑を耕し、そして炊き出しまでこなす謎のハイスペック青年だ。
ただ、異世界の記憶のことや神獣の巫女の話は、あれから一度もしていない。ゼクスと友好の証についての会話や、ノエルと神獣様についての会話は何度も耳にしたが、私は異世界から来た巫女ではないと判断されたのか、あれっきり顔を合わせても話題にすら上がらない。
私自身も気にはしていたけれど、そんな話をしている時間も考える余裕もなく過ごしていた。
ロイさんと二人きりなんて滅多にないし、今は話を聞く良いチャンスかもしれない。
「巫女様は、本当の巫女はいらっしゃるとお考えですか?」
「へっ?」
私から巫女の話を振ろうとしていたのに、先に聞かれて面食らってしまった。もしかしたら、ロイさんも機会を伺っていたのかもしれない。
「今、ヴェルディエでは巫女探しが活発に行われています。存じていらっしゃいましたか?」
「いいえ」
「テニエの王子が、巫女を探し出して先祖の無念を必ず晴らすと明言しましたので、ヴェルディエも負けていられないといったところで」
ロイさんは割りと物騒な話を明るい口調で話している。
彼はどんな認識でこの話をしているのだろうか。
「それは……巫女を抹殺する。といった着地点で探されているのですか?」
「何故、そう思われたのですか?」
「この世界の人々は、巫女を恨んでいる。とアレクから聞きましたので」
この世界の人々は、ですか。と呟くと、ロイさんは私の瞳をじっと覗き込むようにして言葉を紡いだ。
まるで私の心を読もうとしているかのように。
「ロベールは、巫女を消し去るつもりでいます」
私へ向ける人々の目には、軽蔑と怒りが込められていた。
それでも、アレクとゼクスの後押しを得て、私は街の住居の掃除を毎日手伝った。ノエルも誘ったけれど、オリーブ畑で英気を養うと言って、神獣様を口実に逃げられている。
そして、知識の豊富なゼクスから、私は様々なことを教えてもらった。
『トルシュ』とは、『松明』を意味し、闇を照らすことから、人を導く英知の光という意味をもっているらしい。
この国の起源は船乗りたちのために建てられた灯台だったそうだ。それは船乗り達を導く光としてトルシュと呼ばれ、ある夫婦が灯台守になってから、次第に国へと発展していったそうだ。
ゼクスは暗い森の中で、この国の名のようにトルシュに消えない光を灯すことができないか、神獣の炎について研究をしていたそうだ。
ある夜、バルコニーで街の灯りを見下ろしながらゼクスは言った。
「ずっと灯りが欲しかったのです」
「あ、あかり?」
「は、はい。……暗い森で、私は温かな灯りを、ずっと恋しく思っていました」
乙女ゲームであったような台詞を急に食らった。これはライトとか電灯とかそっちの意味で私じゃない。そう分かっていても、気恥ずかしくなってしまって、私は多分紅くなった顔を隠すように俯いた。
「クラルテ様?」
「ぁ、えっと。神獣様に相談してみましょう。ゼクスの研究のこと」
「ありがとうございます」
私とノエルが仲介して、神獣様に相談すると、あっさりと消えない火種を作る事に成功した。研究はほぼ完成していて、後は神獣様の力を借りられれば良い状態だったのだ。
そしてアレクの発案で、それをランタンに灯し一軒一軒に配給する計画が生まれた。
住民たちとの触れ合いのきっかけになれば、ということで、ランタンを配る任務は私に託された。神獣様とノエルと三人で家々を回り、簡単な使い方を説明して手渡すと、街の人々は頬を綻ばせ御礼を言ってくれた。
ただ、私は居ないもののように視線を外され、みんな神獣様へ御礼を述べていた。神獣様はとても嬉しそうで、私はそれで満足だった。
でも、その日を境に、私に話しかけてくれる街の人が少しずつ出てきて、それは徐々に増えていった。
ある日、花の種を取りに城へ戻るとロイさんに遭遇した。
恐らく今後の物資について、アレクと話をしていたのだろう。
「おや。巫女様。だいぶ街の方とも打ち解けてきましたね」
「ロイさん」
ロイさんは今も宿屋に滞在中だ。神獣研究家と名乗っていたが、他国のくらしについても関心があるらしく、かなり復興の手伝いをしてくれている。
神獣様の復活により呪いの森の焼失を予想していたロイさんは、建物の修繕用の木材や植物の種や苗、そして食料を沢山ヴェルディエから船に積んできてくれていた。
それを全て無償で差し出し、尚且つ自ら畑を耕し、そして炊き出しまでこなす謎のハイスペック青年だ。
ただ、異世界の記憶のことや神獣の巫女の話は、あれから一度もしていない。ゼクスと友好の証についての会話や、ノエルと神獣様についての会話は何度も耳にしたが、私は異世界から来た巫女ではないと判断されたのか、あれっきり顔を合わせても話題にすら上がらない。
私自身も気にはしていたけれど、そんな話をしている時間も考える余裕もなく過ごしていた。
ロイさんと二人きりなんて滅多にないし、今は話を聞く良いチャンスかもしれない。
「巫女様は、本当の巫女はいらっしゃるとお考えですか?」
「へっ?」
私から巫女の話を振ろうとしていたのに、先に聞かれて面食らってしまった。もしかしたら、ロイさんも機会を伺っていたのかもしれない。
「今、ヴェルディエでは巫女探しが活発に行われています。存じていらっしゃいましたか?」
「いいえ」
「テニエの王子が、巫女を探し出して先祖の無念を必ず晴らすと明言しましたので、ヴェルディエも負けていられないといったところで」
ロイさんは割りと物騒な話を明るい口調で話している。
彼はどんな認識でこの話をしているのだろうか。
「それは……巫女を抹殺する。といった着地点で探されているのですか?」
「何故、そう思われたのですか?」
「この世界の人々は、巫女を恨んでいる。とアレクから聞きましたので」
この世界の人々は、ですか。と呟くと、ロイさんは私の瞳をじっと覗き込むようにして言葉を紡いだ。
まるで私の心を読もうとしているかのように。
「ロベールは、巫女を消し去るつもりでいます」
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